第57話 補欠
一話投稿です。ちょっと短いです。
この会場には、フィーラが知るだけで、二人の正式な精霊姫候補がいる。ステラとリーディアだ。あの二人を起こせば、事態は変わるのだろうか?
フィーラがメルディア公爵家を通じて、学園と精霊教会へ己の処遇を問いただした際、帰ってきたのは意外な答えだった。
「補欠?」
「そう。正当な候補ではないけれど、君はいまだに精霊姫の候補のままだよ」」
精霊教会からの返事を、精霊教会からの書状を添えて、マークスが伝えてくれた。
書状を開き文面を確認したがマークスの言っていることと変わりはなかった。
精霊教会が一度はフィーラを候補から外す決定をしたあと、複数の精霊からの申し出があったらしい。
どのような申し出であったかは書かれていないが、そのため一旦候補を外すことは辞めたようだ。
―だったら、早くそれを教えてほしかったわ…。
そうは思ったが、精霊教会とて暇ではないのだろう。そう思うことで気持ちを収めた。
とにかく、フィーラはいまだに精霊姫候補のままだった。ただし補欠。
―補欠…。精霊姫候補で補欠ってありなのかしら?
正式な候補と補欠の候補の間で、何か変わるのか。補欠の候補が精霊姫に選ばれることなどあるのか。
疑問は尽きなかったが、精霊姫候補の辞退は、基本認められていないため、フィーラとしては精霊教会の答えを受け入れるしかなかった。
現在、この場にいる正式な精霊姫候補は二人、補欠のフィーラを入れると三人。よりによって意識があるのが、補欠のフィーラしかいない。
あの二人を起こせばどうにか現状を変えられるのではないかと思ったのだが―。
―いいえ。それで助けられるのならば、あの三人がそれを実行しない理由がないわ。…本当に…本当にサルディナ様はもう助からないの?まだサルディナ様の意思は残っているようだったわ。それに、魔としての力はまだ使っていない…今の惨状は、瘴気があふれ出ただけのものだわ。
ディランと黒髪の男、それにいつの間にか戻ってきていたクリードは、タイミングを見計らっているのかいまだに動く気配はない。今ならまだ間に合うかもしれない。そう思ったフィーラは、先ほど自分と話をした魔を表に引きずり出そうと考えた。
交渉の余地があるかもしれないと思ったのだ。
「ねえ!出てきて!話があるの!」
急に大声で叫びだしたフィーラに、ジークフリートや、聖騎士の三人がぎょっとした顔をした。よもや恐怖で気がふれたのではないかといった顔だ。
「あなた、聞いている⁉先ほど、わたくしと話していたあなたよ⁉」
「フィーラ嬢?何を言っているんだ?」
「さきほどわたくしと話していた男ですわ!ジークフリート様!」
「男だって…そんな奴、どこにいたんだ?」
「…え?」
ジークフリートの言葉に、フィーラは固まる。時間を稼いでほしいとジークフリートに言われたから、フィーラはあの男と話をしたのだ。それなのに、覚えていない?
「ジークフリート様が時間を稼いでほしいとおっしゃったあの時ですわ。ジークフリート様も聞いていらしたでしょう?」
「…確かに、君は魔に憑かれた彼女と話をしていたよ。そのことにも驚いたけれど…けれど、男はいなかった」
「いえ、そういうことでは…」
言いかけてフィーラはあることに思い至った。サルディナからはサルディナの声と、男の声、二人分の声が聞こえてきたのだが、もしかしたら、その男の声は、ジークフリートには聞こえなかったということだろうか。
「…どういうこと?」




