表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/206

第55話 再会

今夜は一話投稿します。



 サルディナの体から黒い靄が噴出したその瞬間、ジークフリートがフィーラの体に覆いかぶさった。


「ジークフリート様!」


 

 黒い靄が、生き物のように会場内を這って広がっていく。それはまるで、バケツの水をまき散らかしたかのように、サルディナを中心として円を描き広がっていった。


 あっという間に会場の隅々にまで満ちた靄は、それ以上広まることはなく、会場を満たしたまま揺蕩っている。



「ジークフリート様!」



 黒い靄の動きが止まったのを頃合いとみて、フィーラはもう一度、自分を守ろうと覆いかぶさっているジークフリートの名前を呼ぶ。


「…ああ。フィーラ嬢。…大丈夫だ」

「…良かった」


 ジークフリートの声を聴き、フィーラはほっと息を吐く。


 ジークフリートがゆっくりとフィーラから体を離す。起き上がったフィーラは会場内を見まわし、その惨状に息を飲んだ。


 会場内にいる者は、フィーラとジークフリートを除き、すべて倒れこんでいる。いや、そうではない。噴き出した靄の中心にいたサルディナも、一人その場に佇んでいた。



「何だ…これは?」


 ジークフリートが周囲とサルディナの様子を見て、つぶやいた。


 サルディナは焦点の合っていない目を見開き、瞬き一つしていない。その異様な光景に、フィーラも思考が停止したまま、何の言葉も出てこない。

 しかし、サルディナの傍に倒れているロイドの姿を認めた瞬間、止まっていた思考が動き出した。


「お兄様!」


 フィーラの声に反応し、サルディナがゆっくりとこちらを振り向いた。


『…何だ。お前。動けるのか』



 それはサルディナであって、サルディナではなかった。


 女性と男性、両方の声が重なるように響いてくる。言語の同じ主音声と副音声を同時に聞いているような感じだ。


 今のサルディナは、おそらく魔に憑かれた状態とみていいだろう。

 しかし、魔が意思を持って喋るとは、今まで聞いたことがない。魔に憑かれた者は、たいていが人としての自我を失い、まるで獣のようになるという。だが、サルディナの場合は明らかに様相が異なる。

 隣のジークフリートを見ても、驚きに目を見開いていた。



『この瘴気の中でも動けるとは、大したものだ。しかも、その男にまで結界を張ったのか』


「…何を、言っているの?」


『ああ、自分でも分かっていないのか。どうするべきか…。今はまだ弱い。今のうちに消しておくか…?』


 消しておく。

 魔が放ったその言葉に、フィーラの血の気は引き、体が震え始める。

 サルディナの紅玉の瞳に映ったフィーラの姿は、まるで血に染まっているかのように赤い。


「…フィーラ嬢。今、私の守護精霊を介して、大聖堂へ連絡を入れた…すぐに聖騎士が来るはずだ…」


 ジークフリートがフィーラの耳の近く、囁くように告げる。


「…あれが魔であれ、精霊であれ、好奇心が強い性質は同じはずだ。聖騎士が連絡を受けて到着するまで、さすがに数分はかかるだろう。どうにか話をして時間を稼げないか…」


「…時間を…?」

 

 あれを相手に、時間を稼げというのか。


「…ああ。どうやら彼女は君に興味を持っているようだ。ほんの数分で構わない…」


 フィーラは無意識に唾を飲み込む。


「…やってみます…」



『話はついたか?』


 サルディナに憑いた魔が、フィーラに問う。


「…ええ。もしかして、わたくしたちが話終わるのを待っていてくれたのかしら?」


 フィーラは腹に力を籠め、声の震えを少しでも抑えようとする。


『そうだな。そこの男の精霊が動いただろう。大聖堂へ連絡を入れたのだろうと思ってな。久しぶりに、聖騎士と手合わせするのも悪くない』


「…どういうこと?聖騎士と戦ったことがあるというの?」

『そうだ』

「…あなたは、一体何者なの?」


 ここまで自我のはっきりとした魔など、本当にいるのだろうか。不可思議な男の態度に、いつの間にかフィーラの震えは治まっていた。


『わたしが何者か…か。お前たちの言葉を借りれば、わたしは魔という存在になるのだろう』


「本当は違うということ?」


『人間というものは、一方向からしか物事を見ない。すべてではないが、そういった者が多い。お前と、そこの男は別のようだがな』


 魔は、サルディナの首を斜めに傾げる。相変わらず瞬きのひとつもしていない様は、サルディナが美しいだけに、なおのこと異様に映る。


「…サルディナ様は無事なの?」

『さあな。体は無事だろうが…精神は分からんな。この娘はそこまで強くはない』

「そんな…。…どうしてサルディナ様を」


『この娘が望んだからだ』

「サルディナ様があなたを望んだというの?」

『そうだ。正確には、望んだのはわたしではなく、力だが』

「力…?」

『そうだ』

「力っていったい…」



 ふいに、キーンとした超音波のような音がフィーラの耳に届いた。



「…来たぞ」

 

 

 聖騎士の来訪を、ジークフリートが告げる。



 音が止み、フィーラの目の前数メートル先に、風が巻き起こる。

 その風によって、フィーラの周りに先ほどまで充満していた靄が取り払われた。


 そして聞こえてきた聞き覚えのある声。




「また君か、お嬢さん」


しばらくシリアス?が続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ