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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第47話 デュ・リエール4



「…まるでおとぎ話の世界ね」




 高い天井から下がる、豪奢なシャンデリア。


 その煌びやかな明かりの下では、色とりどりのドレスを着た少女たちが、エスコートの男性に手をとられ、くるくると踊っていた。


 己もそのうちの一人なのだと思うと、急に、ここは夢の中の世界ではないかという思いが湧き出てきた。


 本当のフィーラはきっと、ベッドの中で眠っているのだ。

 そう、夢を見ながら。





 幼い頃に読んだおとぎ話の世界に、前世のフィーラは憧れていた。


 動くたびに、ひらひらと揺れるドレス。互いに微笑みあう、男女のさざめき。万華鏡のように煌めくシャンデリアの光。

 まさに、幼い頃に夢見た世界だ。


 こんな世界が、日本の六畳一間のワンルームで生活する自分の人生に現れるはずがない。これはきっと夢だ―。


 そう、きっと―。





「どうした?フィーラ」


 夢の世界から引き戻されたフィーラは、己の名を呼んだ相手を見やる。


 シャンデリアの光に照らされ輝く、金色の髪。極上の翠玉にも似た瞳。おとぎの国の王子様と言っても、決して過言ではないその美貌。


―まあ、実際王子様なんだけれどね…。


 目の前の男-サミュエルを見据え、フィーラは小さくため息をついた。


―いけない。幸せが逃げちゃうわ。…でも、すでに窮まった感があるわね。


 なぜこうなったのか。

 

 ことの発端は数時間前に遡る―。













 王宮の舞踏会場内は、今日のデュ・リエールを迎える令嬢と、令嬢の相手を務める男性たちで賑わっていた。

 他国の人間を含め、すでに侯爵家までの入場は済んでおり、残すは三つの公爵家のみ。

 

 最初の入場は、ゴールディ公爵家。次いでセルトナー公爵家、最後にメルディア公爵家の番となる。


 まず、入場してきたのはセルトナー公爵家の四女リーディア。リーディアは精霊姫候補でもある。

 明るい金茶の髪に、群青の瞳を持つ、清楚な美貌の愛らしい令嬢だ。

 珊瑚色のドレスは、彼女の魅力を更に引き立てている。隣にたつ男性は彼女の兄だろうか、面差しが似ていた。

 

 次に、ゴールディ公爵家の長女サルディナ。深みのある赤い髪に、紅玉の瞳を持つ大人びた美貌の令嬢だ。

 薄い水色のドレスが、知的な印象を加えている。サルディナの手を取るのは、サルディナと同じ髪色の男性。こちらも親族だろう。


 公爵家二家が入場し、会場は一層賑やかになった。


 

 高位の貴族は美貌の者が多い。爵位が上になればなるほど、それは顕著だ。


 普段は声をかけることなど考えられない、爵位が上の男性相手にも、今日という日は遠慮なく女性側からダンスの誘いをねだることが出来る。


 男性側もしかり、今日だけは壁の花となる女性を作ってはならないという暗黙の掟があるため、一人でいる女性には、男性は義務として声をかけなければならないのだ。


 少々高望みの相手であっても、今日ならば、男性側の義務として、ふられる言い訳を携えて誘いをかけることができる。

 


 公爵家の者たちは皆、美しかった。リーディアもサルディナも、それぞれのパートナーも。

 

 そして、最後のメルディア公爵家。五つある公爵家の中で、最も美貌を誇っているのがメルディア公爵家だ。


 メルディア公爵家の長女フィーラは、今日一番注目されていると言っても良い、渦中の令嬢だった。




 


 メルディア家の我儘姫がどうやら変わったらしい。

 

 それは今、巷でまことしやかに囁かれている噂だ。



 

 ある者は、学園に通う弟妹から聞き、ある者は実際に自分の目で見て、かの令嬢の変わりようを至る所で吹聴した。

 

 今日のデュ・リエールに集う主役の令嬢たちは、すでに学園で一度はフィーラを見ている者が多い。しかし、それも遠巻きに見たに過ぎなかったため、以前より派手さはなくなった、癇癪が鳴りを潜めた、という程度の認識しか持っていなかった。

 

 デュ・リエール前の令嬢は、公の場である社交界には出てこない。

 

 出られるのは、親しい縁戚関係にある家の舞踏会や、婚約者がいた場合、婚約者の家で開かれる舞踏会だけだった。

 しかし、舞踏会にはその家とつながりがある、さまざまな貴族が出席している。


 デビュー前の若者に多少の配慮は見せても、その家にもその家の都合があるため、敵対する家同士の人間が鉢合わせてしまうことも、ままあった。


 そうなると、悪い噂というものは、瞬く間に社交界へと広がっていく。噂には、あることないこと面白おかしく、尾びれ背びれがついてしまう。

 

 フィーラに対する悪評。癇癪持ちの我儘姫という評価も、人から人へ、ほんの少しの悪意を込めて、実際よりも大げさに伝えられていた。


 しかも、精霊姫候補を一旦外されたはずなのに特別クラスにいるらしい、という噂も、人々の関心を集めていた。

 …メルディア公爵家の権力を使ったのだと、口さがないことを言うものも多数存在した。



 ともかく、その噂の真偽を、今日、すべてとはいわないまでも、ある程度は知ることが出来るだろう。そう思って、娘や妹の付き添いとしてこの舞踏会に参加した者は多かった。


話しが動くと言いつつも、動くまでが長いですね…すみません。

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