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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第45話 デュ・リエール2



「まあ、お嬢様!お似合いですわ」


「本当?」


「「「もちろんです!」」」




 午後、アン、ナラ、アルマに囲まれドレスの試着をしたフィーラだったが、久しぶりに着た正装に、少々の違和感が拭えない。


―何か、すごく、派手ではないかしら?


「ねえ?ちょっと派手ではない?」


「「「そんなことありません」」」


 先ほどからなぜか三人、息が合っている。


 キラキラとした彼女たちの目を見れば、お世辞というわけでもなさそうだが、普段使いのドレスと、学園の制服に慣れてしまったフィーラからすると、デュ・リエールのドレスはとても仰々しく感じる。

 

 フィーラがそれでも腑に落ちないという顔をしていると、アルマが言った。


「お嬢様、デュ・リエールでこのドレスなら、派手すぎるということはございません」

「そうなの?」


「はい。むしろ以前着ていたドレスのほうが、あり得ませんでした」

「…うう」


 痛いところをついてくる。が、確かに以前のフィーラは毒々しい原色を好んで着ていたため、化粧の力も相まってなかなかの毒女っぷりを発揮していたものだ。


「このドレスを着たお嬢様は、きっと会場中の注目の的ですね」


 アンがにこにこしながら言ってくるが、悪目立ちでないことを切に願う。


「お嬢様、そろそろロイド様をお呼びしますか?」


 ナラがフィーラに伺いを立てる。

 フィーラのエスコートはロイドに頼むことにしたため、色合わせのために今日はロイドにもスタンバイして貰っているのだ。


「ええ。お願い」

 

―お兄様はきっと何を着ても似合うだろうから、問題はわたくしのドレスとの兼ね合いよね。


 ロイドのストロベリーブロンドに淡い紫の瞳は、フィーラの薄い金の髪と、青緑の瞳とはあまり合わない。

 と、以前のフィーラは思っていた。


 ロイドやゲオルグ、周囲の人間はそんなことはないと言ってくれたが、どうにも自分の容姿にコンプレックスがあったフィーラには、その言葉が届いていなかった。


―わたくしも、前世の記憶を思い出してからしばらくは、以前のわたくしに引きずられていたけれど…。わたくしって、実はそんなに悪くないんじゃない?と、最近は思うのよね。


 


 メルディア家の人間は、美貌で名を馳せている。


 父であるゲオルグや兄であるロイドはもちろん、フィーラの亡くなった母も、社交界の華、ティアベルトの宝玉と謳われた美貌を持っていた。


 そんなフィーラは、所謂サラブレッドだ。少なくとも、標準以上の美貌を持っていて当然なのだ。

 

 しかし以前のフィーラは何故かいつも濃い化粧をほどこしていたことと、あとは、常に機嫌が悪かったため、本来よりも険しい顔つきになっていた。


 けれど、今は化粧はほとんどしていないし、常に笑顔を心がけているため、以前のフィーラとは違い、周囲に与える印象は段違いに良いはず。

 

 この色素の薄い髪も、以前の濃い化粧には似合わなかったけれど、今のフィーラには、似合っている。

 

 青緑の瞳も、アイライナーで取り囲んでいた際には不気味な印象だったけれど、今は肌の白さとの対比で、涼やかな印象となっている。


 前世のフィーラの感覚からすると、まるで生きたビスクドールのように愛らしい。


―こう思えるようになったのも、本当、最近なのよね。


 

 学園で、年相応の令嬢たちを見たフィーラは、どの子も素直に可愛らしいと思った。

 可愛い子も、綺麗な子も、凛々しい子もいた。皆若さにあふれ、それぞれの魅力を放っていた。 

 そして思ったのだ。わたくしだって、そうなのだと。


 前世の記憶が戻ってからも、自分のこれまでの行いは客観視できても、どうしても自分に対する評価に関しては、正確な判断が下せなかった。

 それは、いままでフィーラが言われてきた心無い言葉にも関係しているのかもしれない。



 自分は愛らしくない、可愛げがない、誰からも愛されない。その思いがどうしても抜けなかったのだ。それはまるで洗脳に近いものだった。



 部屋の扉がノックされる。フィーラは考えを中断し、返事をした。


「はい」


「お嬢様、ロイド様をお連れしました」


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