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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第24話 精霊姫と七人の騎士



 前世の記憶が蘇ったことを抜きにすれば、ここまでの流れはステラが前世にやりこんでいたゲーム『精霊姫と七人の騎士』、略して『姫騎士』の流れそのままだった。

 

 平民だった少女が、精霊に見いだされ、学園で他の候補者たちと切磋琢磨し、王族や、聖騎士、精霊士やその候補者たちとの恋を育み、精霊姫に選ばれる。いわゆるシンデレラストーリーだ。


『姫騎士』はとにかく人気が出たゲームだった。大手ではない制作会社から出たゲームだったが、ビジュアルの美しさや音楽、世界観やキャラクター設定に力を入れており、中小企業ならではのこだわりの詰まった逸品だった。

 しかし、そこもこだわりだったのか、キャラクター関連のグッズなどはいっさい販売せず、乙女ゲームとしての販売にも関わらず、スチルさえないという徹底ぶり。だからこそのビジュアルの美しさだったのだろうが、それにはさすがに購買者から苦情が出たらしい。

 しかし製作者側は一貫して、グッズもスチルも出さないという当初の姿勢を貫いた。


 ステラも当初はスチルすらないことを残念に思ったが、ゲームに嵌っていくにつれ、逆にそれも良いかと思い直した。

 軽々しく手に入らないキャラクターたちは、ステラの中でどんどん存在感を増した。


『姫騎士』が売れた理由のひとつ、設定の秀逸さは、その攻略対象の多さにもあった。攻略できる対象は計十四人。しかしその半分は通常のルートでは攻略できない、いわゆるモブキャラクターたちだ。

 

『姫騎士』の正式攻略対象は、ティアベルト王国王太子サミュエル、ティアベルト王国メルディア公爵家嫡男ロイド、タッタリア王国侯爵家三男エリオット、ティアベルト王国侯爵家三男ジルベルト、精霊士兼教師でありカラビナ王国伯爵家次男のマークス、フォルディオス王国子爵家次男クレメンス、現役の聖騎士であるカーティスの七人だ。しかし、ある方法を用いると、残りの七人の攻略も可能となる。

 

 その裏攻略対象がテレンス王国王太子リディアス、フォルディオス王国第二王子ジークフリート、タッタリア王国第五王子ハリス、テレンス王国伯爵家四男ウォルク、ティアベルト王国男爵家三男テッド、カラビナ王国男爵家次男トーランド、ティアベルト王国公爵家次男であり近衛騎士であるルーカスの七人だ。


 

 しかし、もう一人、『姫騎士』には根強い人気を誇るキャラクターがいた。

 

 それが聖騎士のディランだ。ディランは攻略対象ではない。だが、精霊姫となった暁には、ディランが筆頭騎士のひとりとなる。そのことから、精霊姫となってはじめて攻略できる隠しキャラではないかとの推測がネット上では飛び交っていた。

 

 そしてその推測通り、一回のプレイで十四人すべてを攻略し、なおかつ十四人の誰も選ばずに精霊姫になったときに限り、ディランを攻略できる裏ルートが発現することを突き止めたプレイヤーがいたのだ。

 そのことを知った時、ステラは狂喜した。これでようやくディランを攻略できると思った。だが、それは思っていたよりも簡単なことではなかった。


 攻略対象の十四人という多さがここで裏目にでたのだ。しかも裏攻略対象のルートを引き出すには、様々な事柄をすべてクリアしていかなければならない。

 

『姫騎士』には非公式のファンクラブまでできていたが、そのファンクラブの情報でも、ディランを攻略できたものはたった数人しかいなかった筈だ。そしてそのいずれも相当なゲーム廃人という噂だった。

 実際にディランを攻略したプレイヤーの話を聞いたが、正に人生のすべてを『姫騎士』に捧げ、仕事すらせずに日がな一日ゲームの攻略を考えているような、とてもステラには真似できない情熱の傾けかたをする人たちだった。


 自分には全員攻略は実質不可能。ある程度過ぎた頃合いに、ステラはそう判断した。普通のOLとして働いていたステラには、休日をすべて捧げてもなお、まったく時間が足りなかったのだ。

 


 前世のステラはディラン攻略を諦めていた。ファンクラブの情報から、その後の「ステラ」とディランのことを聞いて、あれこれ想像するに留まった。グッズやスチルはなかったけれど、二次創作に関しては緩かったため、同士が作った小説を読み、それで自分を満足させた。

 本音を言えば、自分自身でディランを攻略してみたかった。けれど、他の十四人も十分に魅力的で、いつしかステラはディラン攻略のことは考えなくなっていた。


 何回も何回もプレイをし直し、十四人の攻略対象全員を攻略した。それでも飽きもせず何度も何度も、攻略対象たちとの物語を紡いだ。

 自分でも相当入れ込んでいることには気付いていた。

 攻略対象との恋愛も楽しかったが、何よりも精霊姫になった際の「ステラ」の美しさ、その姿に憧れた。


 精霊たちが放つ光を受けて輝く、頭上に戴いたティアラ。白を基調に作られた優雅なドレスは、神話の女神を思わせた。現実の世界ではありえない、選ばれし者としての物語が、そこにはあった。


 だから、前世の記憶を思い出し、自分が『姫騎士』の「ステラ」に生まれ変わったと知った時、ステラは驚きと喜びで身体が震えることを止められなかった。両親はそれを恐怖からくるものと勘違いしていたけれど、「精霊姫候補として学びたい」と両親を説得し、一も二もなく男の提案に頷いたのだ。

実際にスチルのない乙女ゲームがあるのかは不明です…

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