第19話 特別クラス
特別クラスとは、次代の精霊姫を決めるときのみに設置されるクラスをいう。
今回は四十年ぶりにこのクラスが設置される。特別クラスの生徒は、精霊姫候補のみならず、将来、大聖堂や地方の聖堂、あるいは精霊の力が必要なそれぞれの王宮の部署で従事する精霊士候補が集まるクラスだ。
精霊姫候補は年齢が様々なため、同学年といえども多少の年齢差は出てくる。過去には十代前半と二十代後半の精霊姫候補が同時に在籍していたこともあったらしい。
精霊士候補も今回急遽集められた枠で、確か、十五歳から十八歳までと、年齢制限があった筈だ。
しかし、精霊士の場合、早くに教会に入る者が多いため、よほどのこだわりがない限りは、もう一度、学園で学びなおそうとする者はいない。
精霊士は特別クラスのないときは、教会に席を置き育成される。精霊姫の選定が行われる時だけ、その年に精霊士になると決めた者のみ、学園へとやってくるのだ。それ以外の生徒は騎士科と普通科に分かれる。これが通常の学園の姿だ。
ただし、騎士科と普通科、この二つの科について例外が二つある。
ひとつは次代の精霊姫選定にともなう聖騎士の選定により、精霊姫候補の特別クラスが設置されたときにのみ、騎士科に聖騎士候補を集め、その育成を現役の聖騎士が行うというものだ。
聖騎士は騎士ではあるが、精霊の力を駆使して戦うために通常の騎士とは戦い方が異なる。 だが、騎士であることには変わりはなく、騎士としての剣術、体術、その他の戦法などの基礎を疎かにすることは出来ない。
聖騎士候補の多くは現役の聖騎士、または各国の騎士団が推薦する腕の立つ者の中から選ばれるが、中には全くの素人が聖騎士に選ばれることもある。それはその者と、精霊との相性が騎士としての力量を上回る場合起こるのだ。
どれほど騎士としての腕が優れていようとも、精霊の力を使いこなせなければ、精霊との相性が良い、それまで剣を一度も握ったことのない相手に負けることもある。
聖騎士候補とされた者は皆、学園に集まる。それは精霊姫候補との顔合わせでもあるし、まったく騎士に所縁もない者が選ばれた場合の対処策でもあった。
そして、もうひとつの例外、それは聖五か国の王族に関してだ。通常、王族は、どこの国の者でも継承権一位の者は普通科の上位クラスに在籍することが決まっている。それ以外の王族は将来己の進む道によって、普通科か騎士科を選ぶ。王の補佐に着く者は普通科、軍に入る者は騎士科という具合に。
ただし、特別クラスのあるときに入学する聖五か国の王族に関しては、強制的に特別クラスに配分される。それぞれの国の精霊姫候補を補佐するという名目もあるが、聖五か国は常に精霊姫を中心に連携を取り合う必要があるため、顔つなぎの意味合いもある。
ロイドの情報だと、今年は聖五か国のうち、現精霊姫であるオリヴィアの生国テレンスから王太子が、ティアベルトからはサミュエルが入学する。この二人は本人が望む望まないにかかわらず、必ず特別クラスに配置される。
学園にはすでに二学年上、ロイドと同学年にフォルディオスの第二王子が、一学年上にはタッタリアの第五王子と、カラビナの第三王女がいる。
現在この学園には聖五か国の王族すべてが集まっているのだ。
さすがに学年の違う者を、また一学年から学ばせはしないが、特別クラスが設置された段階で、聖五か国の王族は現在暮らす寮を出て、特別クラス専用の寮に移ることになる。
この特別クラス専用の寮は普段使われておらず、特別クラスが設置されたときのみ使用される。
こうやって聖五か国の王族が揃い踏みするのは、実に二十年ぶりのことらしい。これには学園の運営側だけではなく、生徒側も浮き立っている。
息子や娘の頑張りいかんでは、精霊姫や聖騎士との繋がりだけでなく、聖五か国の王族との繋がりも期待できるからだ。
――まあ、わたくしにはもう関係ないわね。わたくしは平穏な学園生活をエンジョイするのよ。出来れば気の置けない友人も、一人か二人は欲しいわね。学食も楽しみだわ。お兄様が言っていた日替わりのメニューをぜひとも食べなくては。
これからの学園生活のことを色々と想像すると、自然と口元がほころんでくる。
いくら公爵家の人間だとしても、精霊姫候補も王太子妃候補も外れたフィーラに取り入ろうとしてくる人間はそうそういないだろう。自然、面倒ごととも距離を置くことになる。
おそらくフィーラのクラスは普通科の上位クラスだ。成績は悪くなかったらしいので、公爵家という地位も考えれば、そのあたりが妥当だろう。
――精霊姫候補、王太子妃候補という重荷がなくなった今、わたくしには結婚するまでの、つかの間の自由が与えられたのだわ。節度さえ保てば、誰の目も気にしなくていいし、誰に対しても忖度しなくていい……。以前のわたくしでは考えられないけれど……、これからの学園生活が本当に楽しみだわ。
フィーラは足取りも軽く、隣を歩くロイドを急かしながら、意気揚々と受付へと向かった。




