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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第18話 実は王子と従兄妹です



 フィーラの耳に、ステラの「ふあああ~今度はサミュエルだあ」というつぶやきが聞こえたが、聞かなかったことにした。

 位置的にロイドとサミュエルには聞こえていないらしい。



――相変わらずお綺麗な顔立ちをしているわ。髪もサラサラだし。……ちょっとうらやましいわね。


「ほう? サミュエル殿下、か。いつもは呼び捨てにしていただろう。変わったと言う噂が流れてきたが、どうやら本当のようだな?」


 形の良い唇を歪め、サミュエルが笑う。


――笑顔が笑顔に見えないわ…。お兄様とはまた違った怖さね。


「お恥ずかしい限りでございます。以前は大変失礼いたしました」

 

 フィーラはわずかに顔と瞼を伏せ、反省の意を表す。


「ああ、分かればいい。それよりも、ロイド。今そこの娘に名前を呼び捨てにしたのはどういう訳かときいていたな」


「……ああ」


「では俺もお前の妹に聞こうか? どういう訳で、俺の名前を呼び捨てにしていたのかと」


「……」


 ロイドの青筋が先ほどの比ではない。このままでは兄が不敬罪で処罰されてしまうのではないかと思い、フィーラは慌てて口を開く。


「サミュエル殿下、以前は大変申し訳ございませんでした。すべてはわたくしの不徳といたすところ。兄にも都度口うるさく言われてきたことでございます。それを無視していたのはわたくし。兄は相手が誰であろうと、礼儀を重んじます。ステラ様にも、わたくしに対してそうしたように、年長者としての、また高位の貴族としての義務を果たしたまででしょう」


「ほう……。まあ、そうだな。ロイドは誰に対しても口うるさい」


――余計なことを……一言嫌みを言わないと気が済まないのかっ……と、あら、ちょっとわたくしも口調に気を付けなければいけないわね……。お兄様のことを言えなくなってしまうわ。


「呼び捨てにされたことは、わたくしは何も気にしておりません。サミュエル殿下とて、わたくしの不敬をずっと許してくださいましたもの」


「そうだな。そこの娘はどうやら平民らしい。貴族とて間違うのだ。貴族の理を知らぬ平民ならばなおさらだろう」

 

 サミュエルがステラのほうを見る。当のステラはロイドとサミュエルを交互に見やり、何やらぶつぶつと興奮気味につぶやいていた。


――何をいっているのかしら? 今度はちょっとよく聞こえないわ。


「ええ。その通りですわ」


「では、この娘のことはもうよいな?ロイド」


「……ああ、そうだな」


 ロイドは相変わらず怒っているが、相手はステラではないだろう。昔からロイドとサミュエルはあまり仲がよろしくない。



――従兄弟だっていうのに……何でそんなに仲が悪いのかしら? まあ、わたくしも決して良いとは言えなかったけれど……。



「殿下、わたくしそろそろ行かなくては」


 早めに寮を出てきたが、思いがけずよけいな時間を食ってしまった。早く受付に行かなくてはいけない。


「ああ、まだ受付をしていないのか。だったら急げ」


「はい。御前失礼致します」


 制服のスカートの両裾をつまみ、片足を下げ軽く膝を曲げる。制服だと足首が丸見えなため、いつもより軽めの動作を心がける。



――前世を思い出してから、この挨拶、どうにも違和感が拭えないのよね。まあ、これをする文化圏ではなかったしね。



「行こうかフィーラ」


「はい。お兄様」


 ようやくの仕切り直しだ。さっそくサミュエルに会ってしまったが、婚約者候補のことについては何も言われなかった。まあ、その話を切り出せるような場面でもなかったのだが。

 だが、あのステラという少女のことは気になる。


――あの子、確かに『高校』って言ったわよね。もしかしてあの子も前世の記憶を持っているのかしら? あるいは、身近な人物がそうだとか? だとしたら、やっぱりちゃんと話をしてみたいわ。それに、七人の騎士と言っていたのも気になる。精霊姫と言っていたんだもの、七人の騎士も、きっと聖騎士のことよね。精霊姫に最初に付き従った聖騎士は十人の筈なのに……。


 あの少女に関しては気になることは色々とあったが、とにかく今は受付に行かなくてはいけない。そこで申請して、クラスを案内される。フィーラはもう精霊姫候補ではないため、特別クラスでないことだけは確かだ。



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