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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第11話 聖騎士

 


 聖騎士団とは、精霊姫と、精霊姫が坐す大聖堂を護る騎士たちのことをいい、初代の精霊姫を護るために付き従った十人の騎士たちが、その始まりとされている。


 現在の聖騎士は、二十人。少ない様に思えるが、聖騎士には精霊が守護としてつくため、一人一人が一騎当千の働きをすると言われている。また聖騎士団以外にも、聖五か国からそれぞれ、常に百人ほどの騎士が派遣されているため、守りとしては充分といえた。



「私の事とは、一体どのような……」


 何を言われたのだろうかと内心ビクビクしながら訪ねると、予想外の言葉が返って来た。


「見込みがあると」


 ディランの言葉に、テッドは思わず息を飲む。この男が聖騎士団の騎士と聞いた時に、ひとつの可能性が頭に浮かんだ。もしかしたら、新たなる聖騎士を探しに来たのではないかと。



 精霊姫が代替わりをする。


 それは精霊姫に従う、聖騎士の交代も意味した。


 交代する騎士は、通常の聖騎士とは異なる、筆頭と呼ばれる精霊姫直属の十人の騎士たちだ。

 

 筆頭騎士は聖騎士の中から選ばれる。

 当代の精霊姫と共に筆頭騎士となり、現在もその任を担っている騎士たちもいる。しかし、中には途中何人か交代する者もでてくる。それは大抵魔との闘いによる負傷が理由とされている。

 筆頭騎士に選ばれる基準は、強いこと、精霊との相性が良いこと、そして精霊姫から信頼されていること。


 筆頭騎士となった暁には、誰の命令よりもまず精霊姫の命令を優先させなければならない。そして、筆頭騎士としての進退は、その代の精霊姫とともにある。


 どれだけ筆頭であった期間が短くとも、精霊姫の交代とともに、己も筆頭騎士の任を辞さなければならない。


 しかし、当代の精霊姫に忠誠を誓った彼等は、精霊姫の交代に伴い、筆頭の任を解かれるが、そのままもう一度次代精霊姫の筆頭騎士に選ばれる者もいる。だが、長く従ってきた筆頭ほど、精霊姫の交代に伴い、聖騎士の職自体を辞する傾向にあるらしい。


 当代の精霊姫オリヴィア様は、聖五か国のひとつであるテレンス国の出身だ。オリヴィア様は精霊姫であると同時に、テレンス国の伯爵家夫人でもあった。今はご子息が伯爵となっているため、肩書としては精霊姫及び、元伯爵夫人だ。


 精霊姫は基本大聖堂で生活をするため、オリヴィア様がテレンス国のご自宅に戻るのは、月に数回と聞いたことがある。

 テレンス国は海を隔てた先にあるため、行き来するには陸路と海路で片道一週間以上かかる。精霊の力を借りて移動をするため、距離と時間は大幅に縮小されてはいるらしいが、大変なことには変わりない。


 それでも、精霊姫という役さえこなせば、結婚しようが、子どもを産もうが自由なのだ。精霊姫に純潔は求められていない。


 そのような理由から、精霊姫の伴侶と言う名誉に預かろうとする輩は多いため、そういった意味合いも兼ねて、聖騎士は精霊姫を護らなくてはならないのだという。


「精霊姫候補の選出については、君ももちろん知っているな?」


「……はい」


「では、聖騎士については」


「大体ですが……」


「それでいい。俺は今、聖騎士になる者を探している。当代の精霊姫の交代に伴い、筆頭騎士十人の席が空く。その中で聖騎士を辞す者が六人。筆頭騎士の選出は、精霊姫の交代と共に行われるから、それまでに補充する六人を確保したい。俺以外の他の騎士たちも目ぼしいものに当たりをつけている」

 

 ディランの話を聞き、テッドは自身の胸の鼓動が早まるのを感じた。期待をしなかったと言えば嘘になる。それはテッドでなくとも、騎士なら一度は夢見ることだからだ。

 

 だが、やはりそれが夢物語に過ぎないということもちゃんと分かっていた。この国のみならず、聖五か国から選ばれるのが、聖騎士だ。その倍率の中に、己が入れるとは到底思えなかった。


「このメルディア公爵家からは、過去二人の精霊姫が出ている。それと同時に、聖騎士も五人出ている。それは知っているか?」


「はい。存じております」


 その事実があればこそ、どれほどフィーラの評判が悪くとも、ここの護衛団は人気が高いし、同じく、その護衛団の中から結婚相手を探せるという特典があるため、侍女の人気も高いのだ。

 

 もっとも、侍女に関してはフィーラの我儘に耐えかねて辞めていく者も多いのだが、お給金は良いし、運が良ければ未来の聖騎士を捕まえられるかも知れないこともあって、結局は募集に対し、常に応募が大幅に上回る事態となっている。

 そもそもメルディア公爵家の使用人・護衛というだけで、世間では結構なステータスなのだ。


「うん。じゃあ、話は早い。俺は最低でも一人推薦しなければならない。それに君を推薦しようと思っている。ダグラスの一押しだからね。どうかな、受けるかい? 俺の推薦」



 夢ではなかろうか、とか、本当に俺で大丈夫なのか、など、様々な言葉が頭の中を過ったが、テッドの口から出たのは、是という言葉のみだった。


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