第102話 フォルディオスへやってきました
誤字報告ありがとうございます。いつも大変助かっておりますし、久々だと何やら嬉しいです。ですが名前まで間違えてましたね……。すみません、気を付けます(-_-;)
学園の転移門からフォルディオスの王宮の転移門へと移動したフィーラ達は、一足先に帰っていたジークフリートとエルザに出迎えられた。
「フォルディオスへようこそ! フィー」
今日のエルザは制服を着ていないが、やはり男物の服を身にまとっている。白と青を基調とした服は暑い夏の日には目にも涼しい。
それにいつも後ろで結んでいる長い髪は自然に背中に流れていて、いつもよりもさらに華やかさを演出していた。
対するジークフリートも蒸栗色のタキシードを来ている。知的で紳士的な雰囲気がジークフリートにはぴったりだ。
――二人並ぶとまるで兄弟のようね。
やはりエルザとジークフリートはよく似ている。ロイドとフィーラよりもよほど兄妹に見えた。
「よろしくお願いいたしますわ。エル。ジークフリート様」
「しかし、これまた精鋭を連れて来たな。二人とも今日はフィーラ嬢の護衛かい?」
ジークフリートはフィーラの護衛としてついてきた二人を見て、なぜか含み笑いをした。
――そういえば、今日の二人も制服ではなくメルディア家の護衛団の服を着ているのよね。
テッドは以前着ていた服だと推測できるが、まさかエリオットの分は新調したのだろうか。
――そうよね。エリオット様にぴったりと合う体形の人なんて、さすがにいないだろうし。……いえ、以前は女性もいたというから、その服かしら?
「……ええ。お兄様が依頼してくださって。そういえば、エリオット様、その服はどうされたのですか?」
「あんたの兄さんがくれた。夏季休暇に入る前にあんたの兄さんの侍従だという奴が採寸に来たぞ」
「……そうですか」
――クリス、そんなことまでしていたのね……。というか今回のためだけに服を作ったのね。
「ジルベルトはやっぱりいないんだね。でも二人が来てくれて嬉しいよ。これから学友になるかもしれないしね」
「そうだな。まあ、確かにこの二人なら安心だ。テッド君はすでに以前フィーラ嬢の護衛をしていたし、エリオット君も護衛の才能は十分だ。それで? 君たちはここにいる間護衛に徹するつもりかい?」
「そのつもりですが……」
ジークフリートの問いに代表してテッドが答えた。
「うん。そうか。ではこちらも客人としてではなくそのつもりで扱おう」
「ジークフリート様。ですが、さすがに……」
二人にはフィーラの護衛を無理やり頼んでいる。そのうえ、ちょっとの遊山気分も許されないのは、少々気の毒に思えるのだが。
「いや、冗談だよ。どのみち王宮からエルザの家に護衛を派遣するつもりだからね。それなりに自由に動いてもらって構わないよ」
「え? そんな……それでは申し訳ありませんわ」
エルザの家にも護衛はいるだろうに、そのうえ王宮からも護衛を派遣してもらうなど、申し訳なさすぎる。
「国賓に国からの護衛をつけるのは当たり前のことだ。むしろそれを怠ればフォルディオスの常識が疑われる」
「国賓⁉」
――公賓ですらなく⁉ わたくし、ただ友人の家に遊びに来ただけなのに……。
「フィーラ嬢。精霊姫候補はどの国へ行っても、皆もれなく国賓扱いを受けるぞ」
「そうなのですか⁉」
――いえ、でも言われてみればそうなのかしら? 次の精霊姫になるかもしれない人たちですもの。
「まあ、そうは言っても君を呼んだのはエルザの家だからね。正式に国賓としての扱いにはならないよ。それに、申し訳ないが今日は陛下も王太子である兄も王宮にはいないんだ」
「ご挨拶できなかったことは残念ですが、わたくしごときのことでお二人の貴重なお時間を戴くわけにはまいりませんわ」
――むしろ挨拶をせずに済んでほっとしたなんて言えないわよね。
「そうか。そう言ってもらえて安心したよ。だが後日会う機会はあると思うけれどね」
にっこりと笑うジークフリートに、フィーラの笑顔が固まる。
――うう。やっぱり挨拶は免れないわよね。公爵令嬢としての肩書だけならまだしも、精霊姫候補としての肩書もあるのじゃあ、ね。
「ああ、それとフィーラ嬢。先に言っておくが、兄と私は母が違う。兄は正妃の子で、私は第二妃である母の子だ」
「そうだったのですね……」
――お兄様は何も言っていらっしゃらなかったわね。そう珍しいことでもないからかしら?
血を残すことを義務とする王族では妻を二人以上娶ることはさして珍しくもないし、王族だけでなく貴族でも正妻のほかに第二夫人を娶る風習はある。
フィーラの家はゲオルグが独身を貫いているが、早くに妻を亡くした家では後添えを娶ることも普通のことだ。
「では王宮を案内しよう。まあそうは言っても警備上見せられる場所は多くはないが……。ああ、案内の前に休憩をはさんだ方が良いかな?」
休憩とはいっても、学園までは馬車で来たし、フォルディオスまでは転移門を使っている。特に疲れているというわけではない。護衛として付いてきた二人もフィーラなどよりよほど体力はある。恐らく大丈夫だろう。
フィーラは一応二人に目配せして確認するが、二人ともやはり大丈夫なようだった。
「わたくしは大丈夫ですわ。ご案内していただけるかしら?」
「まかせてくれ。では行こう」
先頭に立ち広い廊下を歩き出したジークフリートのあとをフィーラたちが追う。
「フィー。あとでガルグさんに紹介したいから、一緒に来てくれる?」
エルザがフィーラの近くに来て確認をとる。
「エルザの伯父様ね。もちろんよ」
「二人のことも紹介するよ。楽しみだな。ガルグ伯父さんは王国騎士団の団長をやっているんだ」
エルザが歩きながら後ろを振り返り、二人に声をかけた。
「エル。護衛中に必要以上に話しかけるな」
そんなエルザをジークフリートが窘める。
「ちょっとジーク。冗談だって言ってなかった?」
「あまり話しかけられると彼らが困るだろう?」
意味ありげに笑うジークフリートにテッドが同じような笑いで答える。最初の頃はジークフリートに対し少々萎縮していたテッドだったが、ジークフリートは王族でありながらも親しみやすい性格をしているため、今ではだいぶ慣れたようだ。
「大丈夫ですよ、殿下。二人での護衛ですし、殿下につけていただいた方たちもいます。簡単な会話くらいならできますよ」
「だそうだ。良かったなエルザ」
エルザを見て笑うジークフリートに、エルザが頬を膨らませている。
「私? 何だよもう」
「エルザ、護衛は良好な関係を築くために護衛対象に話しかけられたら答えるし、それ以外の人間とも話しをすることはある。けれど今日のお嬢様は国賓扱いと先ほど殿下が言っただろう? 実力不足の俺たちでは、少しの異変も見逃さないよう、いつも以上に周囲に気を配らないといけないんだ。……まあ、本来なら自然体でそれが出来れば一番いいんだけどな」
――確かに、テッドや他の護衛ともあまり会話をした記憶はないわね。お父様やお兄様も話しかけているのを見たことはないわ。まあ、以前のわたくしとは話すこともなかったでしょうけれど。
「う……そうか。思いつかなかった……」
「護衛と護衛対象の関係性にもよるだろ。今回ははじめて護衛をする僕のために、テッドは基礎から教えてくれようとしているんだ。ジークフリート殿下もお前のために厳しく言っているだけだ」
落ち込むエルザをなぐさめるようにエリオットが補足をする。
――エリオット様……本当に丸くなったわね……。
子犬のようにテッドに食って掛かっていた当初とは大違いだ。
「まあ、テッド君の言う通り国からの護衛もついているからな。そこまで厳格ではなくてもいい。ただ、エルザ。お前は聖騎士を目指すんだろう? 聖騎士は精霊姫を護る護衛だ。通常の護衛とは異なるかもしれないが、護衛の仕事については常に頭に入れておいた方が良い」
「……そうだね。わかった」
ジークフリートがあえてエルザのことを想い言ったことはわかる。だが目に見えて落ち込んだエルザを見て、フィーラはジークフリートについ非難めいたことを言ってしまった。
「結構、意地悪ですわね。ジークフリート様」
「そうかな? 私は可愛がっているものでも甘やかさないたちなんだ」
――……まあ、確かにお兄様と比べたら厳しいほうかしら?
気を落としたであろうエルザの腕に手を当て、フィーラは微笑む。
「エル。これからよ? それにわたくしは話をしてくれたほうが安心するわ」
「……うん。ありがとう、フィー」
フィーラの微笑みにエルザがはにかんだ笑みを返した。
ジークフリートに案内され王宮内を足早に見学したフィーラたちは次に王宮の外へと案内された。
城門をくぐり外へ出たフィーラは、フォルディオスの王宮とその庭園を見て息を飲んだ。
白亜の城を取り囲むように広大な池が広がっている様は、まるで湖の中央に城が浮かんでいるかのようだ。
城から伸びる白を基調とした索道は池へと続いており、池を見ながら散策が出来るようになっている。
「すごいわ……。なんて綺麗……」
「でしょ? フォルディオスの王宮庭園は一生に一度は見る価値があるよ」
「ええ! 本当ですわね!」
――うちの庭園にも池はあるけれど、ここまで大きなものじゃないわ。
空を映した池は驚くほど青く澄んでいる。その池の至る所に大きな葉を持つ水生植物が白や薄黄色の花を咲かせていた。
――ああ、前世見た西洋の有名な絵に似ているわ。
「気に入ったかい?」
「ええ、とても。とても美しいです」
フィーラは塀から身を乗り出し池に咲く水生植物を眺める。きらきらと輝く水面に己の姿が映った。
「あ……お嬢様……」
「おい。あまり乗り出すな。落ちるぞ」
テッドと同時にエリオットもフィーラに声をかける。馬車の中での会話でフィーラはなぜかエリオットの同情を買ったらしく、フィーラに対するエリオットの態度は目に見えて軟化していた。
――でも……理由が同情ではあまり嬉しくないわね……。
美しい景色を見ながらひととおり索道を一周し、フィーラたちは城の正面に戻ってきた。
――あら? さきほどは気づかなかったけれど、城とは別にもうひとつ建物があるわね。
城から少し離れた位置には、城よりも小さな建物が見えた。色は同じ白色をしている。
――離れ かしら?
フィーラがその建物をじっと見つめていると、気が付いたエルザが説明をしてくれた。
「フィー。あっちに見えるのは王国騎士団の宿舎だよ。」
「王国騎士団……」
「ガルグさんは今日は宿舎の敷地内にいるはずだから、これから行ってみよう」
「ええ」
――考えてみれば、わたくしティアベルトの騎士団の宿舎へ訪問したことないわね。
城へは何度か行ったことがあったが、騎士団の宿舎には行ったことがなかった。
――以前はあまり興味もなかったものね。もったいなかったわ。案内してもらえば良かったわ。
「早くいこう! フィー」
エルザがフィーラの手を握り、足早に歩を進める。足の長さが違うため、エルザにはちょっとした速足でもフィーラには駆け足のようなものだ。
前のめりになりながらもどうにか転ぶことなく、フィーラはエルザの後をついていった。
今日は一話のみで失礼します。次の投稿は月曜か火曜の23時に。




