幽霊屋敷行く前の怖ーい話
星空が広がり、月の光が道を照らす。
丘の上にそびえ立つ大きな屋敷は月明かりの下、ひっそりと厳かに佇んでいた。
「なぁー、やめようや? 幽霊様に喧嘩ふっかけてもいいことないで?」
「留守番してればよかっただろう」
「一人じゃ嫌なんよ! 仲間はずれみたいで嫌やん!?」
キャトラは喚く。
私たちの目的はあの屋敷だった。夜に訪れると霊水晶というものを拾えるらしい。それは高ポイントになるという話だった。
で、ポイントが多く手に入るなら……と行こうと言ってギルとクロロは賛成したがキャトラだけ断固として嫌がっていた。多数決の原理?というもので行くことになったのだが。
「本当に頼むで!? うち心霊番組は絶対見いひんし、本屋でも心霊に関するものみたら逃げ帰るくらいなんやで!? 本当に頼むで!?」
「わかってる。なあ、ギル、クロロ。提案がある」
「提案?」
私はニヤリと笑う。
「あの屋敷でこっくりさんやら……」
「あほーーーーーーーー!!!!」
「こっくりさんこっくりさ」
「ばかーーーーーーーー!!!!」
キャトラが私の首を絞める。
「うちを殺す気か! そんなにうちに恨みでもあるんか!」
「苦しい……」
キャトラは涙目だった。
ギルとクロロは笑いを堪えている。この中で唯一幽霊がダメなキャトラは辛そうだった。
「そのへんにしとけよ。泣いてるぜ」
「わかった。ま、肝試しということで気を楽にな。雰囲気出すために怖い話でもしてやろうか?」
「聞きたくない! やめろ!」
「キャトラは耳塞いでなよ。他二人は聞きたそうにしてるから」
「……終わったら肩叩いてな」
それ、怖くないか?
まあいいさ。キャトラは後ろを向き耳を押さえる。私は二人に向き直り話し始めたのだった。
「私がかつて通っていた高校には七不思議というものがあってだな」
「ああ、それなら俺のとこにもあるぜ。てか有名じゃないか? 有名なのといえば、音楽室の絵画、理科室の人体模型、トイレの花子さんとか」
「あー、あったあった。俺のとこもそんな感じだわ。あとは俺のとこは家庭科室の合わせ鏡とかな」
確かに有名な七不思議もあるがうちのは少し違ったのだ。
有名な七不思議の中に一つだけ異質なのが混ざっていた。
「私の学校には格技場の濡れた幽霊という七不思議があるんだ」
「格技場? あそこで濡れる要素あるのか?」
「ない。水道は格技場の外だしシャワーもない。だが、格技場には濡れた幽霊が出るんだ」
まあ、原因は分かったがな。
「それで? その濡れた幽霊がどうしたんだよ?」
「まあ、私はそれに遭遇したってことだ。ある日剣道を終えて帰ろうとしてる時に、背後で何か滴る音が聞こえたんだよ。掃除用具入れのモップが絞り足りなかったか? と思って確認しに行ったんだけど濡れていなかった。ま、使ってなかったからな。そのときは。
私はよく耳を澄ましてみる。よく聞くと音がするのは格技場の隣にある女子更衣室からだった。
で、更衣室を覗くと床が濡れてたんだ。触ってみるとなんか臭い。だけどどこかで嗅いだことがある匂いだった。私はとりあえず雑巾で拭こうと雑巾が置いてある棚の上を見たらな……。
そこに、濡れた髪をぶら下げる皮膚が爛れた人間がこっちを見て笑っていた……。
という話だ」
「予想以上にガチだった」
「なにそれ、爛れた?」
二人は私の話を聞いて何か考えている。
「なぜ格技場で濡れた幽霊が……」
「ああ、それなら説明できるぞ」
「教えてくれ。気になる」
「うちの学校、昔はプールがあったらしい。だけど十数年前の火事で学校が全部燃えた時に建て直したらしい。その時にプールがなくなって、その上に格技場が建てられたというわけだ」
その幽霊に会った次の日に調べたのだ。
家庭科室で起きた火事が学校を包み込んだらしい。その時に逃げ遅れた女子生徒の体に引火してしまい、苦しくて火を消すためにプールに飛び込んだという。
だがしかし、死んでしまった。その時の霊なんだろうな。翌日ずっと更衣室で待ってても二度と現れなかったが……。
「なるほどな。爛れていたという説明もつくな」
「本当にガチじゃん。作り話じゃないでしょ?」
「ああ、私が体験したからな。次の日にまた会いたくて粘っていたが出会えなかったな……」
「猛者がいるぞここに」
「幽霊いると知って居座るとか猛者だ……」
よせ。褒めるな。
「よし、じゃ、キャトラを呼び戻そう」
私はキャトラの肩を叩く。
だがしかし、反応はない。
「キャトラ?」
キャトラの肩を少し強く叩くと、キャトラはその場で倒れる。
「キャトラーーーー!?」
「聞こえてたみたいだな。失神した」
「どんだけ無理なんだ……」




