剣星のタイガ ①
私は帰って着替えた後すぐにゲームにログインすることにした。
ほかの奴らはすでにログインしているらしく私が最後らしい。他の奴らの姿が見えないのでクエストに行ったという感じなのだろう。
「さて、私はどうするか……」
とりあえず宿の外に出てみる。
外はあいにくの雨模様で地面が濡れており道行く人はカバンを傘代わりにして走っている。街を巡回する警備兵もなんだか顔が暗い。
「すまない、ちょっと待ってくれないか!」
歩いていると突然腕をつかまれた。
私は思わず足を止め呼び止めた男のほうを見る。すらっとした体つきで戦闘職ではないという見た目をしている。
剣など携えてはいなく、スケッチブックぐらいしか荷物が見えてない。
「なんだ?」
「ふむふむ」
男は私を調べるかのように全身を眺めている。
男の不審な行動に私は顔をしかめると、男は私の顔の機嫌に気づいたのか私の顔をまっすぐ見るのだった。
「すまない、君が僕の作品のキャラクターにぴったりの見た目をしていたから」
「主人公? 作品?」
「僕は週刊少年キャンプスで連載を抱えている漫画家の三谷 三露と申します。代表作は剣星のタイガ。知っておられますでしょうか」
「ああ、名前だけは聞いたことがあるな」
最近の世の中でブームらしい。
剣星のタイガのおかげで剣道ブームが来ていると、前に金持ち校の生徒たちから聞いたこともあれば、他の剣道仲間からも聞いている。
私のところには来ないのだが、他のところには剣道を教えてくれと頼んでくる奴が多いとか。
「知っておられるんですね。ありがたい限りです。で、あなたのたたずまいを見ているともしかして現実でも剣道を?」
「ん? ああ。やってるな」
所作でわかるのか。この漫画家も経験者なのだろうか?
「ならよかった。あなたのような見た目をしたキャラが必要なんですよ。そろそろ剣星のタイガを完結させようと思いまして。で、ラスボスとなる女剣士の宗片 鬼抓のモデルにぴったりだ……。あの、あなたをスケッチしても」
「ああ、いいが……。宗片という名……」
「はいっ! もちろん後で本人に許可は取りますがあの百戦無敗の宗形選手を基にするんです! 百戦無敗だなんてラスボスにぴったりじゃないですか!」
そ、そうか? 百戦無敗を負かすというのはたしかに物語としてはいいが……。作品で私を基にしたキャラが負けるのか。なんか複雑だな。
「もちろん宗形さんには敬意をもって書くんだろうな? その、宗形さんのプライドをボロボロにするような書き方をしたらさすがに……」
「もちろんですとも。負ける理由も納得がいくような感じには致します。名をリスペクトさせてもらう以上そんな大敗北だったら訴えられますしな」
ならいいのだが。
「いいだろう。デッサンするがよい。あ、お前の名前はなんていうんだ? ゲームでの」
「僕はミツユっていう名前ですね。ミツユとお呼びください。あなた様は?」
「ミツネだ。どういうポーズを取ればいい? この私が漫画になるんだ。綺麗に書いてくれ」
「ははっ、失礼ですがあなたは見た目だけで……」
「何を言う? 私が百戦無敗の宗形だぞ」
「はは、そうなん……はい?」
「私の名前は宗形 幽音だ。本人の前でラスボスにするって言うのはさすがに引いたぞ」
「失礼をっ!」
流れるように頭を下げてきた。




