乱気流ケルベラ ①
侍という職業になり、心眼というスキルを覚えた。
効果は目をつむり十秒経過すると周りの地形や人の気配を察知できるのだという。心の目で見ているということなのだろう。
私も割と気配には敏いほうなのだが、こういうスキルはありがたい。
「よぉ、そこの道行くねーちゃん」
私が一人で歩いていると私の背後にガラの悪い男がたっている。
男の後ろには子分的な何かが控えており、とてもエラそうな態度だ。この態度はナックルを想像させるな……。
私はその男のオーラに負けじとにらむ。
「ここは俺らのナワバリだぜ? 無断で入ってくるたぁいい度胸じゃねえか」
「ケルベラの兄貴! かっけえっす!」
慕われているのだろう。子分の目には羨望のような感情を感じられる。私はそんな目をだれ一人として向けられたことはないな。
私は刀を引き抜く。
「やるつもりか? 手加減はしないぞ」
「上等だぜ。死んでも文句言うなよ。ここでは俺がルールだからなァ!」
私は刀を振り下ろそうとするとケルベラが私に近づいてくる。
私のみぞおちに一発殴ろうとしたので私は左手で鞘を持ちケルベラの顎をつく。チンピラ特有の喧嘩術か。型という型がなさそうだ。そういうのが一番相手取るのが厄介でもあるが。
「面白い」
今度は私から攻める番だ。
私は思いっきり刀を横に薙ぐ。ケルベラは慌ててしゃがみ込んで躱した。
「てめぇ! マジに殺す気かよ!」
「死んでも文句言うなといったのはお前のほうだろう。勝負は常に殺し合いだ。やるといったんなら文句は言うな」
「文句言うぜ! 人を殺したら殺人罪で捕まっちまうぜ? いいのかよ、こんなちっぽけな勝負で命を懸けてまで戦うなんて。馬鹿らしいだろうが」
「命乞いか?」
「そうじゃねえ! 何でてめえはチンピラと喧嘩しただけで相手の命を取ろうとしてんだって聞いてんだよ! 頭おかしいんじゃねえのか!?」
頭おかしいか。それはさんざん昔から言われている。
勝負は常に殺し合いだ。私は昔からそう思っている。剣道なんて言うのも殺し合いの延長戦であるといえる。
一太刀でも食らえば致命傷となるのだ。負けるのは死と同義。命を懸けるのは当たり前だろう。
「いいからさっさと構えろ。命乞いするような腑抜けかお前は」
「腑抜けでいいっての! 俺の負け! 殺されちゃたまんねえっての」
「そうか」
私は刀をしまう。
「悪かったよ。今度からは好きに俺らのナワバリ通っていいぜ。ったく、おっかねえ」
「そうさせてもらう……が、一ついいだろうか」
「あ? んだよ」
「私に先ほどの喧嘩術を教えてくれないか?」
「はぁ!?」
あの動きはすごい。
武器を失ってしまって戦えないときにあの喧嘩術が役立ちそうでもある。ぜひとも取り入れたいものだ。
私は男に頼むと男は頭をかいた。
「ちっ……。逆らったら殺されそうだから教えてやるよ。アンタ名前なんて言うんだ」
「ミツネだ」
「ミツネさんよ、この俺様の教育は厳しいぜ? ついてこれるかよォ」
「根性だけはあるほうだ。かぶりついてやろう。ぜひ手ほどきを頼む」
「ちっ、礼儀正しいと妙にやりにくいぜ……。じゃあまずはだな」
その時だった。
突然サイレンの音が鳴り響く。この街全体にサイレンが鳴っているようで、ケルベラも教えようとしていた手を止めサイレンに聞き入る。
「兄貴! 大変す!」
「どうした?」
「魔物の大群がこの街めがけてつっこんできてるっす!」
思ったよりも一大事なようだ。




