侍
キャトラは怒り心頭のまま冒険者ギルドに赴いていた。
私はキャトラの隣に立つ。
「なんや? ミツネ」
「私も別行動することにした。女が嫌いっていうんだから距離を置いたほうがいいと思ってな」
「なんも別にミツネまで……」
「私たちは女同士だろう? 友情をはぐくもうじゃないか」
私はキャトラに向けて笑顔を見せる。
「……なんかミツネの笑顔初めて見たわ」
「そうか?」
「あんた無表情がデフォやん……」
そうなのか?
日頃表情筋を動かしていると思っていたが気のせいだったか。割と感情的なんだがな。顔には出ていなかったのか。
「さっ、八つ当たりするで! こいつでええわ!」
そういってキャトラが依頼を手にしようとした時だった。
「失礼」
そういって声をかけてきたのは武士のようないでたちをした男だった。髪は後ろに結っており刀を腰に差している。
「その刀……。貴殿ももはや侍なのだろうか!?」
「いや、侍ではないが……。見習い剣士だ」
「なんと! 刀を腰に差しているのに侍ではなく見習い!」
男はショックを受けたように嘆いていた。
キャトラは訝し気に男を見ている。
「申し遅れた。拙者はこの島国とは別の東の島国から参ったリュウグウと申すものである! 貴殿よ、侍には興味はないか?」
「……あるな」
「なら侍にならぬか!? 簡単な試練をこなせば侍になれよう!」
「わかった。受けようか」
「感謝する! この島国では刀は珍しく侍というのも珍しいのだ!」
そういってリュウグウは紙を取り出した。
試練の内容を書かれた紙だという。私は内容を読むとこの街郊外に住むオーガを刀を装備して一人で討伐ということだ。
オーガ、か。なんだろう。
「ではさっそく侍の試練を受けるのか? 準備ができていないのならしばし待とう」
「いや、大丈夫だ。いこう」
「あいやわかった」
「なんやおもろそうやからついてこ」
私たちは郊外に移動する。
オーガを探して歩くと緑色の皮膚をした大男が武器を持ち徘徊していた。あれがオーガだとリュウグウは言うので私は刀を引き抜き、オーガの前に姿を現す。
オーガは私を獲物と定めたのか鋭い目で私を見下ろす。
「グガァ!」
武器を振り下ろしてくる。
私は刀で受け止めた。力が強くつばぜり合いに負けそうだ……。ここまで力が強いとは。ならばしょうがない。
気合いで乗り切ってやろう。
「はあああああああ!」
私はなんとかつばぜり合いに勝利し、押し返されたオーガは体勢を崩す。
私はそのままオーガの首元めがけて刀を振る。オーガの首がはねられそのまま倒れたのだった。塵となって消えてドロップ品が落ちる。
「勝利だ」
「鮮やかっ! 貴殿になら侍の極意を教えてもよかろう!」
《試練に合格しました。職業が見習い剣士から侍となりました》
《職業スキル:心眼 を取得しました》
《職業効果として刀を装備していると攻撃力が+20されます》
「侍としての実力が高まったと感じたなら拙者に言え! 武士にしてやることも可能だ!」
「わかった」
「拙者はこの街に基本いる! ではな!」
そういってリュウグウは走り去る。
「侍ってすごいなぁ。うちは何の変哲もない狩人っちゅうのに」
「……侍か」
「嬉しそうやな?」
「嬉しい」
私は侍になりたかった。なれただけでもうれしいものだ。




