黒煙の闇
弥勒の会社に行った翌日、私たちはゲーム内であるプレイヤーとあっていた。
ミロクの知り合いではなく、私たちに会いたいと尋ねてきたギルドの人たち。ギルド名は黒煙の闇という名前で、ギルド長と名乗る人は装備も割と整っている人だ。
どうやら有名ギルドの一つらしく、同じ有名ギルドの私たちに会いたかったという。
「会えて光栄だ。よろしくな。俺は黒煙の闇のギルド長のムラマサだ」
「俺は不死鳥の羽のギルド長のミロクだが……。俺らに何の用だ? わざわざ出られない街にきてまで会いに来た理由はなんだ?」
「いやいや、会いたかっただけだよ? 深い理由とか特にないよ。あ、俺っちはホッポっていうからねー。サブマスをつとめてまーす。よろしくー!」
ムラマサとホッポ。覚えたぞ。
「それより不死鳥の羽って有名なんか? 特に目立ったこともしておらんで?」
「いやいや、マジで言ってるー? 有名よ! 特にそこのミツネさんとミロクさんはね!」
と、ホッポが私たちを指さした。
私がなぜ有名なのだろう。私だって特に何かしたというわけでもないが。
「まずその装備! それは初心者が持つような装備じゃないんだよ! その刀ね! あと、冒険者ギルドでの乱闘騒ぎ、PKギルドの返り討ちなどがあるね!」
「ああ、そういうのもあったな」
「特にPKギルドの奴らを一人で返り討ちにしたって言うのは大きいな。PKギルドの奴らも一筋縄じゃいかない強さを持ってる。それを無傷で返り討ちは無理だ」
「そういうものなのか……」
あいつらの剣さばきは割と素人だから躱しやすいと思うが。
「ミロクさんはまぁ、家名だね! 不死帝家っていえばあのちょーう有名な資産家でグループ創始者一族でしょ? あと、イケメン! 話題にならないわけがないって!」
「女どもか……。まぁ、目立つとは思っていたが」
「ってなわけで、俺らも会いたかったんだー! あえて感激!」
と、ホッポは私とミロクの手を握ってぶんぶん振る。
「俺もそんな感じだ。この街にいると情報を受けたからやってきたわけだ」
「そうか。ま、こういうのはもう勘弁してくれ。俺は忙しい」
「すまんかったな」
「構わん。お前ら行くぞ」
そういってミロクは先へ行こうと歩きだした。
私たちは弥勒の後ろをついていく。黒煙の闇……。知らんなぁ。他のギルドとか私は何も知らないからな。
私たちが歩いていると二人が走ってきて私の前に回り込む。
「まだなんか用か?」
「お願いがある」
「お願い?」
「俺ら黒煙の闇のメンバーを不死鳥の羽にいれてほしい」
そういって頭を下げてきた。
ミロクは不機嫌そうな顔になる。黒煙の闇のメンバーを入れて欲しいというのはどういうことなのだろう。なぜそんなことを頼むのか。
「俺ら黒煙の闇のメンバーは自分勝手な奴ばかりで誰も言うことを聞こうとしない。だがミロクのような絶対的支配者がいればあいつらは従う。だからお願いに来た」
「……断る。なぜ俺がお前の尻拭いみたいなことをせねばならん。お前が俺の友人ならともかく今日初めて会ったばかりだろう」
「……だろうな」
「それに俺は支配者になるつもりはない。力で従わせるつもりもない。俺を独裁者だと勘違いしてるようだな」
そういうと、一気に二人の顔が青ざめる。自分の言動のまずさに気が付いたのだろう。まぁ、顔が怖いから独裁者って思われても仕方ないだろうが……。
さすがにここまで失礼しておいて怒りを買わないわけがない。
「いや、そんなつもりじゃ……」
「俺に頼みごとがあるならそれ相応の態度で来ることだ。お前らだって俺を内心では見下してるからそんな頼み方をしてるんだろう? 独裁者というならその力を見せてやるよ。キャトラ、ミツネ」
「わかった」
「はいよ」
私は刀を引き抜きムラマサの首元に突き付ける。キャトラもホッポに向けて至近距離で矢を向けていた。
「この距離なら外さへんで?」
「今すぐ姿を消すことだな。うちのリーダーは大層お怒りだ」
「……すまなかった。失礼する」
そういって逃げ去っていった。
私は刀をしまい、キャトラは弓をしまう。
「やりすぎなんやない? あんた気難しい男やなぁ」
「……俺はなれ合いなんぞに興味はないし、あったとしてもあのような二人の態度は失礼だろう。俺は独裁者と思われるのが嫌いだ」
「顔は独裁者っぽいんだけどね」
「リュウ? お前も切られたいか?」
「冗談だよ。でも、そう思われるのはミロクにも原因はあると思うけど」
「それは……わかっているさ」
「まぁ、わかってるならいいんだけど。それよりどうするのこの雰囲気。レベル上げって雰囲気じゃないじゃん」
たしかにな。先ほどの一件ですっかり雰囲気が暗い。
「どもーっす! 遅れてすんませーん! ミロクさんたち! そこでなにしてるんすか?」
と、何も知らないシラトリがのこのこと歩いてきた。
キャトラがシラトリの肩を持つ。
「いい時にきたなぁ。さ、レベル上げするでー!」
「あ、ああ」
「え、なんすか? 俺が来てなんかいいことあったんすか?」
「気にしないで」
「えっ、逆に気になるんすけど!?」
「気にするな。ほらシラトリ、いくぞ」
「えっ、えーっ! 何があったか説明してくださいよぉ!」
シラトリを引っ張り私たちは郊外へと向かうのだった。




