時計塔技工士シュバルツの記憶 ④
私は吹っ飛ばされ、壁にぶつかる。
死んではいないようだった。だがしかし、死んだも同じようなダメージは受けている。レベル差はあるといえど防御方面は少し貧弱だからな私は……。
「だいじょぶか?」
「なんとか、な。ポーション持ってるか。小突かれただけでも私は死にそうだ」
私は立ち上がりキャトラからポーションをもらう。
ポーションは赤い色をした液体でイチゴの味がした。甘くておいしい。こういうのは本当にすごいと思う。最初は慣れなかったが今じゃもう私はファンタジーの一員という感じがするな。
私はポーションを飲み干し瓶を捨てる。
「さて、じゃ、反撃といこうか」
「せやな」
私は刀を構える。
キャトラは矢を放ち、私はそれについてくように走った。アシュラタウロスは私のほうを向くが、矢が胸に突き刺さる。
「ブモォ!」
「剛射に一矢強化や! 割とダメージ出るで!」
「これでおしまいだアシュラタウロスよ」
私は顔を切りつけた。
アシュラタウロスはそのまま倒れ、塵となって消えていく。私は刀をしまった。
「す、すごい……」
「っと、こりゃすごい素材が出たなぁ。ミノタウロスが二つくらいやったのにアシュラタウロスは五つかいな」
「アシュラの宝玉というのが出たな」
「それ多分超レアドロやん!」
そうなのか。
アシュラの宝玉……。眺めてみると水晶玉の中に燃え盛る炎が三分割されている。綺麗だなあと思っていると地鳴りがした。
私たちの立ってる床も揺れ始め、目の前に魔法陣が光る。
「ほら、あんたらもぼさっとしとらんで魔法陣に飛び込むんや! 崩れるで!」
「は、はいっ」
ユウキとミカエルは魔法陣に勢いよく飛び込むと姿が消える。
私とキャトラも中に入り、外の世界に転移したのだった。
外の世界に飛び出ると黒い靄が町長の時と同じように霧散していく。
そしてシュバルツは目を覚ました。
「あれ、僕は……」
「よう、お目覚めかいな」
「おはようございます、シュバルツさん」
シュバルツは私たち四人を見る。
「ユウキくんにミカエルちゃん。それと……」
「うちはキャトラ、こっちはミツネや。うちらはまぁ、ユウキたちの手伝いやな」
「手伝い……?」
「まぁ、世間話はいいだろう。本題に入る」
私は時計塔の鍵について尋ねてみた。
「鍵……? ああ、鍵ならたしか……この引き出しの中に……」
シュバルツさんは立ち上がり棚の引き出しを引く。
ガサゴソと探ってあったといって鍵を掲げた。鉄でできたシンプルな鍵でこれが時計塔に入るための鍵だという。
「それにしてもなんで時計塔に? 中をみてもそんなに面白くないと思いますけど」
「ある悪魔を倒すためだ」
「……悪魔? あっ」
「なんだ?」
「たしかにいますね! 間近で見ましたからね、僕! なんかそのあと魔法をかけられたか何だかして忘れていたんですよ」
「なるほどなあ。ダンジョンの敵が強かったのも直接忘却の魔法をかけられていたからなんやな」
間接的にかけるのと直接かけるのじゃ強さが違ってくるのだろうか。
「ま、借りてくで。終わったら返すわ」
「お願いします。あなたたちは強そうですからね。あの時計塔に棲む悪魔を、ずっとこの街に住んで人々の記憶をなくしてる悪魔をやっつけてください」
「言われなくともそうするつもりや。ユウキ、ミカエルはどうするん?」
「あっ、俺たちは……」
「行きます。私たちは……この街で生まれたんです。あのにっくき悪魔がやられるところを見なくちゃ気が収まりませんとも!」
「そか。じゃ、ま、普段どこにいるかだけ教えてくれや。すぐにいくわけじゃあらへんから」
「私たちは普段から教会にいます。行くときになったらぜひお声がけください」
「わかった。ほならなー」
と、私たちはシュバルツの工房を後にした。
「あ、そーいや聞いとるか? 明日、うちらミロクの会社に来るようにって言われたで」
「明日? 現実でか?」
「せや。何の用なんやろなぁ。ミロクの会社の場所はわかっとるか? うちは一回見学させてもらったんやがすごかったで」
「場所は何となくわかる。明日な、何時集合とか聞いてるか?」
「昼の1時や。ミツネが一番遠いから時間を取ったんやろな」
「なるほどな。わかった。明日向かう」
私たちはそう言って宿に戻る。




