時計塔技工士シュバルツの記憶 ②
私たちは階段を下りる。
町長の記憶の魔物とは比べ物にならないくらい強く、敵の数も多いために少しばかり疲れが出てきていた。
ボスもまだ来る様子がなく、キャトラがその場に座り込む。
「なげー! もう疲れたでうち」
「そうだな。敵も多ければ階段も見つからず、だからな」
苦戦してるのは敵の数だけでなく階段探しもあった。
階段が巧妙に隠されており見つけるのが非常に難しい。まだ三階程度にしか潜れていないのもそのためだ。
「はぁー、もーボスいきたいなぁー。次の階段探してまたやろ? 町長たちは五階程度やったやんなー?」
「そうだな。五階下にいけばボスだった。あとワンフロア……もしくはそれ以上あるということだな」
「嫌になってくるで」
そう言いながらもキャトラは立ち上がり階段探しを始めた。
歩いていると、突然私の足元が光りだす。
「罠や!」
「ちっ」
私は足元に光る魔法陣から出ようとしたときだった。
目の前の光景が一瞬にして変わる。光景はダンジョンの中なのだが、ここはどこなのだろう。ひとまずいえることはキャトラとはぐれてしまったということか。
ダンジョンの地図はないからな……。とりあえずキャトラを探すことにしよう。
私はキャトラ探しのために歩き出す。
すると、誰かが交戦しているのか激しい音が鳴り響く。近くで誰かが戦っている。キャトラ……ではなさそうだが。私が飛ばされた瞬間に襲われたということはないだろう。
私は音のした方に向かうとそこにはプレイヤーではない少年少女が剣と杖を持って立っていた。
「来てみろ影の魔物! 俺らはお前らを倒して記憶を戻してやる!」
「こ、怖くなんかないもんね」
影の魔物は少年に向かって襲い掛かる。
少年は剣でそれを防ぎ、弾き飛ばす。剣筋はいいが防戦一方だ。攻撃に転じなければいずれかはやられる。
私は刀を引き抜き、魔物めがけて走っていく。
「こんの……!」
「ふん」
私は魔物の首元に刀を突き刺した。
すぐに刀を引き抜き、足を切り落とす。そして、とどめに大きく切りつけた。
「ふぅ」
私は刀をしまう。
「すまんな。獲物を取ってしまって。苦戦しているようだから横やりを入れたのだが必要なかったか?」
「あ、いや……ありがとう、ございます」
少年は剣を出しながら頭を下げる。
見た感じ年齢は15~6といったところか。このような少年がなぜシュバルツの記憶の世界にいるのだろう。
私は少年に聞いてみると少年も思い出のベルを使用し中に入ってきたということだ。
「そうか。ま、中に入ってきたというのなら目的は同じか……」
この子たちを連れて先へ進もうか。
「あ、あの、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
と、教会のシスターのような服を着た金髪の女性が上目遣いで訪ねてくる。胸には十字架を掲げており、どこかの教会の敬虔な信徒なのだとうかがえる。
こいつらはもしかしてNPCとやらか。こういうやつらもいるのだな。
っと、感心してる場合ではないな。
「私はミツネ。剣士だ。お前らは?」
「俺はユウキといいます。オブリビオンの街で生まれ、育ちました」
「私はミカエルです。ユウキと同じくオブリビオンの街で生まれ育ちました」
ユウキとミカエル。いい名前だな。ミカエルといえば天使の名前だな。まさに名は姿を現すって感じの装いだ。
「ユウキとミカエルも記憶を取り戻すことが目的か?」
「そうです! 俺らはこの街を思い出させるためにこのシュバルツさんの記憶の中に来たんです」
「目的はやはり同じか。なら話は早い。私とくるか? 私が戦ってやるぞ」
「あ、あなたのような強い人と一緒というのは心強いです。どうかお願いいたします」
「ああ」
私は差し出された手を握る。
すると奥のほうから声が聞こえてくる。
「あ、いたー! どこ飛ばされたんかと思っとったらここにおったんか!」
「キャトラか」
「知り合いですか?」
「私の仲間だ。キャトラ。猫の獣人だったか」
「せやで。うちはキャトラ。で、ミツネ。この子たちなに?」
「先ほど知り合ったやつらだ。シュバルツから鍵を手に入れてノームに挑もうとしてるやつら」
「へぇ、この街にもまともなんはおったんな」
キャトラはそう言って笑う。
たしかにそうかもしれない。初めて最初からまともな奴らと出会った。
「あ、ここに来る途中に階段見つけたで! さっさといこうや」
「わかった。ユウキ、ミカエル。行くぞ」
「「はい!」」
二人の声が重なった。




