希う
魔王を討伐したことによって未開の地の攻略はすんだといっても過言ではないだろう。
私は今現在、剣道の大会に来ていた。
「そこまで!」
面を脱ぎ、私は汗をぬぐう。
ここのところ、実力が高い人ばかりだ。まだ負け知らずでいられてはいるが、この負け知らずがいつまで続くかわからんぐらい強い人が増えている。
ゲームで剣を使っていたからか? いや、剣道と剣術は違うし、あちらのほうは剣術のほうが強くなりそうな感じはあるけれど。
「ともあれ、大会は私の優勝だな」
剣道の大会でトロフィーをもらい、私は帰ることになった。
いつもはバスで帰っているのだが、玄関ホールに出ると、そこには見知った顔がたくさんいた。
「よぅ、お疲れさん」
「大会に出られるようになったの?」
「ああ。剣道連盟のお偉いさんがな、周りも強くなってるし大会に参加できないのも退屈だろうということでな」
「だがしかし、優勝をもぎ取ったと。ひゅーこえー」
そう簡単に負けはしない。
だがしかし、油断できないな。ゲームばかりやっていたからか剣道に少し力が入っていない気がするな。今日の勝利もぎりぎりだった気がする。
相手の手の届く範囲にいてはいつかまた負けてしまうな。
「周りも相当レベルアップしている。今日の勝利はぎりぎりだった」
「ついに幽音の絶対王朝が崩れる時がきたんちゃうん?」
「そんなわけにいてたまるか。いつだって王者はこの私であるべきだ」
それが私なのだ。
いつまでも勝ち続ける王者は私であるべき。負けなんてあってはならない。私はきっと究極の負けず嫌いなので、こういった勝負には絶対勝つ。
それが私の使命。
「傲慢な勝者だな」
「まぁ気持ちはわかるけどな。勝つためには貪欲でねえと。俺もそうだしな」
「城崎もタイトル防衛したんだっけ? おめでとう」
「なんかゲームでたくさん動きまくったから割と体が軽くなった気がするんだよね。僕も割と絶好調で体操できてるし」
「うちは今までと変わらへんのやけど……。うちがおかしいんか?」
「私もそこまで変わってないぞ。むしろゲームをして弱体化している」
私がそういうと。
「「「「「弱体化……?」」」」」
とみんなに疑問を抱かれてしまった。
「あれで?」
「弱体化してこれとか勝ち目ねえだろ」
「あんたフィジカルとかいろんなもんバケモンやからなぁ……」
「生物学的にあんたを一度調べてみたいぜ……」
いや、弱体化しているほうなのだが。それでもなのか?
「弱体化してるから今日はぎりぎりの戦いだったぞ」
「いやいや、弱体化してぎりぎりとかおかしいでしょ?」
「普通は……負けそうな感じがするな。幽音って剣道選手にしてはラスボス的存在だし弱体化したら普通負けるよね?」
「ラスボスが負けるといつ決めた?」
というかラスボス呼ばわりするな。
「負けたら強くなって帰ってくるし……なんていうか、俺たちの中で一番勝利に対しての執着心が強いよな」
「わかる。ほんと敵じゃなくてよかった」
「お前らひどいぞ」
私だって女の子だ。そんないい方されたら少し傷つく。
「ま、祝勝会開いてやるよ。居酒屋でいいか?」
「うち飲めへんから駄目や!」
「弥勒よぉ、勝ったんだから豪勢なとこにしてやれよ」
「お前らな……。金俺出すんだからな……」
「いいじゃねえかよ。金持ってんだろ? 金持ってるやつは使わねえと経済回んねえぜ?」
「それもそうだ」
「幽音……? 幽音はどこがいい?」
どこがいい、と聞かれてもな。
「……ここは肉だな」
「焼肉入りましたぁ!」
「焼肉いこうぜ!」
「お前らなぁ……」
弥勒はあきれ顔だった。
私は弥勒に悪いと思いながらも、弥勒にお高めのところで頼むと告げる。弥勒はうなだれていた。
「ま、いいよ。これからも長い付き合いになるだろうしな」
私たちは会館前に止めてある弥勒の車に乗り込んだのだった。
そして、移動しているときにもこの間のことを思い出す。魔王を討伐し、弥勒との契約も終わった。だけれども、この関係はいつまでも続くし、友人であることには変わりはない。
楽しい。前まではひたすら剣道に打ち込むことしかできなかった。人生に楽しみなんてなかった。けれども、今は。
楽しい。
この関係がいつまでも続けばいいのに。そんな幸せを希う。
自分をいつしか許せるようになったのも、この関係があったからだと思う。ウルシを殺してしまったことは変わりないけれど、それでも前を向いていけるようになったと思う。
「ん?」
窓の外に、ウルシの笑顔が見えたような気がした。
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