町長の記憶の世界 ①
私は町長を訪ねる。
町長の部屋に案内され、ソファに座らされた。
「ようこそオブリビオンへ。それで本日はどのようなご用件で?」
「……じっとしていろ」
私は立ち上がり鍵をかける。誰かが入ってきても邪魔だからな。
私は町長に近づき思い出のベルを取りだしてベルを鳴らす。ちりんと甲高い音が鳴ったと思うと町長は気を失い、ソファに倒れる。
頭の上には黒い靄があり、手を突っ込んでみると突き抜けない。どうやら別空間が本当にできているようだ。
私はその空間に飛び込む。
「すごいな」
そこは迷宮のようなものだった。
ここをダンジョンと呼ぶとミロクは言っていた。なんとなくわかる気がする。ちゃんと立てる足場があり、風景もある。
「オブリビオンの街のようだな」
町長の記憶は街の記憶なのだろうか。
ずいぶんと廃れたオブリビオンの街。この記憶を戻すにはダンジョン最深部にいる魔物のボスを倒すことらしい。
私は荒廃したオブリビオンの街を歩くと早速何か魔物が現れた。
獣の魔物だった。犬のような形をとっているが影のように真っ黒。私はツクヨミを抜き切り捨てる。
「ふん。そこまで強くないな」
私は奥へ進んでいく。
ダンジョンにはどこかに階段があり下の階へ続いているという。階段を探すことから始めるということだ。
私は歩いていると、突然この世界に声が響く。
《この街を思い出させてやる……。でも、街のみんなは忘れることを喜んでいる》
《私がどうにかしなければ。人は思い出に生きるのだから》
これは町長の記憶の一部だろうか。
町長は街の人の記憶を戻そうと躍起になっているようだった。だが無情にもその気持ちを忘れたのだろう。
決意したことでさえも忘れてしまう。そんなのは人の気持ちを踏みにじるのと同じだな。
「キシャアアアアア!」
「っと、今度は影の蛇か!」
物陰から蛇が飛び出してきた。
蛇は私にかみついて来ようと牙をむき出しにして近づいてくる。私も蛇との距離を詰め蛇の首を切った。
蛇の体力は一気になくなっているがまだ生きている様子。私はとどめの一撃をくらわした。
「一撃じゃ倒せないような相手も出てきているか。厄介だな」
私はそうぼやきながら先へ進んだ。
先へ進むと建物が崩れており、その中に階段らしきものが見えた。私は街の瓦礫の上に立ち、瓦礫をどけていく。
《この街は悪魔によって死んでいく。忘れてしまうのなんて、死んだのと同じだな》
「同意するぞ町長よ」
人に忘れられるというのは死んだと等しいだろう。
誰の記憶の中にも生きられない。そんな人にはなりたくない。
「どっこらせい!」
私は瓦礫をどけ、階段を下りていく。
真っ暗でほとんど何も見えない。私は警戒を解かずに下へ降りていく。ついた先はまた先ほどのような廃れた町……。とはいっても先ほどは商店街のような場所だったが今回は噴水広場のようだ。
噴水は水が噴き出ておりその前には何やら怪しげなスイッチがある。
「押してみろということか?」
私はスイッチを押してみると、突然地鳴りが起きる。私は刀に手をかけ、警戒を取っているがしばらくすると地鳴りは収まっていく。
「な、なんだったんだ?」
とりあえず先を急ごう。




