オブリビオンに到着
私たちは森の中に入る。
少しだけ整備された道を歩くとたまに魔物と出くわすが問題なく倒せていた。だがしかし、魔物としか出くわすことはなく街の姿など見えない。
「ほんとにあるんかな。この森の中に……。行方不明はこの森でおきとるんやろ?」
「そうじゃ。この森で起きとる」
「ふぅむ……」
私たちは見つけられない街がちょっともどかしい。
考え事をしながら歩いていると。
「……そういやここどこっすかね? 道順覚えてる人いるっすか?」
「つい考え込んでしまったなぁ。うちも覚えとらん」
「わしとしたことが……」
誰もかれもが道順を忘れるという出来事が起きた。
私はうろ覚えだが若干覚えている。特に考えもせず歩いていたからな。だがしかし、そのときだった。
目の前に松明の火の明かりが見えた。
「んん? なんや? こんなところに人がおるんか?」
その火はこちらに近寄ってくる。私はいつでも刀を引き抜けるように刀に手をかけた。すると、人が現れる。
若い女性だった。
「あれ、あなた街の郊外でなにしてるんですか?」
若い女性が松明で私たちを照らす。
「……街? どこの街なのだ? ユミルの街か?」
「いえ、オブリビオンという街ですよ。ああ、旅行者の方ですか。ここら辺は迷いやすいですからね。街へどうぞ。私の家に案内してあげます」
そういってついて来いという。おじいさんは女の人の肩をつかんだ。
「ミーナ!」
と、女性の名前を呼ぶ。ミーナと呼ばれた男性はおじいさんのほうを向いた。
「わしじゃよ! あんたの父さんじゃ!」
「……すいません。誰ですか?」
「なっ……」
おじいさんは呆然と立ち尽くした。
「あなたも早く来てください。ここら辺は魔物が出るんです。急がないと魔物に襲われますよ」
女の人の家に案内された。
女の人の名前はミーナというらしい。数年前に居住してきたという。タイラント爺さんの娘だという話だが、ミーナはタイラントじいさんの娘だとは知らないという。
忘れている、のだろうか。
「……もしかしたらなんじゃがミーナは忘れとるのじゃろう。この街に入るともしかしたら」
「外の世界のことを忘れてしまう、っていうんやろ?」
ミーナは食事の準備をし、私たちはそう話し合っていた。
だがおかしいのだ。入っただけで忘れるのなら。
「タイラントさんはなんも忘れてへんのやろ?」
「あ、ああ。わしはちゃんと鮮明に覚えておる。娘の名前も、王都にいる息子も。覚えておる……」
「なら忘れるようなことがあるんじゃないか? 例えば何かの音色を聞く、とかそういうのが」
「あり得るっすね。あるとしたらあの時計塔……。さっき4時を回った時に鐘の音が鳴ったっす。もしかしたらあの鐘の音が……」
時計の鐘が原因、か。
「ま、なんでもええわ。とりあえずうちらはミロクたちを探さんとならん。さすがにプレイヤーの私たちは忘れることはないやろうからな」
「そうっすね。この街のどこかにいるはずっす。フレンドメッセージが使えないんでどこにいるとか聞けないんすけど」
そうだな。
さっき郊外から見渡せた街はとても広かった。探すのは骨が折れそう。ミロクとリュウはこの街のどこかに……。
「早速さがそか。ログインはしてるっぽいからなぁ」
「そうだな。シラトリ、いくぞ」
「はいっす!」




