ミツネの魂の戦い
三人は再び魚釣りに戻ったので私は湖畔で一人刀を振り回していた。
現実でもたまに真剣を振り回してはいるが家の中だけだからな。こういう外でやるというのはまずない。
持ち歩いてでもしたら職務質問を受けることは確実。専用の袋などに入れて持ち歩かなくちゃいけないというのが面倒くさい。
前に職務質問を受けてしまったからな……。警察官に友人がいたから怒られただけで済んだが。
「ふんっ、ふんっ」
絶好調だ。
ゲームでの体は現実と違って言うことを聞きすぎるくらいには動きやすい。
「グルルルル」
「なんだ?」
私は振り返ると、いつぞやの熊がそこにいた。
熊は私のほうを見る。何をしていると言わんばかりの顔だった。
「素振りだ。体を動かしていたほうが魔物来た時でも対処しやすいからな」
「グル」
「仲間か? 仲間はあの船に乗って魚釣ってる。幻の魚を釣るといってる」
そういうと、キングヒグマは湖の中に入っていく。
その様子を見ていた三人は釣りの手を止め、キングヒグマの動向を見守っていた。すると、キングヒグマは水中にもぐる。
そして、突然魚が空中に舞い上がった。
舞い上がった魚は船に落ちる。
三人は驚いたように魚をのぞき込んで、キングヒグマはのそのそと湖から上がってきた。上がってきたかと思うと立ち上がる。
「なるほど、用事を終わらせて早く戦おうということか」
「グル」
「いいだろう。勝ち逃げは許さないか。ならば答えるのみ」
私は刀を構える。
キングヒグマはそのでかい巨体を走らせ距離を詰める。そしてでかい爪を振り下ろしてきた。私は刀でその爪を何とか受け止める。
レベルが上がったのか受け止めることはギリできるようになった。が、重い。初めてつばぜり合いで負けそうだ。
「グラァ」
「ずいぶんと上機嫌だな……。攻撃を受け止められるとは思ってなかったか?」
確かに以前は躱していただけだからな。
「ふんっ……」
私は力を籠める。
ここは受け流すしかない。受け止められるだけの力しかまだない。弾き飛ばすことは不可能だ。
私は刀をそらし爪の軌道を変える。私の横に爪が振り下ろされた。
「きついな。真正面からじゃまだ競合えそうにない」
なので私は相手の不意を衝く戦い方に変更だ。
私は一度距離を取る。距離を取った背後にはちょうど湖の水があった。私は手でひと掬いし、手にためた水をキングヒグマの目をめがけて放つ。
キングヒグマは水がもろに目にはいり目をつむる。
「隙ありだ」
私は刀を胸のあたりに突き刺す。
キングヒグマは叫び声をあげた。だがしかし、キングヒグマは冷静に私をひっかこうとしてくるので私は刀を抜き横に飛びのく。
「何度も心臓に突き刺してるのに死なないとか化け物か」
「グラァ」
「だがそんな化け物と戦うほど血が湧き踊る」
私は勝負事が好きだ。
生死を分けた勝負が特に大好きだ。だからこそ燃える。
「まだ私の刀はお前には届かないだろうがな、一生消えない傷をお前につけてやる」
私は突進してくるキングヒグマめがけて剣を振り下ろす。
刀はキングヒグマの顔に当たり、目のあたりから血が噴き出てきた。その血は私の顔に当たり、目をふさがれる。
「前が見えない」
「グラァアアア!」
終わりだと言わんばかりの咆哮。
私は死を覚悟した。そのまま刀を鞘に戻し、来たるべく攻撃を待つ。今回は私の負けだ。認めるよ。これで私の戦績に一つ傷がついた。が、目に傷を負わせた私もまた、すごいものだろう。
「またやろう。キングヒグマよ」
「グラァ!」
私の体力は一気に削られたのだった。




