魚は釣れず地球は釣れる
湖のほとり。湖の周りには鹿などの動物がおり、花も咲いている。
私たちはというとボートに乗っていた。ボートに乗り釣り糸を垂らしている。
「なんか至って地味やなぁ」
「そういうな。これもクエストだ」
ミロクが受けてきた依頼……。湖に棲む幻の魚を食べたいということなのでそれを釣るということ。初心者に優しいクエストらしく装備とかがちがちにしないでもいい。ただ釣りをするだけ。
必要なのはボートを借りるお金だけだ。
「……」
「どうしたミツネ」
「どうも、しない」
不安だ。
私はこの手のものは得意じゃない。私はこういった魚釣りなどで魚を釣り上げた記憶はない。
友人に誘われ海釣りに行った時もヒトデだったり地球だったりしかなかった。地球は重くてびくともしなかったが。
魚が私のせいで逃げてるとまで言われたことがある。だからこそ魚釣りは得意じゃない。
「お、ひいとるひいとる! うおりゃあああああ!」
「ミロク! 引いてるよ!」
「うお、まじだ」
「って僕も引いてる!」
周りが魚を釣り上げる。私の竿には反応はない。
釣りは忍耐とよく言う。忍耐は得意だ。その気になれば一日でも二日でも待てる。だがしかし、それで来るかというと話は別となる。
「またきたでえ! 入れ食い状態やなぁ!」
「だけどフナとかそんなんばっか!」
「幻は幻だってことだな」
「…………」
私の竿には反応はいまだになし。
「こうも連続で来ると案外楽しいもんやなぁ!」
「そう、だね!」
「幻はまだ来てないけどな!」
「…………」
私は竿を見続けて二時間がたった。
ほかの三人はアイテムを入れる袋が満杯になるくらいには釣り上げていた。それ以上になっていたのでキャッチアンドリリースしている。
「いったん休憩しよう。魚とかいらないものを逃がそう」
「せやね。調子来いてつりすぎたわ」
「そうだね」
ボートを湖畔に寄せ、地上に降りる。
私はそのまま地面に座る。
「ミツネあんたは逃がさへんのか?」
「いらん」
「こうも魚が多いと逆に満杯になりそうなもんだけど……」
「……釣れなかった」
「なんていったんだ?」
私は、大声を張り上げる。
「釣れなかったと言っているだろう!」
そういうと三人が嘘……という顔をしていた。
「私は二時間ただただずっと竿を眺めていただけだ。揺れることもなければ重くなることもなかったぞ。何が入れ食いだ」
「いやいやいや! うちらめっちゃつってたやん!? 入れ食い状態やったんよ!?」
「むしろ一匹もつれないというのはある意味運がよくないか?」
「えっと、ど、どんまい?」
励ましはいらん。
「私はもう釣りはいい。動物でも狩ってる」
「そうすねるなって。次は……」
「次は? 私は昔から魚を釣り上げたことがないぞ」
「……魚釣りって何回やったことがあるの?」
「私の友人が魚釣りが好きでたまに連れていかれるから、それで50はいってるな」
「50もいって魚釣れないってある意味幸運やね……」
「どこがだ。魚釣れない虚無の時間を過ごすことになるんだぞ」
もう私には魚釣りは向いていないようだ。
私は地面に寝そべると申し訳ない顔をした三人がまた魚釣ろうかと言ってボートに乗り始めた。私はそこにおいていかれるのだった。
もう魚は釣らん。




