砂宙の悪魔★
「砂嵐の中に何かいます!」
そしてわたしは視界を遮る砂塵の中に、それを見ました――見た気がしました!
それは、荒れ狂う砂塵に紛れて襲ってきたのです!
わたしは咄嗟に戦棍を振って、障壁の立方体でパーティを囲いました!
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
「なんだ、あれは!?」
猛砂と共に “神璧” にぶち当たるそれを見て、イランさんが戦慄きます!
苦悶に喘ぐゼークリンガーさんを助け起こしながら、半透明の壁に衝突を繰り返す正体不明の襲撃者に視線を走らせます!
ジッとその姿を見つめること、数秒――。
「餓鬼玉です!」
迷宮二層に生息する狂食性の魔物です!
なんと時空――時間と空間まで喰らい尽くしてしまうレア種までいるといわれ、それらは特に “ランゴリアーズ” と呼ばれていました!
「襲ってきているのは “通常種” です! ですがこの凶暴さは――!」
餓鬼玉のモンスターレベルは2.
本来ならレベル8以上の古強者が苦戦する相手ではありません!
しかしゼークリンガーさんの生命力がわずか一撃で半減していることから見て、その攻撃力は迷宮の比ではなく、明らかに強化されています!
「地上の魔素は迷宮よりもずっと濃い! 魔物もその分だけ凶暴になってる!」
ゼークリンガーさんとわたしを背に、イランさんが短剣 を逆手に構えます!
「聖女様は、魔術師 に癒しを!」
ドッジさんもまたイランさんと、わたしたちを挟んで直剣を抜き放ちます!
「“神癒” を使います!」
瀕死の傷ではなく状態異常もない治療に “神癒” は過剰ではありました――が、 “探霊” と同位階だったため “大癒” はもう願えないのです!
“中癒” や “小癒” では手間がかかりすぎました!
「慈母たる女神 “ニルダニス” よ―― “神癒” !」
心身の深奥から大いなる女神の息吹が溢れ出で、苦悶に喘ぐゼークリンガーさんを包み込みます!
瞬時に息を吹き返すゼークリンガーさん!
「あ、ありがとうございます!」
「ノープロブレム!」
「くそっ! よりにもよって砂嵐に紛れて襲ってくるなんて!」
イランさんが “神璧” に体当たりを繰り返す “餓鬼玉” 激しく毒突きます!
まさしくそのとおりでした!
これは暗黒回廊での戦いよりも、なおもやっかいです!
迷宮の真の闇は、それ自体に物理的な痛痒はありません!
ですが “悪魔王” の瘴気に汚染されたこの猛砂の嵐には、皮膚をこそぎいで毒素をなすり込んでくる、強いスリップダメージがあります!
「魔物よりも、この砂嵐の方がやっかいだ! まるでおろし金だ!」」
(“サンドブラスト” は墓石に戒名すら刻んでしまう! “恒楯” がなければ数秒で肌はズタズタにされてしまうでしょう! そしてそれ以上のデバフが襲撃者を覆い隠しているカモフラージュ効果――魔物を視認できない!)
「この状況で最も有効な対抗手段は精霊誘導弾ですが、“火箭” も “火弓” も撃ち尽くしています!」
ゼークリンガーさんが杖術のように杖を構え、背中合わせに立ちます!
「“焔爆” や “焔嵐” なら一瞬で焼き払えますが、この砂嵐の中では……!」
“焔爆” も “烟嵐” もより高位の呪文で威力もありますが、着弾点を中心に炸裂する範囲攻撃呪文です!
精霊誘導によって必中の精密攻撃ができる “火箭” “火弓” と違って、この状況での効果は期待できません!
三倍~四倍に達する威力も、標的を視認できたればこそなのです!
「構わねえから片っ端から焼き払っちまえ!」
「その片っ端が見えないんだ!」
「呪文の無駄撃ちはよせ! 愚の骨頂だ!」
イランさん、ゼークリンガーさん、ドッジさんが背中越しに怒鳴り合います!
焦慮に焼かれているのは、わたしたちこそです!
そしてわたしの焦りは、“神璧” の立方体の中防円陣を組んだわたしたちの中心に集約されていました!
「マズいです! “餓鬼玉” には生者も死者も関係ありません! 動けないヨシュア=ベンさんは格好の獲物です! 今 “神璧” が切れたら彼を守りきれません!」
護りの障壁が切れた瞬間、猛砂の嵐がわたしたちを包み込んで視界を奪います!
自身を守ることさえ困難を極める状況でヨシュア=ベンさんを守るのは、限りなく不可能になるでしょう!
(打開策を! なにか、なにか、動けないヨシュア=ベンさんを守る “悪巧み” を! 動けないヨシュアさんを――)
その時リフレインする焦燥が、恐ろしい思考に至りました!
それは普段のわたしでは絶対に至らないだろう帰結でした!
この状況で可能なのか! できるのか! やれるのか!
もし失敗したら待っているのは最悪の結末です!
でもやらなければ、やはり待っているのは最悪の結末でした!
(だから、やるしかない!)
わたしは意を決して宣言します!
「“魂還の儀式” を執り行います! ここでヨシュア=ベンさんを蘇生させます!」







