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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
665/669

砂宙の悪魔★

「砂嵐の中に何かいます!」


 そしてわたしは視界を遮る砂塵の中に、()()を見ました――見た気がしました!

 ()()は、荒れ狂う砂塵に紛れて襲ってきたのです!

 わたしは咄嗟に戦棍(メイス)を振って、障壁の立方体でパーティを囲いました!


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


挿絵(By みてみん)


「なんだ、あれは!?」


 猛砂と共に “神璧(グレイト・ウォール)” にぶち当たる()()を見て、イランさんが戦慄(わなな)きます!

 苦悶に喘ぐゼークリンガーさんを助け起こしながら、半透明の壁に衝突を繰り返す正体不明の襲撃者に視線を走らせます!

 ジッとその姿を見つめること、数秒――。


餓鬼玉(BON BON)です!」


挿絵(By みてみん)


 迷宮二層に生息する()()()の魔物です!

 なんと時空――時間と空間まで喰らい尽くしてしまうレア種までいるといわれ、それらは特に “ランゴリアーズ” と呼ばれていました!

 

「襲ってきているのは “通常種” です! ですがこの凶暴さは――!」


 餓鬼玉のモンスターレベルは2.

 本来ならレベル8以上(ネームド)古強者(わたしたち)が苦戦する相手ではありません!

 しかしゼークリンガーさんの生命力(ヒットポイント)がわずか一撃(ワンヒット)で半減していることから見て、その攻撃力は迷宮の比ではなく、明らかに強化されています!


地上(ここ)の魔素は迷宮よりもずっと濃い! 魔物もその分だけ凶暴になってる!」


 ゼークリンガーさんとわたしを背に、イランさんが短剣(ショートソード) を逆手に構えます!


「聖女様は、魔術師(メイジ) に癒しを!」


 ドッジさんもまたイランさんと、わたしたちを挟んで直剣を抜き放ちます!


「“神癒(ゴッド・ヒール)” を使います!」


 瀕死の傷ではなく状態(ステータス)異常もない治療に “神癒” は過剰ではありました――が、 “探霊(ディティクト・ソウル)” と同位階だったため “大癒(グレイト・キュア)” はもう願えないのです!

 “中癒(ミドル・キュア)” や “小癒(ライト・キュア)” では手間がかかりすぎました!


「慈母たる女神 “ニルダニス” よ―― “神癒” !」


 心身の深奥から大いなる女神の息吹が溢れ出で、苦悶に喘ぐゼークリンガーさんを包み込みます!

 瞬時に息を吹き返すゼークリンガーさん!


「あ、ありがとうございます!」


「ノープロブレム!」


「くそっ! よりにもよって砂嵐に紛れて襲ってくるなんて!」


 イランさんが “神璧” に体当たりを繰り返す “餓鬼玉” 激しく毒突きます!

 まさしくそのとおりでした!

 これは暗黒回廊(ダークゾーン)での戦いよりも、なおもやっかいです!

 迷宮の真の闇は、それ自体に物理的な痛痒はありません!

 ですが “悪魔王” の瘴気に汚染されたこの猛砂の嵐(サンドブラスト)には、皮膚をこそぎいで毒素をなすり込んでくる、強いスリップダメージがあります!


「魔物よりも、この砂嵐の方がやっかいだ! まるでおろし金(グレーター)だ!」」


(“サンドブラスト” は()()()()()()()()()()()()()! “恒楯コンティニュアル・シールド” がなければ数秒で肌はズタズタにされてしまうでしょう! そしてそれ以上のデバフが襲撃者を覆い隠しているカモフラージュ効果――魔物を視認できない!)


「この状況で最も有効な対抗手段は精霊誘導弾(マジックミサイル)ですが、“火箭サラマンデル・ストーム” も “火弓サラマンデル・ミサイル” も撃ち尽くしています!」


 ゼークリンガーさんが杖術のように(スタッフ)を構え、背中合わせに立ちます!


「“焔爆(フレイム・ボム)” や “焔嵐(ファイア・ストーム)” なら一瞬で焼き払えますが、この砂嵐の中では……!」


 “焔爆” も “烟嵐” もより高位の呪文で威力もありますが、着弾点を中心に炸裂する範囲攻撃呪文です!

 精霊誘導によって必中の精密攻撃ができる “火箭” “火弓” と違って、この状況での効果は期待できません!

 三倍~四倍に達する威力も、標的を視認(ターゲットインサイト)できたればこそなのです!


「構わねえから片っ端から焼き払っちまえ!」


「その片っ端が見えないんだ!」


「呪文の無駄撃ちはよせ! 愚の骨頂だ!」


 イランさん、ゼークリンガーさん、ドッジさんが背中越しに怒鳴り合います!

 焦慮に焼かれているのは、わたしたちこそです!

 そしてわたしの焦りは、“神璧” の立方体の中防円陣サークルフォーメーションを組んだわたしたちの中心に集約されていました!


「マズいです! “餓鬼玉” には生者も死者も関係ありません! 動けないヨシュア=ベンさんは格好の獲物です! 今 “神璧” が切れたら彼を守りきれません!」


 護りの障壁が切れた瞬間、猛砂の嵐がわたしたちを包み込んで視界を奪います! 

 自身を守ることさえ困難を極める状況でヨシュア=ベンさんを守るのは、限りなく不可能になるでしょう!


(打開策を! なにか、なにか、動けないヨシュア=ベンさんを守る “悪巧み” を! 動けないヨシュアさんを――)


 その時リフレインする焦燥が、恐ろしい思考に至りました!

 それは普段のわたしでは絶対に至らないだろう帰結でした!

 この状況で可能なのか! できるのか! やれるのか!

 もし失敗したら待っているのは最悪の結末です!

 でもやらなければ、やはり待っているのは最悪の結末でした!


(だから、やるしかない!) 


 わたしは意を決して宣言(コール)します!


「“魂還の儀式” を執り行います! ここでヨシュア=ベンさんを蘇生させます!」



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― 新着の感想 ―
まさかの蘇生! 色々心配です。
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