水晶のオールナイトフィーバー
パーティは最後のアトラクション “水晶のダンシングオールナイトフィーバー” の入口に立っていました。
死斗?を演じた “紳士用レストルーム” からわずか四区画の距離です。
「名前からして、また幽霊たちの舞踏会みてえなのかな?」
早乙女くんが、難しい顔つきで入口の扉を睨んでいます。
「いや、どっちかというとディスコ系か」
「ディスコって……せめてクラブっていってよ。見かけは子供、中身はオジサン?」
言い直した早乙女くんに、田宮さんが蔑むような哀れむような視線を向けました。
「はぁ!? オールナイトでフィーバーっていったら、ディスコだろ! ――なぁ、そうだよな、枝葉!」
「え、ええ、白いパンタロンをイメージしているのなら、ディスコですね……」
こんなことで同意を求めないでくださいよ。
「ほれ、みろ」
「ディスコでもクラブでもいいが、問題はアトラクションの内容だ――どう思う?」
勝ち誇る早乙女くんをいなして、隼人くんが生真面目に訊いてきました。
そうです、訊ねるのならこういうことを訊いてください。
「正直、見当もつきません。ですが、最初に入った “祝いと狂乱の夜会” とは、まるで違う趣向であることは確かでしょう」
「そうだね、同じようなアトラクションじゃ意味ないもんね」
うんうん、とうなずいて見せたのは、安西さんでした。
「行き着くところ、しょせん迷宮探索は出たとこ勝負です。予想は簡単に覆されて、対策は無駄に終わる――結局は、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するしかありません」
「よし、最後のアトラクション、せいぜい楽しんでやろうじゃないか」
静かな闘志に溢れたリーダーの言葉は、わたしたちの志気を高めました。
五代くんが入口を調べて罠と魔物の気配がないのを確認すると、わたしたちは各自武器を構えて、一斉に突入しました。
その直後、
「――うっ!!!?」
な、なんですか、これは!?
物凄まじい光の奔流が瞳に突き刺さり、網膜を灼きました。
咄嗟に盾かざして防ぎましたが、光は前からだけでなく、頭上からも足下からも、左右からも溢れています。
「な、なにこれ!?」
「落ち着け! 防円陣を組め!」
田宮さんの悲鳴を、隼人くんの怒号のような指示が掻き消しました。
全員が仲間の狼狽する声と乱れた息づかいを頼りに、背中を合わせます。
「クソッ! 目を開けていられねえ!」
「ゲッショー、焦って武器を振り回すなよ! 同士討ちになる!」
「ゲッショーいうな! 俺はまだ在家だ! それにそんなマヌケじゃねえ!」
狼狽する早乙女くんを五代くんが叱咤し、さらに早乙女くんが反駁します。
「こ、これのどこが “水晶のダンシングオールナイトフィーバー” なのよ!」
悲鳴を上げて非難する、安西さん。
確かに水晶は輝く鉱石ですが、この光量は異常です。これではとてもオールナイトでの探索なんて不可能です。なにか特殊な魔法の鉱石なのでしょうか――。
(――いいえ、違います!)
わたしは突然、正解に――このアトラクションの仕組みに気づきました。
そうして早乙女くんに叫びます。
「“永光” を切ってください!」
「なに!? ――あ、そういうことか!」
直後に早乙女くんが小声で何かを唱え、光の暴力が止みました。
そうしてわたしは、ようやくかざしていた盾を下ろし、目蓋を開けました。
予想していたとおりの、そしてそれ以上の光景に息を呑みます。
「これは……まさしく “水晶のダンシングフィーバー” ですね」
そこは壁面から天井から床にいたるまで、すべてが水晶で造られた迷宮でした。
膨大な量の水晶を積み重ね、削り、磨き上げた、幻惑のラビリンス。
「こいつが “永光” を乱反射してたってわけか」
呆けた顔で呟く早乙女くん。
「どうりで目が眩むわけだぜ」
「磨きあげられてはいるけど表面は不整形――まさしく乱反射ね」
田宮さんが壁に触れて、手触りを確認します。
「やっかいだな……回廊が真っ直ぐで見透しがよければまだいいが、これで入組んだ構造だったら、かなり幻惑されるぞ」
渋い顔で唸る隼人くん。
もし魔物と遭遇して戦いになれば、壁面に映り込む影に惑わされるのは容易に想像がつきます。
「座頭市じゃねえんだから、目を瞑っては戦えねえぞ」
早乙女くんがそういって、田宮さんを見ます。
「そ、そこでわたしを見ないでよ」
たじろぐ田宮さん。
さすがにまだ、目を閉じての剣撃には自信がないようです。
「……」
「どうしたの?」
黙り込んで床を見つめている五代くんに、安西さんが訊ねます。
「床が磨き抜かれていて、あのガキの跡が辿りにくい。戦うにしても追うにしてもやっかいな区域だ」
「進発しましょう。複雑でやっかいな区域だからこそ、探索に時間が掛かります」
わたしの意見は受け入れられ、パーティは最後のアトラクションを進みます。
そして早々に、隼人くんの危惧が現実となって現れたのでした。
うねうね、ぐにゃぐにゃ、一区画を進むごとに曲がりくねる回廊に、わたしたちは文字どおり目眩を覚えました。
「ごめん……ちょっと気分が悪くなった」
田宮さんが顔を振って、不調を払おうとします。
田宮さんだけではなく、パーティの全員が眼精疲労で青い顔をしています。
「状態異常を治すには “神癒” しかねえんだけど……さすがにここで使うのはなぁ」
早乙女くんが申し訳なさげに言いました。
今回の体調不良は毒でも麻痺でも石化でもありません。
ただの目の疲れです。
“神癒” は、迷宮探索の切り札。
早乙女くんの言うとおり、ここで使うのは……憚られます。
「気にしなくていい。この程度で “神癒” を使うなんて論外だからな」
隼人くんが、力強く言い放ちます。
全員が同じ意見でした。
ですが『たかが、この程度。されど、この程度』
水晶の乱反射がもたらすデバフは、 認識していた以上にわたしたちを蝕んでいたのです。
集中力の欠如――。
水晶の輝きの中に、歪んだ “道化師” の姿が映り込んでいることに、誰一人として気づかなかったのですから。







