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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
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水晶のオールナイトフィーバー

 パーティは最後のアトラクション “水晶のダンシングオールナイトフィーバー” の入口に立っていました。

 死斗?を演じた “紳士用レストルーム” からわずか四区画(ブロック)の距離です。


「名前からして、また幽霊たちの舞踏会みてえなのかな?」


 早乙女くんが、難しい顔つきで入口の扉を睨んでいます。


「いや、どっちかというとディスコ系か」


「ディスコって……せめてクラブっていってよ。見かけは子供、中身はオジサン?」


 言い直した早乙女くんに、田宮さんが蔑むような哀れむような視線を向けました。


「はぁ!? オールナイトでフィーバーっていったら、ディスコだろ! ――なぁ、そうだよな、枝葉!」


「え、ええ、白いパンタロンをイメージしているのなら、ディスコですね……」


 こんなことで同意を求めないでくださいよ。


「ほれ、みろ」


「ディスコでもクラブでもいいが、問題はアトラクションの内容だ――どう思う?」


 勝ち誇る早乙女くんをいなして、隼人くんが生真面目に訊いてきました。

 そうです、訊ねるのならこういうことを訊いてください。


「正直、見当もつきません。ですが、最初に入った “祝いと狂乱の夜会(ダンスパーティー)” とは、まるで違う趣向であることは確かでしょう」


「そうだね、同じようなアトラクションじゃ意味ないもんね」


 うんうん、とうなずいて見せたのは、安西さんでした。


「行き着くところ、しょせん迷宮探索は出たとこ勝負です。予想は簡単に覆されて、対策は無駄に終わる――結局は、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するしかありません」


「よし、最後のアトラクション、せいぜい楽しんでやろうじゃないか」


 静かな闘志に溢れたリーダーの言葉は、わたしたちの志気を高めました。

 五代くんが入口を調べて罠と魔物の気配がないのを確認すると、わたしたちは各自武器を構えて、一斉に突入しました。

 その直後、


「――うっ!!!?」


 な、なんですか、これは!?

 物凄まじい光の奔流が瞳に突き刺さり、網膜を灼きました。

 咄嗟に盾かざして防ぎましたが、光は前からだけでなく、頭上からも足下からも、左右からも溢れています。


「な、なにこれ!?」


「落ち着け! 防円陣サークル・フォーメーションを組め!」


 田宮さんの悲鳴を、隼人くんの怒号のような指示が掻き消しました。

 全員が仲間の狼狽する声と乱れた息づかいを頼りに、背中を合わせます。


「クソッ! 目を開けていられねえ!」


「ゲッショー、焦って武器を振り回すなよ! 同士討ちになる!」


「ゲッショーいうな! 俺はまだ在家だ! それにそんなマヌケじゃねえ!」


 狼狽する早乙女くんを五代くんが叱咤し、さらに早乙女くんが反駁します。


「こ、これのどこが “水晶のダンシングオールナイトフィーバー” なのよ!」


 悲鳴を上げて非難する、安西さん。


 確かに水晶は輝く鉱石ですが、この光量は異常です。これではとてもオールナイトでの探索(フィーバー)なんて不可能です。なにか特殊な魔法の鉱石なのでしょうか――。


(――いいえ、違います!)


 わたしは突然、正解に――このアトラクションの仕組みに気づきました。

 そうして()()()()()に叫びます。


「“永光コンティニュアル・ライト” を切ってください!」


「なに!? ――あ、そういうことか!」


 直後に早乙女くんが小声で何かを唱え、光の暴力が止みました。

 そうしてわたしは、ようやくかざしていた盾を下ろし、目蓋を開けました。

 予想していたとおりの、そしてそれ以上の光景に息を呑みます。


「これは……まさしく “水晶のダンシングフィーバー” ですね」


 そこは壁面から天井から床にいたるまで、すべてが水晶(クリスタル)で造られた迷宮でした。

 膨大な量の水晶を積み重ね、削り、磨き上げた、幻惑のラビリンス。


「こいつが “永光” を乱反射してたってわけか」


 呆けた顔で呟く早乙女くん。


「どうりで目が眩むわけだぜ」


「磨きあげられてはいるけど表面は不整形――まさしく乱反射ね」


 田宮さんが壁に触れて、手触りを確認します。


「やっかいだな……回廊が真っ直ぐで見透しがよければまだいいが、これで入組んだ構造だったら、かなり幻惑されるぞ」


 渋い顔で唸る隼人くん。

 もし魔物と遭遇して戦いになれば、壁面に映り込む影に惑わされるのは容易に想像がつきます。


「座頭市じゃねえんだから、目を瞑っては戦えねえぞ」


 早乙女くんがそういって、田宮さんを見ます。


「そ、そこでわたしを見ないでよ」


 たじろぐ田宮さん。

 さすがにまだ、目を閉じての剣撃には自信がないようです。


「……」


「どうしたの?」


 黙り込んで床を見つめている五代くんに、安西さんが訊ねます。


「床が磨き抜かれていて、あのガキの跡が辿りにくい。戦うにしても追うにしてもやっかいな区域(エリア)だ」


「進発しましょう。複雑でやっかいな区域だからこそ、探索に時間が掛かります」 


 わたしの意見は受け入れられ、パーティは最後のアトラクションを進みます。

 そして早々に、隼人くんの危惧が現実となって現れたのでした。

 うねうね、ぐにゃぐにゃ、一区画(ブロック)を進むごとに曲がりくねる回廊に、わたしたちは文字どおり目眩を覚えました。


「ごめん……ちょっと気分が悪くなった」


 田宮さんが顔を振って、不調を払おうとします。

 田宮さんだけではなく、パーティの全員が()()()()で青い顔をしています。


状態(ステータス)異常を治すには “神癒(ゴッド・ヒール)” しかねえんだけど……さすがにここで使うのはなぁ」 


 早乙女くんが申し訳なさげに言いました。

 今回の体調不良は毒でも麻痺でも石化でもありません。

 ただの目の疲れです。

 “神癒” は、迷宮探索の切り札。

 早乙女くんの言うとおり、ここで使うのは……憚られます。


「気にしなくていい。この程度で “神癒” を使うなんて論外だからな」


 隼人くんが、力強く言い放ちます。

 全員が同じ意見でした。

 ですが『たかが、この程度。されど、この程度』

 水晶の乱反射がもたらす()()()は、 認識していた以上にわたしたちを蝕んでいたのです。

 集中力の欠如――。

 水晶の輝きの中に、歪んだ “道化師” の姿が映り込んでいることに、誰一人として気づかなかったのですから。



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― 新着の感想 ―
道化師! すっごく楽しみです!!
ミラーハウスでも、壁にぶつかったりして厄介ですからね。 本格的な罠の場合、危険度は跳ね上がると思います。
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