サドンデス★
人馬一体こそ崩しましたが、重武装重装甲の “黒騎士” と悍馬の魔物 “悪夢”
どちらもまだまだ戦闘力を残しているうえに、片や “呪死”、片や “竜息” という、危険極まる攻撃手段を持っています。
“呪死” は対象者ひとりを、例えどんなに生命力が高かろうとも耐呪できなければ即死させる、忌むべき加護。
“竜息” は炎の息吹で、パーティ全体にダメージを与えてくる範囲攻撃。
各個撃破を狙うにしても、如何にして両者の特殊攻撃を封じるか――。
「瑞穂、月照、“黒騎士” に “静寂” だ! 五代と田宮は騎士に直接攻撃! 安西は “滅消” !」
隼人くんが指示を飛ばすと同時に、自身も“静寂” の加護を嘆願します。
“黒騎士” は暗黒神に帰依する騎士だけあって、聖職者の加護に四五パーセントの耐性があります。
沈黙の加護を三重にも掛け、なおかつ前衛ふたりで “呪死” の嘆願を阻害するのは適切な判断です。
そして “悪夢” のモンスターレベルは6.
この時代には絶えて久しい “滅消” の呪文の好餌でしかありません。
(問題は、安西さんが “悪夢” の竜息よりも先に呪文を詠唱できるかですが――)
しかし心配は杞憂でした。
隼人くんが指示を出す前にすでに詠唱を開始していた安西さんは、“悪夢” の胸が膨らんだときには呪文を完成させていました。
韻を踏んで印を結ぶ。
悍馬の魔物が嘶きひとつあげられないまま塵と化しました。
灰になってしまった最愛の人を背負い連れ帰った経験が、気弱だった彼女を古強者の探索者へと変貌させたのです。
「――さあぁぁっ!」
透き通るような気合いから、田宮さんが抜き打ちの斬撃を放ちます。
鞘走った刃が加護の嘆願に集中する重騎士を襲い、鮮血が飛びました。
しかし装甲の隙間を斬り裂かれながら、祝詞は止まりません。
「――っ!」
“黒騎士” の背後に回った五代くんが背中を駆け上り、首筋のやはり隙間を狙って切っ先を突き刺しますが、それでも騎士は祈祷はやめません。
一度祈祷のトランス状態に陥ると、物理的なダメージでは息の根を止めない限り、魔法の行使は止められないのです。
あとは “静寂” の加護で封じるしかありません。
“黒騎士” が唱える “呪死”は、第五位階の加護。
対してわたしたちが唱える “静寂” は、第二位階。
祈りの文言は短く、祝詞は簡潔です。
「“静寂” !」
「“静寂” !」
「“静寂” !」
“黒騎士” に先んじ僅かなラグを置いて、わたし、早乙女くん、隼人くんの順で、それぞれが帰依する神々に嘆願が受け入れられました。
三重に投げつけられる沈黙の加護。
まずはわたし――四五パーセントの壁に阻まれました。
そして早乙女くん、“黒騎士” はこれも弾きます。
頼むは隼人くんの加護――ですが、あろうことか暗黒騎士の闇に染まった信仰は、これすらも抵抗してみせたのです。
「三連続でしくじった!?」
驚愕する早乙女くんを無視して完成する、“黒騎士” の祝詞。
暗黒神に対象の命を持ち去るように嘆願する呪殺の加護が向けられます。
“黒騎士” がゆっくり指差したのは――。
(わたし!?)
直後、鷲掴みにされるような衝撃が心臓に走りました!
その手は氷のように冷たく、死人の――死神の手です!
「ぐっ!!!」
「瑞穂!?」「枝葉さん!?」「枝葉!?」
くの字に折れる身体、止まる呼吸、総身から噴き出る冷たい汗!
(――慈母なる女神 “ニルダニス” よ!)
耐呪すべく、苦悶に歪んだ表情で女神に祈りを捧げます!
拮抗する聖と魔の信仰!
しかし “黒騎士” のモンスターレベルは14!
わたしのレベルを凌駕します!
ジリジリと削られる精神力、ジワジワと握られていく心臓――命!
押し切られればわたしは死にます!
(それは望みません!)
「でぃやーーーーーーっっっ!!!」
最後に迸ったのは祈りの文言ではなく、生への渇望! 執念!
「瑞穂!」
「はぁ、はぁ、はぁ――! 大丈夫です、耐呪しました!」
全身を濡らす脂汗!
でもわたしは生きています!
「さあ、今度はこちらの手番です!」
安堵の表情を浮べる仲間を鼓舞し、再び “呪死” の嘆願を始める “黒騎士” に反撃の狼煙をあげます。
「揉み潰せ!」
隼人くんの鋭声と共に、前衛の三人が “黒騎士” に殺到しました。
安西さんがトドメの呪文を詠唱します。
戦力比は6:1.
“黒騎士” に、波状攻撃に耐えて次発の加護を嘆願できる生命力は残っておらず、わたしが最初の“呪死”に耐えた時点で勝敗は決していました。
“凍波” に晒され真っ白になった甲冑が、激しい金属音を立てて回廊に倒れ込み、戦闘は終結しました。
迷宮に静寂が戻ります。
「瑞穂、大丈夫か?」
「はい。耐呪できた以上、“呪死” の加護で傷つくことはありません」
「よかった。こっちの心臓が止まるかと思ったぜ」
胸を撫で下ろす早乙女くんに微笑み、すぐに表情を引き締めます。
「思いの外、苦戦しました。一回の戦闘にしては精神力の消費も激しいです」
「そうね、わずか二匹の敵に……地下五階ともなるとやはり手強いわ」
「あの娘を追うぞ。追跡が長引けばジリ貧になる」
田宮さんの言葉を受け、隼人くんが進発を宣言します。
このまま徘徊する魔物との遭遇が続けば精神力が枯渇し進むに進めなくなるうえ、キーアイテムを取り返さなければ戻るにも戻れません。
わたしたちの想像を超えて、この “遊園地” は悪辣です。







