激闘三連★
それは聖銀に輝く兜だった。
女神の試練の四番手にして、迷宮第四層のフロアボス。
生き身の魔物であればたとえ知性がなくても、突然再出現してきた六人の探索者に驚き、狼狽していただろう。
だが生命を吹き込まれた物である “マジックヘルム” には、そんな脆弱性はない。
むしろ六人 ―― “フレンドシップ7” の方が驚かされかけた。
しかし、そこは数々の死線を潜り抜けてきた熟練者たち。
すぐさま動揺から立ち直り、態勢を整える。
互いに奇襲はなし。
正面切っての激突だ。
“マジックヘルム” は女神ニルダニスの試練だけあり、尋常一様な存在ではない。
レベル:200
生命力:200
装甲値:0
魔法:魔術師系第七位階 聖職者系第七位階
特殊:竜息(冷気)
魔法無効化率:七五パーセント
魔術師の呪文と聖職者の加護を共に最高位階まで唱えてくる上に、生命力の半分の100ダメージに達する、冷気属性の竜息――氷息まで吹いてくる。
モンスターレベルに至っては、なんと200である。
単体としてなら五つの武具のうち、紛れもなく最強の存在だった。
“僭称者” はその最強の武具を、そのままフロアボスとして使っているのだ。
「フェル、パーシャ!」
「慈母たる女神 “ニルダニス” よ!」
「音に聞け、ホビット神速の詠唱、いざ唱えん!」
レットの鋭声に、ふたりの練達の魔法使いが即座に反応、詠唱を開始する。
戦術的指示はパーティのリーダーに任せ、アッシュロードは冷静に状況を見極めていた。
この兜のなによりの脅威は、驚かされた末の氷息だ。
こちらは何も出来ないまま、最悪で100、運が良くても25~50のダメージを受けてしまう。そうなればパーティは瞬時に壊滅~半壊だ。
今回、からくもそれは免れた。
それでも最強の攻撃呪文 “対滅” を唱えてくる。
しかも魔法無効化率は七五パーセント。四回に三回は “静寂” を耐呪する。
(何が来る? “氷息” か? “対滅” か? それとも “神威” か?)
戦場の空気が急激に低下した。
「氷息!」
アッシュロードは警告を発しながら、ここまでは想定通りに運んでいることを認識した。
“対滅” は最悪だが、それでも四分の一の確率で封じることができる。
しかし氷息に “静寂” は効かない。
氷息の威力は生命力に依存する。
なればこそ前衛は遮二無二に、死に物狂いで斬りかからねばならないのだが……アッシュロードも、レットも、カドモフも、動かない。
周囲の気温が更に低下。
短く鋭く吐き出される呼気が、真っ白に凍る。
“マジックヘルム” から “絶零” を超える氷雪の嵐が吹き荒れんとしたした、その瞬間、
「“神璧” !」
「“酸滅” !」
刹那の差で、フェリリルとパーシャの魔法が完成した。
対象とパーティの間の空間を “酸滅” と“神璧” で真空にし、音の伝播を遮断する、アッシュロードが編み出した、対耐呪戦術。
真空は炎を消し去り、冷気の伝播も遮断するので、各種竜息にも効果がある。
現在女王マグダラの命により、リーンガミルの魔術師ギルドが全叡智を結集して、単体で運用可能な新魔法として研究を推し進めている、灰の暗黒卿の悪巧み。
兜が吐き出した氷の息吹が、パーティの眼前で掻き消えた。
「いまだ!」
レットが突撃を指示し、自らも愛剣を煌めかせて突進する。
その数歩先を、アッシュロードはすでに疾駆していた。
カドモフが+2相当の魔斧を手に、ふたりの戦士に続く。
フェリリルとパーシャは、再度同じ詠唱を始める。
遮断の術は性質と仕組み上、重ねがけの必要があるのだ。
アッシュロードの新たな魔剣、銘 “貪るもの” が銀弧を描いて旋回、浮遊する兜に叩きつけられる。
激闘の帰趨は、なお判然としない。
◆◇◆
キュピーンッ!!!
一区画四方の玄室のほぼ中央、五メートルほど先の宙空に、それはいた。
「出たな!」
銀光を発する球体を視界に捉え、スカーレットが身構える。
うなじの毛が逆立つ、風切り音。
超絶な高速回転によって描かれる軌跡が、球体を形作って見えるのだ。
やがて示威行動的な回転が弱まり、錯覚が解けた。
聖銀に輝く、一振りの長剣。
“K.O.D.s” が一角、退魔の聖剣 “エセルナード” 。
今は女神の試練の三番手、“マジックソード” だ。
“マジックソード” は切っ先を下に向けたまま、軽く上下する。
直後、
キュルキュルキュルキュルキュルッッッ!!!
再び迷宮の澱んだ空気を切り裂き、先頭に立つスカーレットに襲い掛かった。
鋭い擦過音に続く、閃光。
聖銀の刀身を聖銀の盾が防ぎ、猛烈な火花が散った。
凡百の品なら、盾ごとなますに刻まれていただろう。
(いや、+1の魔法強化が施された鉄製の盾でも同じだ! 切り刻まれる!)
歴戦の熟練者であるスカーレットをして、心胆を寒からしめる斬れ味。
女戦士は以前に、いま自身を守っている “伝説の盾” を手に入れた戦闘で、やはり高速回転の攻撃を受けていた。
だが剣と盾では同じ回転からの攻撃でも比較にならない。
当然本職の方が、はるかにエッジが鋭い。
切っ先が球体を描く “マジックソード” の連撃に、スカーレットが後ずさる。
(わたしが力負けする!?)
女戦士を救ったのは、僧侶の祈りだった。
「厳父たる男神 “カドルトス” よ―― “神璧” !」
ノエルが帰依する神に加護を嘆願し、スカーレットの周囲に分厚い鉄板に匹敵する障壁を張り巡らせる。
強固な半透明の壁に阻まれ、“マジックソード” の回転がわずかに弱まる。
「黄昏ちゃいな!」
その隙を見逃さず、盗賊 のミーナが所持していた巻物の封を切った。
“宵闇” の呪文に感覚野を狂わされた生命を吹き込まれた物が、明後日の方向に跳ね、まるでバターに突き刺さるように、玄室の壁面に十字の鍔元まで刃を埋めた。
細氷が煌めいた。
瞬時に昇華した水蒸気が、氷晶となって舞い踊る。
身動きの取れない “マジックソード” に叩きつけられる、絶対零度の呪文。
本来ならリーンガミル出身の魔術師でなければ授かれない、冷凍系最上位魔法。
パーシャと共に、女王マグダラから “新たな力” として授かった “絶零” を、ヴァルレハが唱えたのだ。
五つの武具のうちで唯一耐呪能力を持たない魔剣に、真っ白な霜が降りる。
「やった!」
軽戦士のエレンが快哉する。
「……まだだ!」
エレンの弛緩を叱咤したのは、無口な蛮族の戦士だった。
褐色の女人族の視線の先で “マジックソード” がずりずりと壁から抜け出てきた。
刀身すべてが突き刺さったがために、冷気が伝播しきらなかったのだ。
「圧倒しろ! 一閃でも受けに回れば首が飛ぶぞ!」
スカーレットは正確に理解している。
たとえ勝利しても、完全勝利でなければ仲間の誰かが死ぬ戦いだと。
◆◇◆
“君主の聖衣” が、それを纏うソラタカ・ドーンロアに不可思議な活力を注ぎ込んでいる。
筋はより強く、しなやかに。
骨はより硬く、強靱に。
肉体の隅々まで、擬似的な神力を行き渡らせている。
今は滅びた古代魔導王国の匠たちが、女神ニルダニスの創り賜ふた “伝説の鎧” の再現に憑かれて造りだした、聖なる鎧。
布製の鎧でありながら、ミスリル製の板金鎧と同等の装甲値を誇り、悪魔属・不死属・動物属の各魔物に特効の効果を持つ、アーティファクト。
その古代の遺産を着込んだドーンロアと彼の郎党の前に、第五層の試練が浮遊していた。
単体でなければ、紛れもなく最強。
左右一対の籠手が、同時に “対滅” を唱え始める。
★完結! スピンオフ・第三回配信完結しました!
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信~・第三回』
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エバさんが大活躍する、ダンジョン配信物です。
本編への動線確保のため、こちらも応援お願いいたしますm(__)m







