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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
608/669

激闘三連★

挿絵(By みてみん)


 それは聖銀に輝く兜だった。

 女神の試練の四番手にして、迷宮第四層のフロアボス。

 生き身の魔物であればたとえ知性がなくても、突然再出現(テレアウト)してきた六人の探索者に驚き、狼狽していただろう。

 だが生命を吹き込まれた物アニメーテッド・オブジェクトである “マジックヘルム” には、そんな脆弱性はない。

 むしろ六人 ―― “フレンドシップ7” の方が驚かされかけた。


 しかし、そこは数々の死線を潜り抜けてきた熟練者たち。

 すぐさま動揺から立ち直り、態勢を整える。

 互いに奇襲(サプライズ)はなし。

 正面切っての激突だ。


 “マジックヘルム” は女神ニルダニスの試練だけあり、尋常一様な存在ではない。


レベル:200

生命力(ヒットポイント):200

装甲値(アーマークラス):0

魔法:魔術師系第七位階(最高位階) 聖職者系第七位階(最高位階)

特殊:竜息(ブレス)(冷気)

魔法無効化率:七五パーセント 


 魔術師の呪文と聖職者の加護を共に最高位階(レベル)まで唱えてくる上に、生命力の半分の100ダメージに達する、冷気属性の竜息――氷息まで吹いてくる。

 モンスターレベルに至っては、なんと200である。

 単体としてなら五つの武具のうち、紛れもなく最強の存在だった。

 “僭称者(役立たず)” はその最強の武具を、そのままフロアボスとして使っているのだ。


「フェル、パーシャ!」


「慈母たる女神 “ニルダニス” よ!」

「音に聞け、ホビット神速の詠唱、いざ唱えん!」


 レットの鋭声(指示)に、ふたりの練達の魔法使い(スペルキャスター)が即座に反応、詠唱を開始する。

 戦術的指示はパーティのリーダーに任せ、アッシュロードは冷静に状況を見極めていた。

 この兜のなによりの脅威は、驚かされた末の氷息だ。

 こちらは何も出来ないまま、最悪で100、運が良くても25~50のダメージを受けてしまう。そうなればパーティは瞬時に壊滅~半壊だ。

 今回、からくもそれは免れた。

 それでも最強の攻撃呪文 “対滅アカシック・アナイアレイター” を唱えてくる。

 しかも魔法無効化率は七五パーセント。四回に三回は “静寂(サイレンス)” を耐呪(レジスト)する。


(何が来る? “氷息” か? “対滅” か? それとも “神威(ホーリースマイト)” か?)


 戦場の空気が急激に低下した。


「氷息!」


 アッシュロードは警告を発しながら、ここまでは想定通りに運んでいることを認識した。

 “対滅” は最悪だが、それでも四分の一の確率で封じることができる。

 しかし氷息に “静寂” は効かない。

 氷息の威力は生命力に依存する。

 なればこそ前衛は遮二無二に、死に物狂いで斬りかからねばならないのだが……アッシュロードも、レットも、カドモフも、動かない。


 周囲の気温が更に低下。

 短く鋭く吐き出される呼気が、真っ白に凍る。

 

 “マジックヘルム” から “絶零(アブソリュート・ゼロ)” を超える氷雪の嵐が吹き荒れんとしたした、その瞬間、


「“神璧(グレイト・ウォール)” !」

「“酸滅オキシジェン・デストロイ” !」


 刹那の差で、フェリリルとパーシャの魔法が完成した。

 対象とパーティの間の空間を “酸滅” と“神璧” で真空にし、音の伝播を遮断(コ・ルツ)する、アッシュロードが編み出した、対耐呪(レジスト)戦術。

 真空は炎を消し去り、冷気の伝播も遮断するので、各種竜息(ブレス)にも効果がある。

 現在女王マグダラの命により、リーンガミルの魔術師ギルドが全叡智を結集して、単体で運用可能な新魔法として研究を推し進めている、灰の暗黒卿アッシュ・ザ・レイバーロードの悪巧み。

 兜が吐き出した氷の息吹が、パーティの眼前で掻き消えた。


「いまだ!」


 レットが突撃を指示し、自らも愛剣を煌めかせて突進する。

 その数歩先を、アッシュロードはすでに疾駆していた。

 カドモフが+2相当の魔斧を手に、ふたりの戦士に続く。

 フェリリルとパーシャは、再度同じ詠唱を始める。

 遮断の術は性質と仕組み上、重ねがけの必要があるのだ。

 アッシュロードの新たな魔剣、銘 “貪るもの(カニバーン)” が銀弧を描いて旋回、浮遊する兜に叩きつけられる。

 激闘の帰趨(きすう)は、なお判然としない。

 

◆◇◆


 キュピーンッ!!!


 一区画(ブロック)四方の玄室のほぼ中央、五メートルほど先の宙空に、それはいた。


「出たな!」


 銀光を発する()()を視界に捉え、スカーレットが身構える。

 うなじの毛が逆立つ、風切り音。

 超絶な高速回転によって描かれる軌跡が、球体を形作って見えるのだ。

 やがて示威行動的な回転が弱まり、錯覚が解けた。

   

挿絵(By みてみん)


 聖銀に輝く、一振りの長剣(ブロードソード)

 “K.O.D.sナイト・オブ・ディスティニー・シリーズ” が一角、退魔の聖剣 “エセルナード” 。

 今は女神の試練の三番手、“マジックソード” だ。

 “マジックソード” は切っ先を下に向けたまま、軽く上下する。

 直後、


 キュルキュルキュルキュルキュルッッッ!!!


 再び迷宮の澱んだ空気を切り裂き、先頭に立つスカーレットに襲い掛かった。

 鋭い擦過音に続く、閃光(スパーク)

 聖銀の刀身を聖銀の盾が防ぎ、猛烈な火花が散った。

 凡百の品なら、盾ごとなますに刻まれていただろう。


(いや、+1の魔法強化が施された鉄製の盾でも同じだ! 切り刻まれる!)


 歴戦の熟練者であるスカーレットをして、心胆を寒からしめる斬れ味。

 女戦士は以前に、いま自身を守っている “伝説(K.O.D.s)の盾(シールド)” を手に入れた戦闘で、やはり高速回転の攻撃を受けていた。

 だが剣と盾では同じ回転からの攻撃でも比較にならない。

 当然()()()()が、はるかにエッジが鋭い。

 切っ先が球体を描く “マジックソード” の連撃に、スカーレットが後ずさる。


(わたしが力負けする!?)


 女戦士を救ったのは、僧侶(プリーステス)の祈りだった。


「厳父たる男神 “カドルトス” よ―― “神璧(グレイト・ウォール)” !」

 

 ノエルが帰依する神に加護を嘆願し、スカーレットの周囲に分厚い鉄板に匹敵する障壁を張り巡らせる。

 強固な半透明の壁に阻まれ、“マジックソード” の回転がわずかに弱まる。


「黄昏ちゃいな!」


 その隙を見逃さず、盗賊(シーフ) のミーナが所持していた巻物(スクロール)の封を切った。

 “宵闇(トワイライト)” の呪文に感覚野を狂わされた生命を吹き込まれた物アニメーテッド・オブジェクトが、明後日の方向に跳ね、まるでバターに突き刺さるように、玄室の壁面に十字の鍔元まで刃を埋めた。


 細氷(ダイヤモンドダスト)が煌めいた。


 瞬時に昇華した水蒸気が、氷晶となって舞い踊る。

 身動きの取れない “マジックソード” に叩きつけられる、絶対零度の呪文。

 本来ならリーンガミル出身の魔術師でなければ授かれない、冷凍系最上位魔法。

 パーシャと共に、女王マグダラから “新たな力” として授かった “絶零(アブソリュート・ゼロ)” を、ヴァルレハが唱えたのだ。  

 五つの武具のうちで唯一耐呪(レジスト)能力を持たない魔剣に、真っ白な霜が降りる。


「やった!」


 軽戦士のエレンが快哉する。


「……まだだ!」


 エレンの弛緩を叱咤したのは、無口な蛮族の戦士だった。

 褐色の女人族(アマゾネス)の視線の先で “マジックソード” がずりずりと壁から抜け出てきた。

 刀身すべてが突き刺さったがために、冷気が伝播しきらなかったのだ。


「圧倒しろ! 一閃でも受けに回れば首が飛ぶぞ!」


 スカーレットは正確に理解している。

 たとえ勝利しても、完全勝利でなければ仲間の誰かが死ぬ戦いだと。


◆◇◆


 “君主の聖衣(ローズガーブ)” が、それを纏うソラタカ・ドーンロアに不可思議な活力を注ぎ込んでいる。

 筋はより強く、しなやかに。

 骨はより硬く、強靱に。

 肉体の隅々まで、擬似的な神力を行き渡らせている。

 今は滅びた古代魔導王国の匠たちが、女神ニルダニスの創り賜ふた “伝説(K.O.D.s)の鎧(アーマー)” の再現に憑かれて造りだした、聖なる鎧。

 布製の鎧(クロース・アーマー)でありながら、ミスリル製の板金鎧(プレートアーマー)と同等の装甲値(アーマークラス)を誇り、悪魔属・不死属・動物属の各魔物に特効の効果を持つ、アーティファクト。

 その古代の遺産を着込んだドーンロアと彼の郎党(パーティ)の前に、第五層の試練が浮遊していた。

 

挿絵(By みてみん)


 ()()()()()()()、紛れもなく最強。

 左右一対の籠手(ガントレット)が、同時に “対滅アカシック・アナイアレイター” を唱え始める。



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― 新着の感想 ―
[一言] 伝説の武具が一箇所に固まって現れなかっただけ、まだ有情だと思います。
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