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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
604/669

趣向★

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、


 と、まるで重装歩兵(ホップライト)の行軍のような勢いで近づいて来たのは、淑女(レディ)の集団。

 赤を基調に大胆に黒をあしらった見るからにロイヤルなドレスをまとった五人が、なぜこんなにも威圧感を与えるのかというと、彼女たちの身の丈が全員二メートルを超えるからです。 

 先程のビッグマウスさんといい、この階層(フロア)の泉水は、あのエント水か何かなのでしょうか。


「ご機嫌麗しゅう、|紳士・淑女の皆さん《レディース&ジェントルメン》」


 五人の中央に立つ “ロイヤルレディ” が妖艶な笑みで挨拶しました。


「ご、ご機嫌麗しゅう、見え麗しい奥方様」


 固まってしまった隼人くんに変わって、とっさに膝折礼(courtesy)を返します。

 五人のレディは、それっきり何も言わず意味ありげな笑みを浮べて、わたしたちを見下ろしています。

 すぐにピンときたわたしは、革の小袋(お財布)から迷宮金貨を一枚取り出し、


「どうぞ、奥様。親愛の印にお納めくださいませ」


 と差し出しました。

 満足げにうなずくと、金貨を受け取る中央のレディ。


「信用できる方だと思っていますわ」


(おい、淑女のくせに金をせびるのかよ!)


(黙って! 警備員を呼ばれたいの!?)


(俺たちはちゃんと金を払って入場してるんだぞ!)


 田宮さんと早乙女くんが、囁き合います。

 金貨を受け取ったレディは意に介した様子もなく、


「わたくしは、レディ・メアリー・ジェーン。よろしくお見知りおきを」


 悠然と名乗りました。


「こ、こちらこそ。わたしはエバ・ライスライトと申します、奥様」


 わたしは圧倒されつつも名乗り、他のパーティメンを紹介しました。


「あなた方も今夜の舞踏会に招かれたのかしら?」


「舞踏会……ですか?」


「メンフレディが催す “毎日がお祝い” の舞踏会よ。今夜は、彼の左手のペンだこが腐り堕ちたお祝いなの」


「は、はぁ……ペンだこがですか」


 頭の先から尻尾の先まで、まったく意味がわかりません。


舞踏室(ボールルーム)はあそこに見える南側の扉の先よ。今宵の華になれればよいことがあるかもしれないわね」


 艶然と微笑むと、レディ・メアリー・ジェーンと友人たちは、ザッ、ザッ、ザッと去って行きました。


「ぺ、ペンだこが腐り堕ちたからお祝いだって? 腐ってんのは脳味噌だろ」


 顔面を歪めて、淑女たちの背中を見送る早乙女くん。


「確かにな」


 その早乙女くんに、五代くんが珍しく相槌を打ちます。


「見ろ」


 五代くんがしゃくった顎の先には、壁一面に大きなポスターが貼られていて……。


挿絵(By みてみん)


ご挨拶


『ようこそ! 娯楽の殿堂 “メンフレディのテーマパーク” へ!

 一生遊んでても飽きないおもしろさ!(簡単には帰しませんよ!)

 小さなお友達も、大きなお友達も、思う存分ロストするまで遊んでいってね!


 総支配人メンフレディ♥


 P.S.

 本人は地獄にいます』



「「「「「「………………」」」」」」


 寒々とした、沈黙の六重奏が奏でられます。

 ポスターに描かれていたのは、ボロボロの貴族服をまとった熟しに熟した……。


「た、確かに腐っているようですね」


「こ、この人?……が、メンフレディなの?」


「総支配人からのご挨拶……って書いてあるから、そうなんでしょ……」


 わたし、安西さん、田宮さんのこれまた寒々しい会話です。


「……」


「~まだ何かあるのかよ、志摩?」


 黙然と考え込んでいる隼人くんに気づき、早乙女くんがうんざり訊ねます。


「いや、さっきの奥方、メアリー・ジェーンって名乗ったよな」


「ああ、確かそんな名前だったな――それがどうかしたのか?」


「何か心当たりがあるの? 欧米じゃありふれた名前じゃない」


 早乙女くんに続いて、田宮さんも小首を傾げます。


「一人だけ。メアリー・ジェーン・ケリー……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リパー)の最後の犠牲者だ」


 今度こそ本当に背筋に寒気が走りました。


「ぐ、偶然よ――ね? そう思うでしょ?」


 安西さんが青くなって、隣りの五代くんにしがみつきました。


「……いや、確か切り裂きジャックの犠牲者は五人。さっきの女どもも――」


 ポカッ!


「も~! なんでそこで志摩くんの味方をしちゃうのよ!」


「……」


「やっぱり考えすぎだな。安西の言うとおりだ。いくらなんでもこじつけだろう」


 隼人くんが顔を左右に振った直後、三体の徘徊する魔物ワンダリングモンスターが現れました。


「こじつけではないかもしれません。ここは()()()()()趣向(テーマ)の遊園地なのかも―― 徘徊する魔物ワンダリングモンスター遭遇(エンカウント) !」


「FunGaaaa!!!」


「ZamaSuuuu!!!」


「WooodeGansu!!!」


 奇態な雄叫びを上げて迫ってきたのは、なんと “フランケンシュタインの怪物” 、“吸血鬼” 、“狼男” の――。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「『怪物三人組』かよ!?」


 子供でも知っている怪物(モンスター)の代名詞の出現に、早乙女くんが仰天します。


「瑞穂と月照は “吸血鬼(バンパイア)” を抑えろ! 田宮と五代は “狼男” を殺れ! フランケンは俺が抑える!」


 練達の反応で隼人くんが指示を出したときには、全員が武器を手に身構え、体勢を整えていました。


(“吸血鬼” ―― “紫衣の魔女(アンドリーナ)の迷宮” では深層階に出現する不死属(アンデッド)の代名詞。ここで初遭遇するとは思いませんでした)


 気配と容貌から察するに、“真祖(ロード)” ではなく “下僕(レッサー)” 。

 “怪物百科モンスターズ・マニュアル” によると、魔女の迷宮に出現する低位の “吸血鬼” のレベルは11.

 おそらく、一〇〇年後のこの迷宮でも能力的には大差ないでしょう。


「合体祈祷で解呪(ディスペル)します! 合わせてください!」


「おう!」


「――慈母なる女神 “ニルダニス” よ!」

「――厳父たる男神 “カドルトス” よ!」


 メゾソプラノとバスの祝詞(しゅくし)が重なり、ふたりの身体の深奥から、魂の安息を得らずさまよう者を解き放つ、聖なる風が湧き起こります。

 清浄な祈りが不浄なる呪力とぶつかり合い、拮抗し、洗い流します。

 牙を剥き、真紅の鋭爪(とづめ)を振り上げたまま硬直した “吸血鬼” は、すぐに清浄無垢な塵となって崩れ去りました。


「どうだ!」


 鼻息も荒く勝ち誇る早乙女くんの隣りで、わたしはさらさらと風に消えてゆく塵に小さく聖印を切ります。


「灰は灰に塵は塵に、どうか安らかにお眠りください……」


「――気をつけて! 爪が()()()()()! 毒か麻痺があるわよ!」


 鋭い声に顔を上げると、田宮さんが納刀したまま、唸り声を上げる “狼男” と対峙していました。

 互いの隙を探り合う、田宮さんと “狼男” 。

 先に動いたのは “狼男” でした。

 姿の見えない五代くんに、背後を衝かれることを怖れたのでしょう。

 牙と爪を剥いて、野獣に相応しい身ごなしで田宮さんに襲い掛かりました。

 本能がもたらした過ちでした。

 “居合い” の達人である田宮さんへの先制攻撃は、死地に飛び込むのと同じです。

 ラーラさんから譲り受けた無銘の業物が鞘走り、後の先を取ります。


 剣光一閃。


 両手首を切り飛ばされ、鮮血を吹き零して仰け反った “狼男” の背に、五代くんの

短剣(ショートソード) が深々と突き刺さりました。

 必殺の、|隠れる《Hide in Shadow》からの|不意打ち《Sneak Attack》。

 強靱な生命力を誇るさしもの “獣憑き(ライカンスロープ)” も、心臓を貫かれては耐えられる道理がありません。


 ……カラン……。


 倒れ込む “狼男” から、なぜか使い込まれた “和包丁” が転げ落ちました。


「FunGaaaa!!! FunGaaaa!!!」


 最後に残った “フランケンシュタインの怪物” が、討ち取られた “吸血鬼” と “狼男” を見て、悲憤の雄叫びを上げました。

 狂気の科学者が誕生させた、この|死体を接ぎ合わせた怪物フレッシュゴーレムには、確かに仲間を想う感情があるのです。

 ですが悲しいかな、感情はあっても知能はありません。

 太い両腕から繰り出される一撃は重い破壊力こそ有しているものの、敵対者を打ち倒す技術はありません。

 古強者の隼人くんを相手に、継ぎ接ぎだらけの豪腕は空を切るばかりで、なんらの痛痒も与えられません。


「―― “暗黒(ダークネス)” !」


 そこに安西さんの支援の呪文(デバフ)が飛びました。

 耐呪(レジスト)が不能な魔法の暗闇に視界を奪われ、狼狽した “怪物” が怒号します。

 振り回される両腕を掻い潜った隼人くんの魔剣が、真一文字に “怪物” の胴を切り裂きます。

 “狼男” を屠った田宮さんの刀、五代くんの短剣がそれに続きます。

 それでも絶大な耐久力を持つ人造の巨人は倒れません。

 どこか物悲しく響く雄叫びを上げながら、暴れ続けます。

 

(早く倒れなさい。倒れて楽になりなさい)


 わたしは祈るように、胸の内で繰り返しました。

 やがて……。

 ついに耐久力の限界に達し、“怪物” は地響きと共に倒れました。

 後味の悪さに、勝利の凱歌は上がりませんでした。


「切り替えろ。戦利品を探って進むぞ。まずは外縁(アウトライン)を固めて階層(フロア)の形を見定める」

 

 隼人くんの叱咤に、わたしたちは気を入れ直しました。

 そうして進んでは地図を描き、進んでは遭遇した魔物と戦う、を繰り返します。

 忍耐を強いられる過酷な作業でしたが、その努力は報われて、徐々に羊皮紙の上に階層の形状が浮かび上がってきました。

 この五階は全域が “メンフレディのテーマパーク” で、大きく四つの区域(エリア)に別れていました。

 最初にわたしたちが降り立った区域が、エントランス。

 “メンフレディのテーマパーク” はさらに、


・水晶のダンシングオールナイトフィーバー

・プレイハウス・ミステリーシアター『大人の遊び』

・祝いと狂乱の夜会会場


 ……の三つの区域から成立っていました。

 


★完結! スピンオフ・第三回配信完結しました!


『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信~・第三回』


下のランキングタグから読めます。

エバさんが大活躍する、ダンジョン配信物です。

本編への動線確保のため、こちらも応援お願いいたしますm(__)m


そして作者多忙のため、しばらく週一の掲載になります

ごめんなさい (´;ω;`) ブワッ

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