“東方坊主”
“東方坊主”
その名のとおり、はるか東方から流れてきた異形の僧侶たち。
出身は “蓬莱” とも “絹の国” とも言われ、 長き漂泊の果てにリーンガミルのある “ルタリウス大陸” に流れ着いたそうです。
過酷な雲水行脚で身につけた独自の護身術である “拳法” や “杖術” は、時に忍者の致命の一撃に比肩する冴え見せ、 敵対者の首を刎ねると言われています。
“クィ・サン” とは彼らの故郷の古名とも、経文の一節だとも言われていますが、定かはではありません。
その異形にして異邦の僧侶たちが六人、横列に並び、わたしたちを圧しています。
全員が網代笠を目深に被っているので表情はわかりませんが、手にする鈴と錫杖の音の激しさから、友好的ではないことは一聴瞭然です。
パーティは剣を抜き、戦棍を構え、刀の柄に手を添えました。
魔法使いは加護を祈祷し、呪文を詠唱するために、それぞれのルーティンで精神を統一します。
話し合いの余地も、そのつもりもありません。
チリン、チリン、チリン、チリン、チリン、チリン!
シャン、シャン、シャン、シャン、シャン、シャン!
――シャンッッッ!
六人の雲水の錫杖が一際高く鳴った瞬間、抗争の火蓋が切られました。
「早乙女くん! 身内だからって手加減はなしよ!」
「てやんでぇ、宗旨が違うわ! ――枝葉、行くぞ!」
「はいっ!」
「厳父たる男神 “カドルトス” よ!」「慈母なる女神 “ニルダニス” よ!」
「「“静寂” !」」
早乙女くんとわたしのユニゾンの沈黙の加護が、同様の加護を祈祷していた三人を含む “東方坊主” 全員を包み込みます。
早乙女くんのレベルはまもなくレベル12に届く11、わたしは13.
“東方坊主” のそれは8です。
レベル差による敏捷性の違いが、明暗を分けました。
「どうだ! 無言の行なら最後まで黙ってろ!」
六人全員の魔法を封じた早乙女くんが大喝します。
同じオリエンタルモンクとして対抗心、剥き出しです。
パーティ、“東方坊主” ともに六人。
ともに前衛と後衛三人ずつ。
雲水たちの後衛は祈祷を封じられ、この時点では無力化されました。
しかし前衛の三人は経文を唱えずに向かってきています。
迎え撃つのは、こちらの前衛です。
「――さあっ!」
早乙女くんに発破をかけた田宮さんが、雲水が錫杖を振り上げた刹那の隙を衝き、抜き打ちから鮮やかに胴を払いました。
無銘ながら生半の魔剣が及びもつかない斬れ味を誇る業物は、その一太刀で最初の雲水を打ち倒しました。
“東方坊主” ×1、絶息。
「KiEeeeeeeeッッッッ!!!」
隼人くんが迎え撃った雲水が錫杖を投げ捨て、怪鳥のような気合いを発しました。
バッ、バッ、バッ!
双拳が空を裂き、双脚が風を切ります。
漂泊の身を護ってきた “拳法” が唸りを上げて、隼人くんに襲い掛かります。
隼人くんは冷静でした。
右の回し蹴りを盾で受けると続いて繰り出された左の正拳に合わせて、魔剣を振り抜いたのです。
鮮血が飛び、雲水の左腕が肘から斬り飛ばされました。
網代笠の下の顔が驚愕から苦悶に変わるより速く、隼人くんの横薙ぎの二ノ太刀が雲水の首を刎ねました。
痛みを感じる間もなかっただろう、慈悲の一撃でした。
“東方坊主” ×1、さらに即死。
真っ向から激突した五代くんは、一見すると苦戦しているように見えました。
生粋の前衛職であり戦闘職である他のふたりと違って、五代くんは盗賊 。
本来は中衛職で、その役割は迷宮や宝箱に仕掛けられた罠の発見と解除にあって、正面切っての斬り合いは不得手なのです。
しかし五代くんには、体力差を補ってあまりある武器がありました。
ブチッ、
雲水が躍りかかってくる直前、練達の盗賊だからこその手際で取り出された巻物の封が切られました。
カウンターで解放された魔力が、錫杖を腰だめにしたまま雲水を固めていました。
“石化” の呪文。
わたしたちの時代にはなかった魔法で、前回の探索の戦利品です。
盗賊に “昏睡の巻物” を持たせるのはよくあることですが――。
“昏睡” に比べて効果が半永久的な代わりに、単体にしか効果がありません。
単体でしか出現しない魔物の多くは強大で魔法無効化能力が高く、使い所が難しい魔法でした。
ですが五代くんは持ち前の素早さと機転で、見事に使いこなしてみせたのです。
石化した雲水は慣性のままにつんのめり、耳障りな音を立てて転倒しました。
“神癒” を受けない限り、死んだも同然です。
“東方坊主” ×1、さらに戦闘不能。
そして残る三人の後衛に向けて、完成した安西さんの呪文が吹き荒びます。
気温が100℃も下がったような極寒の冷気が拡がり、湖岸の水が凍り付きました。
リーンガミル聖王国出身の魔術師だけが教授される、冷却系最上位呪文――。
“絶零” です。
中規模範囲までしか効果が及びませんが、期待値は聖職者が授かる最大の攻撃加護 “神威” を上回ります。
レベル11に到達した安西さんは最強の攻撃魔法 “対滅” を除けば、最も威力のあるこの呪文を唱えられるようになったのです。
“東方坊主” の生命力を考えればオーバーキルでしたが、致命の一撃を持つ相手をより確実に倒すための選択だったのでしょう。
残された三人の雲水は瞬時に凍り付き、砕け散りました。
“東方坊主” ×3、絶命。
戦いはパーティの完勝に終わりました。
ガンッ、ガンッ、ガンッ、
『いやぁ、いいもの見せてもらったぜ、ガァ』
ハワード号がマニピュレーターを打ち鳴らし、外部スピーカーからショートさんの声が響きます。
激しく蒸気を上げているのは “絶零” の余波で凍り付いた船体を、解凍しているのでしょう。
『おめえさんたち、ちょっと見ねえ間に随分と腕を上げなすったじゃねえか!』
「ショーちゃん、凍っちゃったみたいだけど大丈夫?」
『オイラは元々絶対零度の宇宙空間を進む船だぜ。これぐらい設計の範囲内よ』
ガァ、ガァ、と愉快げに笑うショートさん。
『それよりもこれが欲しかったんだろう? 忘れずに持って行きな』
マニュピレーターが伸びてきて、掴んでいた “鍵” を渡してくれました。
付着していた胃の内容物はすべて砕き落とされて、二〇センチほどの “骨の鍵” が本来の不気味な姿を現しています。
『おめえさんが、キーアイテムの係なんだろ?』
「何から何までありがとうございます」
『いいってことよ。また水難に遭ったらいつでも使ってくれ。なぁにちょいとばかし水に浸してくれればすぐに戻るからよ――それじゃあな、皆の衆、ガァ!』
そういうとショートさん――万能潜水艦ハワード号は見る見る小さくなって、元の“ゴムのアヒル” に戻りました。
「ありがとう、ショーちゃん。またね」
田宮さんは小さくなったハワード号を拾い上げると優しく言葉をかけ、丁寧に雑嚢に収めました。
「よし、ラーラたちの所に戻るぞ。食料を補充したら今度こそ “ルーソの研究室” に入るんだ」
隼人くんが力強く宣言し、全員がうなずきました。
「……でもキーアイテムが手に入ったのはいいとしてよ、またあの道を戻ると思うと気が滅入るよな」
早乙女くんがゲンナリと吐息します。
広大な暗黒回廊に、無数の小部屋。
腸のごとく蛇行したかと思えば、果てなく続くかのようにどこまでも伸びる回廊。
これから戻る道のりの多難さを思えば、意気が上がるはずもなく……。
「それなんだけど――」
地図を開いていた安西さんが、何かを思いついたようでした。
「そこの小部屋が昇降機 のすぐ南側なの――ほら『長すぎる回廊は作為的』だって言ってたでしょ」
「隠し扉があるっていうのか? さすがにそれは――」
「いいから調べてみて」
反論しかけた五代くんを、安西さんが有無を言わさず従わせます。
まったく恋を成就させた女は無敵です。
肩を竦めて、小部屋の北側の壁を調べ始める五代くん。
ですが今回ばかりは彼氏さん肩を持ってしまいます。
彼が言いかけたとおり、さすがにそれは都合が良すぎるというものでしょう。
「…………あった」
「「「「…………え?」」」」
「隠し扉だ」
「「「「えーーーーーーっっっ!!?」」」」
北面の壁に扉が現れ開けるとそこは、わたしたちが乗ってきた昇降機の中でした。
「それではわたしたちのあの苦労はいったい――」
「「「「「なんだったんだーーーーーーっっっっ!!!」」」」」
最後に脱力なオチがついて、波瀾万丈の第二次探索は終わりました。
原作でも本当に、エレベーターの南の壁に隠し扉があるんですよ^^;







