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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
593/669

湖底二万海里

「深度50に到達。船体水平」


「微速前進」


「微速前進。Aye」


「サーチライト点灯。目視での探査を開始」


「サーチライト点灯、Aye」


 目標深度に達して船体が安定すると、隼人くんが次の指示を出しました。

 船を動かすのは、船舵長の田宮さん。

 サーチライトを点灯させるのは、副船舵手の安西さんです。

 田宮さんが舵を握っているときは、その他の細々とした操作をするのが安西さんの仕事なのです。


「ショーちゃん、操舵のフィードバックがちょっと鈍い感じ。バイラテラルの制御をあと0.2上げて」


『Aye-aye, ma'am――魔術師の嬢ちゃんはどうだい?』


「わたしは丁度いい感じ」


「水測長、スキャンも開始してくれ」


音響探査(スキャン)開始、Aye」


 目視だけではどうしても限界があるので、ソナーを使用したより正確な探査も並行します。

 五代くんの前のサブモニターに音響探査で浮かび上がった湖底の姿が、3D画像で表示されました。同じ画像は正面のメインモニターの一画にも映されます。


「起伏に富んだ地形だ。幅は2kmほどだが、奥行きはかなりある。まだ音が返ってこない」


 モニターにまたひとつ画像が表示されて、それは湖全体を映し出すものでした。

 五代くんの言うとおり両岸は明確になっていますが、対岸はまだ確定しません。

 音響探査中は速力を上げられないので、船は非常にゆっくりした速度で進みます。


『おめえさんたち、喉が渇いてるんじゃねえかい? オイラが見張っててやるからコーヒーブレイクでもしなせえ』


「え!? コーヒーが飲めるの!?」


『もちろんだ。なんならトイレと水浴びも出来るぜ、ガァ』


「「凄い、凄い!」」


 田宮さんと安西さんが、手を合わせてはしゃぎます。


「「船長! 休息を進言します!」」


「~許可する」


 みんなが交代でトイレを使う間に、わたしは船尾の給湯室を確認し、その未来的な設備にまたもや驚かされました。


「凄いですね……本当に万事がSFの世界です」


『元々この船は惑星間航行用だからな。長期間船内で生活できる設備は当然なのさ』


「惑星間……ですか」


ガァ、ガァ(そうそう)。そんでもって、おめえさんたちが二階でみつけたオイラの仕事場が、恒星間航行用の母船(マザーシップ)ってわけさ、ガァ!』


「ショーちゃん、あなた本当に宇宙人だったのね。分かってはいたけど、分かってはいたけど、いろいろとショックだわ」


 会話を聞きつけた田宮さんが、大きな溜息を吐きました。


(ま、まあ、このアカシニア自体が、別の惑星みたいなものですから)


「と、とにかく、コーヒーを淹れますね」


 アヒルさん用なので低く、腰を曲げなければならないのが難点ですが、それ以外は充実した設備の給湯室です。


「トイレの方はどうでした?」


「やっぱり少し低くて慣れないと後ろにひっくり返りそうだった。でもあとは清潔でウオッシュレットも使えるのよ。ただ……」


「? ただ?」


(やっぱりアヒル用だから、いろいろと()()()()が大変なの)


 耳元で苦笑いしながら囁いた田宮さんの意見に、大いに納得のわたしです。


「あ~ん、着替えがあればお風呂に入るのに~」


 と今度は安西さんがやってきました。

 

「さすがに探索中にお風呂はまずいでしょ」


「でもお風呂凄いんだよ、小さなプールくらいあるの。さすがアヒルさんのお風呂。枝葉さんもあとで見てみなよ」


「うんうん、あれは一見の価値があるわ」


「そうですね。後学のためにぜひ」


 そうしてひとしきり会話が盛り上がったあと、不意に田宮さんが笑い出しました。


「しかしまさか、探索中に給湯室でダベリングするとは思わなかったわ」


「ダベリングって、佐那子ちゃん、それ古すぎ」


「女の友情は給湯室で深まる、ですか?」


「学校だと女子トイレだけどね」


 再び笑い声が重なります。

 給湯室に集まってお喋りなんて、本当にOLさんみたいです。



「――はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」


「……サンクス」


「お! ハニー、こいつは美味えぜ!」


「わたしはあんたのハニーじゃないわよ」


「……ノリの悪い奴だ」


 幸せそうな安西さんと五代くん。

 対照的に、田宮さんにツレなくされる早乙女くん。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 そしてそんな友人たちを穏やかに眺める、わたしと隼人くんです。


「本当に美味いな、このコーヒー」


「トイレやお風呂まで完備されているとなると、緊急時のシェルターやセーフハウスとして利用したくなりますよね」


「そうだな――どうだ、ショート?」


『うーん、そいつはちょっと難しいぜ、君主(ロード)の若旦那あらためキャプテン』

 

 モニターを湖底を映像に譲り、音声だけとなったショートさんが申しわけなさげに答えました。


『この船はセイフティが掛けられていて、大量の水に浸さないと元に()()ねえんだ。ほら雑嚢だの背嚢の中で突然膨らんだら、持ち主を押し潰しちまうだろ? ガァ』


「……なるほど、納得だ」


『ま、まあ、どうしてもってんならプログラムを書き換えればなんとかなるけどな。でもそれにはオイラの本体が必要だ。おめえさん方が話してるのはこの船の制御AIだからよ。プログラムがプログラムを書き換えるわけにはいかねえだろ?』


 もっともな言い分に、隼人くんとわたしが苦笑したときでした。


「――コン、ソナー! 1-9-0」


 休憩中でも聴音機(パッシブソナー)のヘッドフォンをつけ続けていた五代くんが、突然声を上げました。


 コン、ソナー――コンタクト、ソナー。

 方位1-9-0に、聴音機が何らかの反応を捉えたのです。


「全員持ち場に戻れ。サーチライト、消灯」


「サーチライト、オフ、Aye」


「機関停止、無音」


「機関停止、無音。Aye」


 サーチライトを消し、水中で懸吊(けんちょう)(静止)します。

 わたしは席に着き、音を立てないようにシートベルトを締めました。

 そして不測の事態に備え、火器管制システムを再度チェックします。


「五代、なんだ?」


「……何かが動いた」


「音響スキャンには反応はないぞ」


「……ああ、だが動いた」


「戦闘配置」


 隼人くんはシステムによる精緻な探査よりも、熟練の聴音手(ソナーマン)である五代くんの耳を信用したようです。

 職人気質(かたぎ)が多いとされる潜水艦乗りの中でも聴音手は、とりわけその傾向が強いとされます。

 盗賊(シーフ) として自分の仕事に強いこだわりを持つ五代くんがその席に着いたのには、何かしらの導きを見てしまいます。


「……1-9-0から、こちらに近づいてきてる。人工物じゃない。だがデカいぞ」


「鯨か?」


「……可能性は無きにしも非ずだが……」


 訊ねる隼人くん、答える五代くんの声の両方に躊躇いがあります。

 この湖にはたして、鯨が生存し続けられるほどの(エサ)ががいるのか。

 おそらくそう考えたのでしょう。


「メインモニターに――!」


 その時、安西さんが叫びました。

 ハッと目を遣ると正面モニターに緑青(ターコイズブルー)に発光する裸女が浮かんでいました。

 スッと前方に腕を伸ばし、闇に包まれた湖中を指差す “水精(ウンディーネ)


「――奴はこっちを捉えてるぞ、志摩!」


「サーチライト点灯!」


 再び灯される、強力な探照灯。

 そしてわたしたちは見たのです。

 漆黒の湖水の中に照らし出された、巨大な影を。

 

「あれは竜属(ドラゴン)――海竜(シーサーペント)か!?」


「海竜は海竜でも、あれは首長竜――プレシオサウルスです!」


 驚愕する早乙女くんの言葉を、わたしは訂正しました。



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― 新着の感想 ―
[一言] ここだけWiz8になってますねw 異世界転生で一番きついのが風呂トイレ事情だと思ってます。 特に女性陣なら、この船を維持するために、大量の水を用意するんじゃないかと思いますね。 そのぐらい…
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