表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
591/669

トランクと裸女★

 九×五区画にも及ぶ広大な暗黒の広間を抜け出たわたしたちはその先で、ようやくふたつの発見をしたのです。


 ひとつは、古びた旅行鞄(トランク)

 もうひとつは、一糸まとわぬ全裸の美女でした。


 トランクは暗黒回廊(ダークゾーン)の先にいくつかあった、一×一区画(ブロック)から見つかりました。

 長い年月を経ていましたが、良い品だったのでしょう。

 造りはしっかりしていて、留め金が少々錆びている以外、保存状態は良好でした。

 五代くんが慎重に解錠してみたところ、入っていたのは両掌に乗るほどの大きさの箱形の物体。


「なんだ、これ?」


「なにかの部品みたいね」


「これは蓄電池(バッテリー)だ」


 首を捻り合う早乙女くんと田宮さんに、隼人くんが言いました。

 隼人くんは機械いじりが好きで、前の世界ではパソコンから自転車までニコイチ、サンコイチで、よくレストアしていたのです。


「蓄電池? なんでそんな物が」


「でもなにかの役には立ちそう。だって電池なのよ。持って行きましょう」


 やはり首を捻る早乙女くんに比べて、田宮さんは前向きでした。


「あ、危なくないの? 硫酸とか入ってるんじゃなかった?」


「密閉型だから大丈夫なはずだ。でも念のため――」


 怖々と五代くんの陰に隠れている安西さん意見に、隼人くん祝詞しゅくしを唱え、蓄電池を “恒楯コンティニュアル・シールド” の加護で包み込みました。


「これで少しは安心だろう」


「オートバイも修理していたのですか?」


 ちょっと根暗なイケメンさん。

 そんな懐かしい彼の素顔を思い出し、隼人くんに微笑みます。


「いずれやってみたくはあった」


 隼人くんも微笑し、束の間でしたが時計の針が何年も巻き戻った気がしました。

 相談の末、蓄電池は荷物に余裕がある早乙女くんが持ち帰ることになりました。


 そして、もうひとつの発見。

 一糸まとわぬ、全裸の美女です。


 彼女と遭遇したのは蓄電池を見つけたのとは別の一×一の玄室でした。

 ここもまた時空が歪んでいるようで、最少の玄室にも関わらず室内には、霧が立ち込める幻想的な湖が広がっていました。

 彼女はその淵に立っていたのです。


挿絵(By みてみん)


 隼人くんたち(男子)も含めて、見とれたり、呆気にとられたりはしません。

 全員が武器を構え、臨戦態勢を採ります。

 前回、全裸の女性―― “樹精(アルラウネ)” ――と遭遇した際には、直後に “赤銅色の悪魔(カッパーデーモン)” が現れたのですから。

 

 女性は妖艶な笑みをわたしたちに向けると湖を指差し、自身も湖水の中にひたひたと歩いて行き、やがて完全に姿を消してしまいました。


「“水精(ウンディーネ)” ……?」


「どちらかというと、“ローレライの魔女(セイレン)” だな……歌は歌ってないが」


 安西さんの震える声に、五代くんが答えます。


「なじかは知らねど、心わびて……」


「気を抜くな、“赤銅色の悪魔” の類いが出てくるかもしれない」


 思わず口ずさんだわたしに、隼人くんの喚起が重なりました。


「どうする? 招待に応じるか?」


 五代くんが霧の湖を見やりながら言いましたが、


「……とはいっても水の底じゃな。龍宮城があっても亀に乗らなきゃ辿り着けない」


 すぐに自己完結の嘆息に変わります。


「「「「「「……………………」」」」」」


 全員、すぐには言葉が出ません。

 正直、どうすればよいのか見当もつきません。


「きゃっ! バイブレーション!」


 そのとき突然、田宮さんが悲鳴を上げて飛び上がりました。


「どうした!?」


雑嚢(ポーチ)が突然震えだしたの――な、なによこれ、気持ち悪い」


 引きつった顔で腰の雑嚢(ざつのう)を見やる田宮さん。

 見れば確かに、小刻みに振動しているのが分かります。


「なにかしらのキーアイテム(パスポート)を持っていますか?」


 わたしも前回の探索のおりに、壁の “悪魔の石刻()” を前にして、雑嚢に入れていた “悪魔の石像” が震えだしたことがあったのです。


「そんな物は持ってないけど――あ!」


 何かを思い出したのか、田宮さんが表情を変えて雑嚢を開けました。


「やっぱり、ショーちゃんの浮き輪!」


 それは前回の探索の開始時に、地下七階に赴く “ダック・(ショートの)オブ・ショート(アヒル)” さんが餞別として田宮さんに渡した、“ゴムのアヒル” でした。

 ショートさんと初めて会ったとき、カナヅチのショートさんが温泉に浸かるために一生懸命膨らませていた、あのゴム製の浮き輪です。


「亀じゃなくてアヒルか――いや、確かに水に浮き輪は付きものかもしれねーけど、それでどうこうなるってもんでもなさそーだぞ」


 早乙女くんがわたしたちの、そして田宮さんの自身の気持ちも代弁して困った顔をしました。


()()()()()()にしたって、あと五つ必要だしね……」


 溜息を吐く安西さん。

 湖の底に何かがあるにしても、浮き輪とは水面に浮いて溺れないための物であり、水の中に潜っていける道具ではありません……。


「な、なによ、そんな目で見なくてもいいでしょ。ショーちゃんの浮き輪なんだからきっと何か凄い力があるのよ」


 田宮さんは恨めしげに言うと浮き輪に口をつけ、プゥと一息だけ吹き込みました。

 本人も本気ではなかったと思います。

 ですがその一息が “ゴムのアヒル” の、秘めたる力(スペシャルパワー)を解放したのです。


 息を吹き込まれた “アヒル” は田宮さんの手の中でブルブルッ!と震えると、驚く彼女の手から跳ねて、ボチャン!と湖面に落ちました。

 そして呆気にとられるわたしたちの目前で見る見る膨れあがり、その姿はまるで、まるで――。


「な、なんじゃこりゃあ!!?」


「わ、わたし箱根に旅行したときにこういうの見たかも……芦ノ湖で浮いてた」


「観光客用の遊覧船……遊覧ボートか」


「一応、全員は乗れそうだが……」


 上から順に、早乙女くん、安西さん、五代くん、隼人くんの述懐です……。


「船尾の方から乗り込めそうですね。ハッチがあります……」


 わたしの感想も、なんとも当たり障りのない、歯切れの悪いものです。


「よし、乗る!」


 最初に意を決したのは田宮さんでした。


「本気か!?」


「決まってるでしょ! ショーちゃんがくれた浮き輪なのよ、悪い方向に行くなんて考えられない!」


 仰天する早乙女くんをひと睨みで黙らせると、田宮さんは肩を怒らせズンズンと、ボート化したアヒル号?に乗り込みました。

 そうして固唾を呑むパーティの前で勢いよくハッチを開けて、中を覗き込みます。


「……うそっ」


「どうした!? 罠か!?」


「違う、違う! これ見て、これ! 早く早く!」


 心配する早乙女くんを強く否定すると、田宮さんが船内を覗き込んだまま、激しく手招きします。


「ま、まさか、干からびたアヒルの死体でもあったか?」


「縁起でもないこと言わないで! いいから見なさい!」


「ま、待て、まだ心の準備が――うおっ!!! なんじゃこりゃあ!!?」


 最後は頭を抑えつけられ、半ば強引に船内を覗かされた早乙女くんが、頓狂な声を上げて仰け反りました。


「どうした、罠か!?」


「だから違うって! いいから見てみろ!  早く!」


 心配する隼人くんを強く否定すると、早乙女くんが船内を覗き込んだまま、激しく手招きをしました。


「このままでは埒があきません。行きましょう」


 わたしは他の三人を促すと、アヒル号に乗り込み、田宮さんと早乙女くんの間から船内を覗き込みました。


「……Wow(ワ~オ)……」


 そこにあったのは薄暗く狭苦しい船倉でも、もちろん干からびたアヒルの死体でもありませんでした。

 中にあったのは広々とした、まるでSF映画に出てくる宇宙船のブリッジのような空間でした。

 正面の大きな(メイン)モニターが点灯し、見知ったアヒルさんの姿が映し出されます。


『ようこそ! 絶対に沈まない、オイラの万能潜水艦 “ハワード号” へ! ガァ!』

 

((((((……えーーーーーーっっっ……))))))



★完結! スピンオフ・第二回配信完結しました!


『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信~・第二回』


下のランキングタグから読めます。

エバさんが大活躍する、ダンジョン配信物です。

本編への動線確保のため、こちらも応援お願いいたしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 巨乳というだけでエバが敵認定するかと思ってました。 エバも成長したようで何よりですw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ