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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
522/669

白い部屋

「踏破はしましたが、すべての謎を解いたわけではありません。最後の “白い部屋” がまだ残っています」


「そうか、そうだったね」


 今度はラーラさんが、顔を左右にしました。


「で結局、その部屋はなんだったのさね?」


 ご神体である “青い炎” が奉られていた “カミカゼ寺院” の本殿。

 その本殿の東側にあったのが、黒い緞帳(カーテン)に覆われた落雷(デストラップ)の部屋。

 そして西側にあったのが、白い緞帳に覆われた――。


「おそらくは二階でトキミさんが守っているのとは別の “時の賢者ルーソ” 様の書斎、あるいは研究室です。時空遮断の魔法が施されていたので、“ロード・ハインマイン” も撤去できなかったのでしょう」


「はっ、不法占拠した俗物にとっちゃ、さぞ目障りだったろうね。いい気味さ」


 不快げに吐き捨てるラーラさん。

 この人もロード・ハインマインには、良い思い出がまったくないのです。


「お陰であの脂ぎった指で荒らされずにすんだ」


 隼人くんが生真面目な表情でうなずきます。


「確かに荒らされずに済んでたのはよかったけどよ、でもまったく意味わからなかったよな、あの部屋」


 腕を組んで大仰に首を捻ったのは、早乙女くん。


 白い緞帳に覆われた玄室は……静寂が支配していました。

 そしてルーソ様の書斎と思われる小部屋にあったのは、またもや一枚の書き置き。

 時の賢者の魔法紋が浮かぶその文書には短く、


「……『月の下、もうひとつの “時の失われし部屋” で待つ』」


「それだよ、それ! まったく意味わかんね!」


 早乙女くんがわたしの呟きに、鼻息も荒くうなずきます。


「迷宮なのに『月の下』ってなんだよ? 『もうひとつの時の失われし部屋』? ()()()()()()()()()()まだ理解できるぜ」


「“時の失われし部屋” は “白い部屋” を指すとして……もうひとつのというからには同じような部屋があるのでしょう。ですが少なくとも一階から三階までの間に、それと思しき場所はありませんでした。一階の崩落区画を除けばですが……」


 迷宮の第一層~第三層は隈なく探索しましたが、それらしい玄室は見つかりませんでした。

 ただ、第一層の一部が崩落で埋まってしまっているのです。

 その奧には五層まで降りられる昇降機(エレベーター) があるらしく、ラーラさんたちが手分けして復旧作業に当たってくれていました。

 パーシャの手紙が収められた 宝箱(チェスト)も、その瓦礫の下からみつかったものなのです。


「あの先にそんな部屋があったなんて話、()()()には聞いてないけどねぇ」


 ボリボリと頭を掻きながら、首を捻るラーラさん。

 わたしの視線がその腰に帯びられている、“蝶飾りのナイフ(バタフライナイフ)” に向けられます。

 ラーラさんのお母さんは先代の自警団のリーダーで、自警団を組織したその人でもあります。

 お名前は……やはりわたしのよく知る、あの人でした。


「そうだとするなら、やっぱり四階以下にあるのよ――ショーちゃん、何か知らない?」


「それなぁ」


 田宮さんに話を振られたショートさんが、濃緑のローブの袖から翼を出して、翼端を平べったい嘴の下に当てました。


「実のところ、オイラ四階には行ったことがねえんだ、ガァ」


「迷宮の霊媒師なのに?」


 と、これは安西さん。


「まさにそれよ。四階には霊媒師だの除霊師だの必要とする()()がいねえのさ。需要がねえのに行くのは酔狂ってもんだろ?」


「それはまあ、確かに……」


「その代わりと言っちゃなんだが、その下の五階には何度も行ってるぜ。()()ともによ、ガァ、ガァ!」


 そういってショートさんは、愉快げに笑いました。


「五階にはなにがあるのですか?」


「五階にはな……」


 わたしの問いに、ショートさんは意味ありげな笑みを浮かべて語り出しました。

 そして……。


「そんな場所が迷宮にあるのですか!?」


 思わず頓狂な声で訊ね返すわたし。


「ああ、人が生きている以上、娯楽ってのは絶対に必要だからな。特にこんなご時世じゃ、余計によ」


 唖然。

 呆然。


「もっとも楽しすぎて、危険な場所でもあるんだけどな! “もっとも危険な遊戯” ってやつよ、ガァ、ガァ、ガァ!」


 自分で自分の冗句が気に入ったのか、ショートさんは両の翼端をお腹に当てて笑い転げました。


「それで、その五階へはどうやって行ってるんだ? 四階には行ったことがないんだろ?」


「もっともな質問だ」


 隼人くんの疑問に、ショートさんが目尻に浮いた涙を拭いながらうなずきます。

 確かに四階を経由せずに、どうやってさらに下層の五階に行っているのでしょう?


「まあ、からくりはこうだ――三階のここんとこに昇降機があるのは、オメエさんたちも見つけただろ?」


 ラーラさんの椅子の上に飛び乗ると、ショートさんが翼の端で執務机の上に広げられた地図をチョンチョンと突きました。


「あれを使えば、二階~五階へは自由に行き来できるって寸法さ」


 第三層を隈なく探索したところ “巨竜の腸” のようにうねる回廊の外縁に、城壁のようにさらにそれを取り囲む真っ直ぐな回廊がありました。

 ショートさんのいう昇降機は、その回廊の終着点に設置されていたものです。

 どこに通じているか不明なので、乗り込むことはありませんでした。


「一度整理しよう。四階へ降りる経路は、“青い部屋” から縄梯子を下りるルートと、三階から昇降機を使うルートのふたつがあるということだな?」


「まあ、そういうこった。あの昇降機は二階から隔離されてるんで、今のところ使いたければ三階から乗るしかねえ。この階の落盤が片付けば、オメエさんたちも使えるようになるぜ。ガァ」


 表情を真面目にして、隼人くんにうなずくショートさん。


「あれを片付けるには、まだもう少し掛かりそうだよ」


「わかっている。急かすつもりはないし、そんな資格がないことも理解している」


「そういってもらえると助かるよ」


 隼人くんとラーラさんが、目礼を交わします。


「どちらのルートを採るにせよ、今はまだ三階まで下りなければならないということですね……」


 わたしは地図に視線を落としながら呟きました。

 昇降機を使えない以上、徐々に探索する階層に達するまでの道のりが長くなるのです。

 それは道中の消耗を意味し、その消耗を抑えるには……。


「……またしばらくトキミの世話になるな」


「お、おう、そうだな!」


 ポツリと呟いた五代くんに、早乙女くんが顔を赤くして同意します。

 そしてそれを見た五代くんが、とてもとても嫌そうな表情を浮かべて……。


「縄梯子と昇降機――どっちにするの、リーダー?」


 田宮さんが隼人くんを見、他のメンバーの視線も彼に集まります。


「縄梯子だ。キーアイテム(パスポート)で隠されていた以上、より重要な区域(エリア)に下りられるかもしれない」


 躊躇うことなく決断を下す、隼人くん。

 全員がうなずき、彼の判断を受け入れました。


 それからわたしたちは、次回の探索についてさらに詳細に検討を重ね、細部を煮詰めました。

 やがてそれも終わり、全員が休息を摂るために、ラーラさんが用意してくれた部屋に引き上げていきました。

 パーティのメンバーやショートさんらが退室し、執務室にはわたしとラーラさんがだけが残りました。


「ん? どうしたんだい、聖女さま?」


「ラーラさん、グレイ・アッシュロードという人の話を、お母様から聞いたことはありませんか?」



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― 新着の感想 ―
[一言] まあ確かに、普通迷宮にはないですよねw 驚くのも無理はないかと。
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