表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
517/669

閑話休題『夜のピクニック ふもっふ?⑪』

「さあ、いよいよ自由歩行です! 頑張っていきましょ~! お~!」


 仮眠を終えた瑞穂は、元気いっぱい。

 六人の先頭に立ってひとりで声援し、ひとりで右手を突き上げ応じている。


「……あと四時間で三〇キロか」


 対照的に道行は、げんなり……げっそりしている。

 同様に仮眠を摂ったというのに、こちらは却って疲労が増してしまったようだ。

 道行はロングスリーパー体質で、本人が言った『一眠り』程度では回復にはほど遠かった。


「大丈夫です! いざとなったらわたしが背負っていってあげますから!」


 例え自分で気づいてなくても、恋する乙女のパワーは無限大。

 冗談ではなく、今の瑞穂なら本当にやりそうである。


「……いや、そこは俺の屍を越えていってもらいてえ」


 ぐったり八兵衛とて男だ。

 さすがにそれでは、情けなさ過ぎるというものだろう。


魔術師(メイジ) を守るのは僧侶(プリーステス)の役目だからな」


「ですです」


 苦笑する空高に、瑞穂が嬉しそうにうなずいた。

 思えばあのアトラクションで空高から掛けられた、


『魔術師 は弱くて死にやすい。悪いけど、枝葉さんが守ってやってくれ』


 という言葉が始まりだったのだ。

 空高は瑞穂に、彼女がずっと望んでいた()()に気づかせ、与えてしまった。

 これで道行はリタイヤ出来なくなった。


 ちなみに道行のステータスを、例によってアトラクション “Dungeon of Death” 風に記してみると、



灰原道行


職業(クラス) :直立老グレートデン

レベル:1

HP :8

筋力 :8

知力 :11

信仰心:5

耐久力:10

敏捷性:8

運  :9


《備考》

潜在能力(ボーナスポイント)は最低の5……。

・……なんか俺だけ低くね?



 ――である。


「今度はぜひ、この六人で行きましょう!」


「いいね、リピーターを狙って前回のデータの引き継ぎができるらしいし、上級職(エリートクラス)転職(クラスチェンジ)できるかもしれない。なにより――」


「今度は六人パーティです!」


 瑞穂は知っている。

 迷宮探索なら四人よりも、断然六人だということを。


「六人だから……なんなのよ?」


 道行どころか空高とも意気投合している瑞穂に、貴理子の声は険しかった。

 彼女には、瑞穂と空高が盛り上がっている理由がわからない。


「片桐さんなら、最初から “(サムライ)” になれるかもしれませんね」


「だから意味が――」


 まったく会話が噛み合わない瑞穂に、貴理子が『少しは空気を読んで!』とばかりに訊ね返したとき、


「あ、片桐さん」


 降って湧いた声が、古風で不器用な少女を自制の崩壊から救った。


「……田宮さん」


 声の主は瑞穂たちのクラスメート、田宮佐那子だった。


「久しぶり! 去年の都大会以来ね!」


「ひ、久しぶり」


「元気だった? 調子はどう?」


「わ、悪くはないわ。普通よ」


「なによ、あんたたち知り合いだったの?」


 突然現れ貴理子と親しげに話し始めた佐那子を、リンダが呆れた様子で見た。


「片桐さんとは宿命のライバルなのよ」


 佐那子が恥ずかしげもなく、恥ずかしいセリフを吐く。


「ああ、そういえば、おふたりとも剣道部でしたね」


 パムッ、と両手を合わせる瑞穂。


「確かに宿命のライバルだな。決勝戦でよく目にするふたりだ」


「そうなのか?」


 うなずく空高に、隼人が訊ねた。


「そうよ~。大きな大会だけでも七回決勝で戦ってるわ」


「へえ、どっちが強いの?」


「通算三勝、四敗! …………わたしのね」


 リンダの言葉に、そういって佐那子が肩を落とした。

 佐那子は安西恋や他の女子クラスメートと一緒に、自由歩行を歩いているようだ。


「たまたまよ。どの試合も本当に僅差の勝負だったし」


 話が噛み合う相手の出現に、貴理子の声に冷静さが戻る。


「それよりも、あなたたちこそ友達だったの?」


「わたしは今夜が初めて。道行と空高は以前に……」


「あ! それじゃ、枝葉さんの彼氏の双子って、いつも片桐さんが話してた!」


 頓狂な声を上げて、佐那子が空高を見た。


「い、いえいえ! 道行くんはこちらの方です! それに()()彼氏ではありません!」


「そうよ、彼氏じゃないわ」


 瑞穂が慌てて道行を紹介すれば、間髪入れずに貴理子が訂正する。

 その様子に佐那子は、三人の複雑で単純な状況を察して、俄然興味が湧いた。

 他人事なら、これほど面白い展開はない。


「初めまして。枝葉さんたちのクラスメート田宮佐那子です。こっちが仲良しの安西恋」


 ゴシップに煌めく瞳をにフレンドリーな笑顔でカモフラージュして、佐那子が挨拶した。


「は、初めまして」


 恋も一見ぶっきらぼうな道行に、おっかなびっくり挨拶する。


「……どうも」


 言葉少なに応じる道行。

 コミュ障気味であり、初対面の女の子ににこやかに応対できるほど()()()は良くない。

 そんな道行をなぜか佐那子は、怪訝な顔で見つめていた。


「な、なに?」


「あなた、どこかで会ったことある?」


「いや、ないと思うけど……」


「だよね。でも、どこかで会った気がする」


「何度か貴理子の応援に行ったことがあるから、その時に見かけたんじゃねえか?」


 だが佐那子の横で、恋も小首を捻っている。

 剣道などとは縁のない恋も、いつかどこかで道行と会った気がしているのだ。

 そして、道行も。


(あれれ? またです)


 首を傾げ合う三人に、瑞穂は奇妙な感慨を抱いた。


(先ほどの “ゆで卵” の件といい――どうも今夜は、皆さんそろって不思議な既視感(デジャヴ)を囚われますね。これも “夜のピクニック” の魔法でしょうか?)


 夜間歩行は参加する者、魔法を掛ける。

 これもその影響だろうか?


(ふふっ、もしかしたらこことは違う世界線(異世界)で出会っていたのかもしれませんね)


 しかし魔法(バフ)が効果を現すのは、いよいよこれからだった。


「――枝葉さん、ちょっといいかな?」


 瑞穂に星城のジャージを着た、見ず知らずの男子が話しかけてきた。


 夜の帳は生徒たちの、普段隠れている素顔を引き出す。

 より大胆に、より積極的に。


 告白タイムが始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 告白タイムですか。 まあ普段知らない一面を見れて、お祭り気分でもありますからね。 感情が高ぶるのもしょうがないかと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ