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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
505/669

ベェ~~!

「ハイハイサーーーーー!!!」


 “風の大王ダイジン” の歓喜の雄叫びが、迷宮の空気を震わせます。

 大気の精霊の頂点に立つ存在だけあって、ええ、その迫力ときたらもう。

 気圧の変化で、鼓膜が押し潰されそうです。


「だ、大王陛下、わかりましたから、もうその辺で!」


 わたしは掌で両耳を押さえながら、懇願しました。

 なにやら強烈な既視感(デジャヴ)があります。

 ああ、そうです。

 世界蛇 “真龍(ラージブレス)” を “妖獣(THE THING)” の呪縛から解き放ったときも、ちょうどこんな感じでした。


 いい加減わたしたちがグロッギーになったとき、ようやく陛下がお鎮まりになりました。


「あ、ありがとう……ございます」


 フラフラする身体で、お礼を述べます。

 クラクラする頭で見上げると、腕組みをした青い半透明の巨体が、満足げに見下ろしています。


「お、お気に召していただけたようで、なによりです」


 どうやら “ダイジン” 陛下の御意に、応えることができたようです。


「その指輪に操られていたのか?」


 隼人くんがやはり手を当てた頭を振りながら、訊ねました。


「そのとおりです」


「ど、どういうこと?」


 刀を鞘に戻すのも忘れて、戸惑う田宮さん。


「風の大王は四大精霊の頂点に立つ強大な存在です。その力は大魔王にも匹敵するでしょう。そんな大王をロード・ハインマインのような人間が従えられるとすれば、それは絶対に破れない強力な契約――強制(ギアス)によるものとしか考えられません」


「その契約の品が、さっき壊した指輪ってわけか」


「見たところランプは持っていないようだったので」


 納得したような、やっぱりしないような早乙女くんに、微笑します。


「アラビアンナイトの基本だもんね」


 こちらはストンと()に落ちたようで、安西さんがうんうんと何度もうなずきました。


「ジンが封じられた指輪か……このデブがそんな半端ない品を造れるとは思えないな。盗んだか、騙して掠め取ったか」


 五代くんの推察は当たらずとも遠からずでしょう。

 外見に比してロード・ハインマインの聖職者としての実力は高そうですが、それでもジンに強制できる魔法の指輪を鋳造(ちゅうぞう)できるとは思えません。


「どうやら片が付いたみたいだな。ガァー!」


「オウ~ン!」


 “マッド・ラマ” の群れを駆逐したショートさんとオウンさんが、意気揚々と引き上げてきました。


「そちらも」


「いや、それにしてもまさかなぁ」


 ショートさんが賛嘆を通り越して、呆れたように顔を振りました。


「ええ、まさかロード・ハインマインが、ジンを支配できる指輪を持っているとは思いませんでした」


「違う、違う」


「え?」


「オイラがたまげてるのは、そのジンを解放しちまうオメエさんの方さ」


「オウン、オウン」


 ショートさん両翼を竦め、オウンさんがオウンオウンとうなずきます。


()()()()()()の言うとおりよ。枝葉さん、よく気づいたわね」


(ショ、ショーちゃん!?)


「運が良かったのです。風のお相撲をしたところ陛下の力がずっと均一だったので、きっと何か伝えたいことがあるのだと思って」


 何やらとんでもない呼び名をサラリと言ってのけた田宮さんに、目を白黒させつつ答えました。


「なんにせよ、また瑞穂に助けられた。あのまま力攻めしてたら、ジンに失望されて揉み潰されていただろう」


 隼人くんの言葉に皆がうなずいたとき、


「はわわわわわ! はわわ! はわわっ!」


 ようやくロード・ハイマインに掛かっていた “棘縛(ソーン・ホールド)” の効果が切れました。


「陛下! ダイジン大王陛下! ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます~~!」


 いきなり土下座して額を床に擦りつける、ロード・ハインマイン。

 この浅ましさ。

 この俗人ぶり。

 まったく見事なまでの転身です。


「ついに古代の腐れ魔術師の呪いを打ち破り、本来のお力でご降臨なされましたな! いやぁ、めでたい! めでたい! めでたすぎる! こぉのロード・ハインマイン、生を受けて以来、このような感激を覚えたことは一度もありませんぞ!」


 ガバッと顔を上げて、汗まみれの顔で必死に愛想(哀訴?)を振りまきます。


「不肖、このロード・ハインマイン! これからも陛下の忠実な下僕として、この寺院で陛下を安んじ奉り、陛下のご威光で世界を照らすべく、粉骨砕身、滅私奉公、狂喜乱舞で邁進する所存でございま――」


「パパラパー」


 大王陛下が一言唱えれば、必至に長広舌をふっていたロード・ハインマインの姿が掻き消えました。

 代わりにそこにいたのは……。


「ベェ~~!」


「あら、可愛いラクダさん」


 こうしてロード・ハインマインはダイジン大王陛下の御慈悲で、ラクダとして第二の人生を送ることになったのでした。


「凶暴な “マッド・ラマ” が生息するこの階層(フロア)で、唯一のラクダとして生きるのは大変でしょうが、あなたならきっと大丈夫でしょう。篤実な聖職者に、女神ニルダニスの御加護を」


 わたしはラクダの()()()()の幸運を祈って、聖印を切りました。


「ベェ~~! ベェ~~! ベェ~~!」


 ともあれ、こうして第三層のラストバトルは終結したのでした。

 なにやらノリノリのうちで始まって、ノリノリのうちに終わってしまいましたが、たまにはこういうノリノリな戦いがあってもよいでしょう。


「さあ、寺院を調べましょう。この階層の探索の総仕上げです」



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― 新着の感想 ―
[一言] ニルダニスも加護与えるの嫌がると思いますw
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