ベェ~~!
「ハイハイサーーーーー!!!」
“風の大王ダイジン” の歓喜の雄叫びが、迷宮の空気を震わせます。
大気の精霊の頂点に立つ存在だけあって、ええ、その迫力ときたらもう。
気圧の変化で、鼓膜が押し潰されそうです。
「だ、大王陛下、わかりましたから、もうその辺で!」
わたしは掌で両耳を押さえながら、懇願しました。
なにやら強烈な既視感があります。
ああ、そうです。
世界蛇 “真龍” を “妖獣” の呪縛から解き放ったときも、ちょうどこんな感じでした。
いい加減わたしたちがグロッギーになったとき、ようやく陛下がお鎮まりになりました。
「あ、ありがとう……ございます」
フラフラする身体で、お礼を述べます。
クラクラする頭で見上げると、腕組みをした青い半透明の巨体が、満足げに見下ろしています。
「お、お気に召していただけたようで、なによりです」
どうやら “ダイジン” 陛下の御意に、応えることができたようです。
「その指輪に操られていたのか?」
隼人くんがやはり手を当てた頭を振りながら、訊ねました。
「そのとおりです」
「ど、どういうこと?」
刀を鞘に戻すのも忘れて、戸惑う田宮さん。
「風の大王は四大精霊の頂点に立つ強大な存在です。その力は大魔王にも匹敵するでしょう。そんな大王をロード・ハインマインのような人間が従えられるとすれば、それは絶対に破れない強力な契約――強制によるものとしか考えられません」
「その契約の品が、さっき壊した指輪ってわけか」
「見たところランプは持っていないようだったので」
納得したような、やっぱりしないような早乙女くんに、微笑します。
「アラビアンナイトの基本だもんね」
こちらはストンと腑に落ちたようで、安西さんがうんうんと何度もうなずきました。
「ジンが封じられた指輪か……このデブがそんな半端ない品を造れるとは思えないな。盗んだか、騙して掠め取ったか」
五代くんの推察は当たらずとも遠からずでしょう。
外見に比してロード・ハインマインの聖職者としての実力は高そうですが、それでもジンに強制できる魔法の指輪を鋳造できるとは思えません。
「どうやら片が付いたみたいだな。ガァー!」
「オウ~ン!」
“マッド・ラマ” の群れを駆逐したショートさんとオウンさんが、意気揚々と引き上げてきました。
「そちらも」
「いや、それにしてもまさかなぁ」
ショートさんが賛嘆を通り越して、呆れたように顔を振りました。
「ええ、まさかロード・ハインマインが、ジンを支配できる指輪を持っているとは思いませんでした」
「違う、違う」
「え?」
「オイラがたまげてるのは、そのジンを解放しちまうオメエさんの方さ」
「オウン、オウン」
ショートさん両翼を竦め、オウンさんがオウンオウンとうなずきます。
「ショーちゃんの言うとおりよ。枝葉さん、よく気づいたわね」
(ショ、ショーちゃん!?)
「運が良かったのです。風のお相撲をしたところ陛下の力がずっと均一だったので、きっと何か伝えたいことがあるのだと思って」
何やらとんでもない呼び名をサラリと言ってのけた田宮さんに、目を白黒させつつ答えました。
「なんにせよ、また瑞穂に助けられた。あのまま力攻めしてたら、ジンに失望されて揉み潰されていただろう」
隼人くんの言葉に皆がうなずいたとき、
「はわわわわわ! はわわ! はわわっ!」
ようやくロード・ハイマインに掛かっていた “棘縛” の効果が切れました。
「陛下! ダイジン大王陛下! ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます~~!」
いきなり土下座して額を床に擦りつける、ロード・ハインマイン。
この浅ましさ。
この俗人ぶり。
まったく見事なまでの転身です。
「ついに古代の腐れ魔術師の呪いを打ち破り、本来のお力でご降臨なされましたな! いやぁ、めでたい! めでたい! めでたすぎる! こぉのロード・ハインマイン、生を受けて以来、このような感激を覚えたことは一度もありませんぞ!」
ガバッと顔を上げて、汗まみれの顔で必死に愛想(哀訴?)を振りまきます。
「不肖、このロード・ハインマイン! これからも陛下の忠実な下僕として、この寺院で陛下を安んじ奉り、陛下のご威光で世界を照らすべく、粉骨砕身、滅私奉公、狂喜乱舞で邁進する所存でございま――」
「パパラパー」
大王陛下が一言唱えれば、必至に長広舌をふっていたロード・ハインマインの姿が掻き消えました。
代わりにそこにいたのは……。
「ベェ~~!」
「あら、可愛いラクダさん」
こうしてロード・ハインマインはダイジン大王陛下の御慈悲で、ラクダとして第二の人生を送ることになったのでした。
「凶暴な “マッド・ラマ” が生息するこの階層で、唯一のラクダとして生きるのは大変でしょうが、あなたならきっと大丈夫でしょう。篤実な聖職者に、女神ニルダニスの御加護を」
わたしはラクダのブービーの幸運を祈って、聖印を切りました。
「ベェ~~! ベェ~~! ベェ~~!」
ともあれ、こうして第三層のラストバトルは終結したのでした。
なにやらノリノリのうちで始まって、ノリノリのうちに終わってしまいましたが、たまにはこういうノリノリな戦いがあってもよいでしょう。
「さあ、寺院を調べましょう。この階層の探索の総仕上げです」







