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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
484/669

三つの扉★

 “林檎の迷宮” 第二層の探索は、難航していた。


 “K.O.D.s(伝説) アーマー(の鎧)” が番人をしていた縄梯子の先で探索者たちを待っていたのは、いきなり魔物の出迎えだった。

 縄梯子は魔物が(ねぐら)にしている玄室の、直中(ただなか)に垂らされていたのである。

 魔物を駆逐して先に進むと、たった今突破した玄室とまったく同じ構造の玄室がさらに三つ続いていて、そのどれにも先住者がいた。

 都合四回の戦闘に勝利して初めて長い回廊に出られ、そこからようやく本格的な探索が始まるのである。


(……さて、問題はここからだ)


 パーティの先陣を切っていたスカーレット・アストラは、長い回廊の先に現れた『三つの扉』を見て、胸の内で独語した。

 全員が熟練者(マスタークラス)で構成される “緋色の矢(彼女たち)” の実力をもってしても、この階層の探索は命がけだ。

 冒頭の四つの玄室を突破するだけで消耗し、それだけで帰還を余儀なくされることもあった。

 今回は幸いにして弱めの魔物が()()()ため、生命力(ヒットポイント) にも精神力(マジックポイント)にも余裕を残している。

 そしてこの階層の(キモ)は、今目の前にある “三つ並んだ扉” だった。


「ど・れ・に・し・よ・う・か・な――」


 盗賊(シーフ) のミーナが順繰りに扉を指さした。

 緊張を紛らわすためだろうが、おどけた仕草の下に張り詰めた横顔が見え隠れしている。


「真ん中だ。左は踏破済みだからな」


「右は?」


「当然真ん中を調べ終えたあとだ」


 ミーナに訊ねられ、大真面目にうなずくスカーレット。

 堅物感丸出しの元姫騎士の返答に、盗賊の少女の表情がようやく和らぐ。


 左の扉の先は一×一区画(ブロック)玄室で、転移地点(テレポイント)が設置されていた。

 飛ばされる先は同階層(フロア)の南東区域(エリア)で、小規模の玄室が無数に連なる構造をしていた。

 (ねぐら)にしている魔物も多く、“緋色の矢” は “フレンドシップ7”と交代で探索し、苦心の末に先日すべての玄室を調べ終えたのだった。


 結果は……なにも無し。


 キーアイテム(パスポート)も、謎かけ(リドル)も、もちろん “伝説の装具”も発見されなかった。

 ただただ探索者たちを引きずり込み、消耗させ、消化しようとする巨大な胃袋()だったのだ。

 転移地点は一方通行であり、生還するには胃袋を切り裂いて出るか、“転移(テレポート)” の呪文を使うしかなかった。


「では、行くとしよう」


 ミーナが扉に危険がないことを確認すると、スカーレットは扉を押し開いた。

 足を踏み入れた直後、目眩にも似た浮遊感が訪れた。

 どうやらこの扉の奥にも、転移地点が置かれていたらしい。

 そして浮遊感が治まると同時に、彼女の視界は闇に囚われていた。


(……暗黒回廊(ダークゾーン)!)


「全員、いるか?」


「……いる」


「いるよ」


「います」


「いるわ」


「いるいる」


 闇の中で問いかけると、ゼブラ、エレン、ノエル、ヴァルレハ、ミーナがそれぞれ応えた。


「また暗黒回廊? ほんとここの迷宮支配者(ダンジョンマスター)はネクラね!」


 ミーナが憤りの籠もった声でぼやく。


「ヴァルレハ、座標の確認を。他の者は周囲の警戒だ」


 スカーレットは抜き身の魔剣を握りながら、指示を下した。


「“()19、()19” ――北東の角にいるわ」


 すぐに魔法の指輪で自位を確かめたヴァルレハが告げる。


「……西か、南か」


 無口なゼブラの呟きが、闇に響く。

 北東の角にいるなら、進めるのはその二択だ。


「南に行こう」


 スカーレットが決断した。

 理由は特にない。

 迷宮探索は行き着くところ、“しらみつぶし”だ。

 後か先か、早いか遅いかの違いでしかない。


 パーティは、


 スカーレット

 ゼブラ

 エレン

 ノエル

 ヴァルレハ

 ミーナ


 ――の、一列縦隊で進発した。


 “伝説の鎧” を着込んだスカーレットが、もっとも危険な先頭に立つ。

 他の装備と “恒楯コンティニュアル・シールド”の加護を加えて、装甲値(アーマークラス)は-11。シャーマン戦車以上だ。

 並の魔物の爪牙など、かすりもしない。


 東の外壁に沿って南下し、定石(セオリー)どおり外縁(アウトライン)を固めることから始める。

 ヴァルレハは優れた記憶力を有する、秀でた地図係(マッパー)だ。

座標(コーディネイト)” の呪文を無限に引き出せる “示位の指輪(コーディネイトリング)” と合わせて、自位を見失うことはまずない。

 パーティは外壁を左手に感じながら進み、行く手に壁が現れるたびに座標を確認して、羊皮紙の端にメモを取った。


 ガタン!


「うおっ!」


 南側に現れた内壁を手探りしていたスカーレットの身体が、突然壁の中に吸い込まれた。

 一切の光のない真の闇に慣れた瞳に、光蘚(ヒカリゴケ)の淡い光が突き刺さる。

 煉瓦造りの壁ではなく扉だったようで、扉の奥は一区画(ブロック)だけ闇が途切れていた。

 スカーレットは後ろを振り向き、ゾッとした。

 そこに扉はなく、煉瓦造りの内壁があるだけだった。


(一方通行の扉!?)


 熟練者の女戦士が心胆を寒からしめたのは、当然だった。

 後続する仲間たちが()()()()()闇中の扉に気づかなければ、パーティは分断されてしまう。

 いくら練達の古強者たちとはいえ、この階層でフルパーティを維持できなければ待っているのは確実な死だ。


 しかし、この時の彼女たちは運が良かった。


 血相を変えたスカーレットが内壁に駆け寄り、大声で仲間の名を叫びかけたとき、壁の中から次々に仲間たちが現れた。


「ゼブラ! エレン! ノエル! ヴァルレハ! ミーナ!」


「ああ、スカーレット! よかった無事だったのね!」


 回復役(ヒーラー)のノエルが、スカーレットの姿を確認して大きく安堵した。


「おまえたちこそ、よくはぐれなかったな」


「あなたが悲鳴を上げてくれたからよ。だからすぐにみんな立ち止まって、状況の確認と検証ができたの」


「あ、あれは悲鳴ではない。吃驚(びっくり)した声だ」


 ヴァルレハの言葉に、誇り高い女戦士は苦しい答えを返した。

 仲間たちが邪気のない笑顔を浮かべほどよく緊張を(ほぐ)すと、パーティは再び歩き出した。


 そこからは、長く忍耐のいる探索だった。

 歩けど歩けど進めど進めど、闇が途切れることはなく、彼女たちの精神はジリジリと消耗していった。

 何度となくキャンプを張っての休息も摂ったが、闇の中ではそれも限界がある。

 スカーレットが “転移” の呪文を使っての帰還を考え始めたとき、またしても手を触れた壁が唐突に消え去り、彼女の身体を吸い込んだ。

 先ほどの光蘚(ヒカリゴケ)の燐光よりも、さらに強く瞳を刺す人工の光。


「ようこそ、偉大なる冒険者よ! たった金貨一〇万枚でそなた達の望む答えが語られよう!」


 法衣(ローブ)をまとった見るからに強欲そうな男が、言った。


挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
[一言] >”伝説の鎧” を着込んだスカーレット レットが着ていた鎧をスカーレットが着る、と。 内心すごく張り切ってるでしょうねw
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