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迷宮保険  作者: 井上啓二
第五章 一〇〇〇年王国の怪人
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金属臭

 ギコギコギコギコギコギコギコギコギコ――!


「フーッ! こいつはキツい仕事だぜ!!」


 作業の手を止めると、早乙女くんが僧衣の袖で額に浮いた汗を拭いました。

 南東区域(エリア)への経路を塞ぐ扉。

 その取っ手に巻き付く鎖を切断する作業は、確かに見ているだけでも労苦が伝わってくるものでした。

 鎖は大蛇のように太いうえに、幾重にもがんじがらめに巻き付けられていて、一筋縄ならぬ一筋鎖にはいきません。

 そんな四苦八苦名な早乙女くんを見て、


「でも、なんか似合ってる」


「うんうん」


「「まるで日曜大工に精を出すお父さんみたい」」


 田宮さんと安西さんが、きゃははは! と笑いました。


「そ、そうか」


「いや、それ褒めてねーから」


 デレッと表情を緩めた早乙女くんに、五代くんがキツい突っ込みを入れます。


「うるせえ! 本来ならおまえの仕事なんだぞ! 文句があるならテメエがやれ! テメエが!」


 手にする “カナ鋸” を突きつけ、怒鳴り散らす早乙女くん。

 五代くんは肩を竦めるだけで、それ以上は絡みません。

 盗賊(シーフ) の手先は繊細な作業をするためにあるといって、()()()ともども早々に早乙女くんに丸投げしてしまったのです。


「俺がやろう」


「悪い、かなり手強いぞ」


 代わって申し出た隼人が微笑してカナ鋸を受け取ります。


 ギコギコギコギコギコギコギコギコギコ――!


「フーッ、こいつは確かにキツい仕事だ」


「「がんばれ、男子~♪」」


 田宮さんと安西さんの声援に後押しされて、隼人くんが鉄粉を飛ばしながら再び鎖に挑みました。


(“カナ鋸” の予備はありません。どうか慎重に)


 わたしは背後に伸びる回廊を警戒しながら、胸の内で語りかけました。

 都合三回にわたってドワーフの廃工房に侵入し、苦心惨憺の末にようやく見つけ出した品です。

 錆び止め(ラスト・シールド)の魔法が施されているとはいえ、それ以外は通常と変わりません。

 発見できたのはこのひとつだけなので、力の入れ具合を間違って刃を折ってしまわないように祈るばかりです。


 結局 “カナ鋸” は、八つある廃工房のうちの八つ目から見つかりました。

 早乙女くんの表現を借りれば、今回わたしたちは徹底的に “ガチャ運” に見放されていたのでしょう。

 守護者(ガーディアン)の “泥人形(ゴーレム)” は、二〇体以上。

 巣くっていた “氷霊(アイス・ファントム)” や “亡者戦士アンデッド・ウォーリアー” を加えれば、その倍は打ち倒したはずです。


(もっともそのお陰で、全員ネームド(レベル8以上)になれたのですが)


 現在のみんなのレベルは、9。

 隼人くんは第三位階の、早乙女くんと安西さんは第五位階の加護や呪文を習得し、生命力(ヒットポイント) も増えました。

 成長(レベルアップ)のためには充足した休養を摂る必要があり、それには “ニルダニスの杖” の加護を受けられる一層の “兄弟愛(ララ)の自警団” まで戻らなければなりませんでしたが、パーティのレベルが一気にふたつも上がったのは心強い限りです。

 “泥人形” は、“紫衣の魔女(アンドリーナ)の迷宮” で駆け出しの探索者が腕を磨く “貴族の亡霊(トモダチ)” と比べても三割増しの経験値を持っていて、結果的に効率の良いレベル上げをしていたことになります。

 新しい魔法を覚え、使用回数(パワーレベル)も増えました。

 士気も高まった今こそ、“ダック・(ショートの)オブ・ショート(アヒル)” さんの仕事場があるという東南区域に進むときでしょう。


 ガシャンッ!


 背中で重い金属音がして、わたしは警戒する回廊の先から視線を向けました。


『ふぅ……』


 と安堵の吐息を漏らす隼人くんの足下に、切断された太い鎖が転がっています。


「「やった、やった!」」


 両手を合わせてピョンピョンと跳びはねる、田宮さんと安西さん。


「ご苦労様でした」


「カナ鋸が折れないかとヒヤヒヤだったよ」


 労うわたしに、隼人くんが屈託のない笑顔を浮かべます。


「この臭い、金属加工室を思い出しますね」


 新鮮な金臭(かなくさ)さに、わたしは技術科を教わった中学校の教室を思い出しました。

 常に漂っている錆び鉄()の臭いとも微妙に違う、懐かしい臭いです。


「木工室の匂いの方が好きだったけどな」


「わたしもです」


「「「「……」」」」


 他の四人の意味ありげな視線に気づいたわたしは、懐かしい空気はここまで――とばかりに気持ちを切り替えました。


「それでは行きましょうか」


「ああ」


 同様に表情を引き締めた隼人くんがうなずき、わたしたちは新たな領域へと足を踏み入れたのです。



 封印を解かれた扉の奥には、やはり回廊が続いていました。

 回廊は三区画(ブロック)ほど進んだところで北に折れ、さらに五区画北上したところで北の西に分岐しています。


「……北は二区画先で東に折れていて、西は一区画先で扉に塞がれている……と」


 分岐点まできたとき、前を行く安西さんからマッピングの呟きが聞こえてきました。


「どうする?」


「西の扉を調べる。奧に魔物がいれば、北に向かったあとに退路を断たれるかもしれない」


 試すように訊ねた五代くんに、隼人くんが冷静に答えます。

 パーティは進路を西に取り、一区画先にある扉に向かいました。

 斥候(スカウト) の五代くんが扉を調べ、罠の有無や奥に魔物の気配がないかを探ります。


 ――罠も気配も無し。


 五代くんのハンドサインに、全員が突入に備えます。


 バンッ!


 扉を蹴破りまずは前衛の三人が、次いで後衛の魔法使い(スペルキャスター)たちがなだれ込みます。

 魔物の姿は――ありません。


「玄室なのに占有者はなしか?」


「警戒を緩めるな。まだ安全が確かめられたわけじゃない」


 拍子抜けしたような早乙女くんを、油断なく魔剣を構えた隼人くんが注意します。

 玄室は南北三×東西二の広さがありましたが、“永光コンティニュアル・ライト” の明かりもあって一望できます。


「やっぱり魔物はいないようだぜ?」


隠し扉(シークレット・ドア)がないか調べてみましょう。隠し扉ではありませんが、以前にレットさんたちが一方通行の壁を越えられて後方を遮断されたことがあります」


 “火の七日間” の最後の一日。

 駆け出し区域(ビギナーズエリア)に陣地を築いていた帝国軍は、一方通行の壁を越えてきた迷宮軍によって後方を遮断され、全滅一歩手前まで追い詰められたのです。


「一方通行の壁や扉は見つけられませんが、せめて隠し扉がないか確認しておきましょう」


 わたしの意見は反対されることなく、パーティはたった今入ってきた扉を除いた九面の壁を調べていきました。

 この迷宮の隠し扉は過去の迷宮と違い、魔法の光だけでは発見できないのです。

 調査することしばし……隠し扉はありませんでした。


「よし、玄室を出て北に向かう。一通の壁は気になるが、こちら側から見つけられない以上気にしても仕方がない」


 ひとまず安全が確認されたことで、隼人くんが進発を指示します。

 元々慎重な性格だった彼には今や、探索者のリーダーとして何よりも重要な石橋を叩いて渡る細心さが身に付いていました。


 玄室を出たわたしたちは、分岐路を今度は北に向かいます。

 二区画進んで東に折れると、現れたのは “漆黒の正方形”

 ここでまたしても暗黒回廊(ダークゾーン)の登場です。

 迷宮の除霊を請け負うだけあってショートさんの仕事場は、なかなかに大変な場所にあるようです。



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― 新着の感想 ―
[一言] >今回わたしたちは徹底的に ”ガチャ運” に見放されていたのでしょう。 エバって毎回徹底的に運に見放されて無いですか?
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