オヤジ★
「どうだ?」
「いや、それらしい品は見当たらないな」
アッシュロードの問いに、血だまりの中に倒れた “百人隊長” の装備を改めていたジグが、否定の言葉を返した。
「そっちは?」
「こっちもだ」
同様に事切れた戦士を調べていたレットも、それと思しき装備を見つけることはできなかった。
「……どうやら、こいつらとは出会ってないようだ」
カドモフの呟きに、パーシャとフェリリルが安堵の吐息をつく。
彼らはたった今倒した魔物の群れが、行方を絶ったエバ・ライスライトたちの装備を所持してないか確かめていたのだ。
レベル10ファイター×8
レベル8メイジ×6
凶悪に変容した迷宮の第一層でも、おそらくは最強クラスの部隊である。
ライスライトを除けば全員がネームド未満の志摩隼人たちでは、正面から戦って勝てる相手ではない。
だが隼人が持っていた魔剣も、ライスライトがトリニティ・レインから譲られた魔法の戦棍も、田宮佐那子の日本刀に似た形状の曲剣も見つからなかった。
「所詮は徘徊する魔物だからな。戦利品があるなら玄室の宝箱にため込んでいるだろう。そっちを重点的に漁ってみようぜ」
「そうだな」
アッシュロードはうなずくと、屍の側から立ち上がった。
第一層の探索は外壁の沿ったアウトラインと、中央の “礼拝堂” 区域以外はほぼ手つかずだ。
階層の北側と南側には “礼拝堂” を経由しなければ行けない。
チラ見した限りでは、北側は回廊と玄室が組み合わさったオーソドックスな構造で、南側は大半が暗黒回廊だった。
今日の探索の目的は、魔物の褥となっている玄室を片端から強襲&強奪 して、ライスライトたちの手がかりがないか探すことにある。
ライスライトが病み上がりのパーティを率いて暗黒回廊に足を踏み入れるとも思えないので、痕跡が見つかる可能性が高いのは北側だ。
「念のためにボルザッグの方はドーラが探ってるが、屯所のチェックじゃここ最近迷宮に潜っているのは俺たちだけだ。仮に連中の装備が奪われていたとしても持ち込まれることはない」
「――よし、出発しよう」
アッシュロードのその発言を最後に、レットは進発を号令した。
彼らの任務は王女エルミナーゼの救出だ。
仲間たちの捜索だけに時間を費やすことはできない。
今日中に北側のすべてを踏破するつもりだった。
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「……グレイ、大丈夫?」
この日五回目の戦闘後、軽傷者の治療を終えたアッシュロードをフェリリルが気遣った。
“百人隊長” らを撃退してから複数の玄室を踏破してきたが、その都度負傷者の手当をしてきたのはアッシュロードだ。
宝箱の罠も識別している。
さらには地下に降りた直後に “永光” “恒楯” “認知” の加護まで嘆願していた。
逆にフェリリルは、ほとんど精神力を消費していない。
消耗の度合いは、彼女の比ではない。
「ああ」
アッシュロードが必要最小限の言葉を返す。
それからエルフの少女の悲しげな表情に気づき、自分の態度を反省した。
「どうってことない。保険屋をしてたころは、全部ひとりでまかなってたからな」
「単独行とパーティじゃ、全然違うでしょう」
「君主の加護ってのはキャンプで使ってこそ価値があるんだ。剣を振りながらお祈りはできねえ」
君主は前衛職であり、戦闘時には肉弾戦を担当するのが常だ。
敵の数がよほど多い場合などを除き、戦いながら祝詞・祝祷は唱えない。
「おめえが加護を温存できてることで、どれだけ他の奴らに安心感を与えてるか……」
そういってアッシュロードは押し黙った。
最近の自分は、どうも大人ぶるきらいがある、と思ったのだ。
若い連中に紛れた、何かと大人ぶるオヤジ……最悪である。
ポンッ、
「アッシュのおっさん。俺も二〇代だ。だからもっとざっくばらんに行こうぜ」
そんなアッシュロードの肩に気安く手を置き、パーティ最年長だったジグが笑った。
フェルもアッシュロードが口をつぐんだ理由を察して苦笑する。
「……ガキが、生いってんじゃねえよ」
オヤジとしては臭い顔をするしかない。
アッシュロードとしてみれば受け入れればよいのか、悪ぶればよいのか判断がつかない。
物わかりのよい年少者というも、それはそれで扱いづらいものなのだ。
(これがあいつだったら、気にせず振る舞えたんだがな……)
ズズッ……!
アッシュロードが我知らず行方不明の少女を思ったとき、広い玄室の片隅が盛り上がった。
広間中の土埃を吸い上げるように見る見るうちに膨れ上がったそれが、瞬く間に巨大な人の形を成す。
“土塊巨人”!
即座に双剣を抜き放つ、アッシュロード。
こいつもこの迷宮では初見の魔物だ。
だが “紫衣の魔女の迷宮” では、散々ぱら狩ってきた相手でもある。
「剣の出番はないよ! 経験値いただき!」
叫ぶなりパーシャが飛び出し、嬉々として呪文の詠唱を始める。
“炎”、“霜(氷)”、“毒” そして “土” の生粋の巨人族のうち、“炎” を除く他の種族はネームドよりもモンスターレベルが低く、“滅消” の好餌でしかないのだ。
これらの巨人族はその巨体故に心理的なプレッシャーが強く、倒した際に得られる経験値が莫大だった。
それが五体もいるのである。
ホビットの魔術師が喜悦を浮かべるのも無理なかった。
まさしく神速の詠唱で呪文を紡ぎ、魔導方程式を組み上げ解法するパーシャ。
巨人が最初の一撃を振り抜く遙か以前に、五体の巨人は塵と化す――はずだった。
「……え?」
文字どおり何事もなかったように巨木のような腕が、軽率に飛び出したホビットの少女を薙ぎ払う。
「パーシャ!」
フェリリルが悲鳴を上げた直後、パーシャと体を入れ替えた黒衣のオヤジが襤褸切れのように吹き飛ばされた。







