武器と武器
「石化があります! 聖職者の方は、ありったけの守りの加護を!」
わたしは叫ぶなり、“神璧” の加護を嘆願しました。
石化を治療するには最上位の回復魔法――究極の癒やしの加護 “神癒” が必要となります。
現在この拠点でその加護を願えるのは、わたし、ノエルさん、そしてトリニティさんの三人だけです。
回数は、全員合わせても一二回。
一日に一二人しか癒せないのです。
また戦況によっては、すぐに治療に駆け付けられるとも限りません。
石化は麻痺の上位ステータス。指一本動かすことが出来なくなります。
治療できなければ、戦場では戦死と変わらないのです。
(――治療が限られているのなら、せめて少しでも石にされる危険を下げないと!)
わたしは立て続けに、自分のパーティを含む周囲の味方に守りの加護を施しました。
フェルさんや加護を嘆願できる騎士たちが同様に祝詞を唱え、後方で予備隊として待機している第四小隊を除く自軍の周りに、不可視の障壁を張り巡らせます。
“神璧” “光壁” “祝福” ――可能な限りの防御魔法が騎士団を包み込みます。
「障壁を張り終えたら、あなたは下がって治療に専念して!」
わたしに向かって叫ぶとフェルさんが、すぐさま新たな祝詞を唱えます。
「慈母なる女神 “ニルダニス “ の烈しき息吹持て――風よ、鋭き刃となれ!」
聖なる真空波が、騎士団の槍衾に向かって大きく鎌首をもたげた九匹の “大蛇” を、千々になるまで切り刻みました
さらにバラバラになった大量の血肉を烈風で巻き上げ、味方の武器が滑らないように遠方にぶちまけます。
相変わらずの切れ味。そして魔法制御です。
「「「「「「風のフェリリル!!」」」」」」
周囲の騎士や従士から歓声が上がりました。
フェルさんの見事な先制攻撃は、気圧されていた騎士団の士気を高めたのです。
「お願いします!」
“わたしだって!” という気持ちを抑えて、自分は後方に下がります。
フェルさんにはフェルさんの、わたしにはわたしの役目があるのです。
そして騎士団と “妖獣” に寄生された魔物の群れが激突しました。
拠点の南側に数区画にわたって伸びる戦線で一斉に怒号と咆哮が沸き起こり、血煙が舞いました。
わたしは戦棍と盾を構えて身を守りつつ、回復役に専念するために周囲の戦いに視線を走らせます。
(“陶器の悪魔像” の呪いと違って、“妖獣” の石化は接触感染です! 分泌物に触れない限り石にはなりません!)
ですが、戦いとは敵と味方が互いの血に塗れる行為、戦場とは敵と味方が互いの血に染まる場所です。
乱戦の最中に “妖獣” の吐き出す分泌物を避け続けるなど不可能です。
瞬く間に戦線のあちこちに精緻極まる石像が出現し、数を増やしていきました
しかし――放置です。
わたしは最初から腹を括っています。
最優先で治療するのは、指揮を執る第二小隊長さん。
次いで、魔物相手では騎士たちを遙かに凌駕する働きをする “フレッドシップ7” の仲間たちです。
それ以外の人は、今は――ごめんなさい。
前線では一秒毎に、血と肉と石が大量に生み出されて行きます。
その中でも経験を積んだレットさんたちの働きは際立っていました。
レットさんの振るう魔法強化された段平は、耐久力と回復力に秀でた異星の生物に寄生された “大蛇” や “大ナメクジ” を深々と切り裂き、回復する間も与えずに次々に屠っていきます。
カドモフさんに至ってはさらに凄まじく、縦横無尽に戦斧を振り回し、まるで暴風のように魔物を両断しています。
蛇にしろナメクジにしろ妖獣にしろ、装甲値自体は高く、その皮膚には容易に刃が通ります。
膂力溢れる若きドワーフ戦士の斬撃に耐えることなど、出来ようはずがありません。
さらにジグさんです。
専門の戦闘職ではありませんが、その分成長が速くパーティで唯一人レベル12に認定されています。
加えて手にしている短剣は、わたしたちの持つ武器のうちで唯一+2の強化が施された逸品です。
力では及ばない分、戦士に倍するような素早い身ごなしで動き、魔物の急所に必殺の一刺しをお見舞いしていきます。
そしてその三人を合わせたよりも多くの魔物を一時に葬っているのが、この戦場で最大最強の火力を誇る魔術師のパーシャです。
愛らしい口から神速の詠唱が紡がれるごとに、熱風が逆巻き、氷の嵐が吹き荒び、魔物が焼け、凍結し砕け散りました。
――轟!!!
今も “焔嵐” の呪文が魔物の直中で炸裂し、爆風の直撃を受けた蛇やなめくじの身体を四散させ、猛炎が細切れになった肉片を焼き尽くしています。
「どんなもんだい!」
「勇敢なる戦士を “ニルダニス” は愛します! 怖れずに戦うのです!」
快哉を叫ぶホビットの魔術師に比肩する戦果を上げているのが、攻撃型聖職者のフェルさんです。
風と炎、さらには支援の加護を適宜使い分け、魔物の群れに痛撃を与えて続けています。
呪文と加護、何よりそれらを適切に使うために知性。
魔物が持たない強力な武器によって、戦いはこちらが有利に進めていました。
しかしわたしたちがそうであるように、魔物もまたわたしたちにはない武器を持っていたのです。
魔物だけが持つ武器。
圧倒的な持久力が、戦いが長引くにつれて次第にその力を見せ始めました。







