マンチキン、再び
「先走るな。俺が考えてるのは死人を作り出すことじゃねえ。死体を作り出すことだ」
アッシュロードさんを除く全員が、やはりこの人は悲しみのあまり惑乱してしまったのだと思いました。
やるせない沈黙が大天幕の間切りに漂います。
そして、こういう時に口火を切ってくれるのが、この人です。
「アッシュロード。俺がミミズと竜属の違いがわからない間抜けだとする――わかるように言ってくれ」
ジグさんがクソ真面目な表情で、アッシュロードさんに訊ねます。
「死人は不死属で、死体は……死体?」
「そんなの当たり前じゃないの」
フェルさんも確認するように訊ね、アッシュロードさんが答えるよりも早くパーシャがツッコミました。
「ええと、それはつまり “動き回る死体” ではなく、“動かない死体” を作る……ということでしょうか? 普通の?」
「そういうことだ」
さらに確認したわたしに、ジグさんに劣らぬクソ真面目な表情でうなずくアッシュロードさん。
「それは……」
さすがお兄様です!
……なのでしょうか?
「灰なら満塁だが、死 なら一塁が空く」
アッシュロードさんとわたしを除く他の全員が、
『なに言ってんだ、こいつ?』
……みたいな冷たい顔をしました。
「つ、つまり、一回は失敗ができると言うことですよね? ね? そうですよね?」
「だから、そう言ったろうが」
必死にフォローしてあげているというのに、なぜかアッシュロードさんはわたしに臭い顔をします。
まったく可愛くありません。
「それは灰から死に戻すことが出来るなら、そのとおりでしょうけど……なにか方法があるの?」
ヴァルレハさんが控えめな口調で反問します。
「わからねえ」
アッシュロードさんを除く、わたしを含めた他の全員がガクッと肩を落としました。
「だから聞いたんだ。“死人使い” たちの本の中に、そういう知識がないかどうか」
「確かに “生者の書” だの “死者の書” だのといったご大層な題名を聞けば、そういった知識を連想しもするな」
脱力からいち早く立ち直ったスカーレットさんが、アッシュロードさんの言わんとしていることを察してうなずきました。
「別に知識じゃなくても構わねえ。本自体に状態を “死” にする秘めたる力があるなら、それが一番手っ取り早い。面倒臭え儀式だなんだのをする必要がねえからな」
魔法に疎い前衛職の人も含めて、やっと全員がアッシュロードさんの考えていることを理解できました。
つまりは、状態の灰を状態の死で上書きしようというのです。
「でも灰は死の上位ステータスでしょ? 上書きできるの?」
「麻痺で石化は上書きできないものね」
パーシャの疑問に、フェルさんが同意します。
「灰の頸は刎ねらないってことか――ん? 違うか?」
自分の例えが合っているのか自信がなくなったジグさんが、首を傾げました。
「いえ、秘めたる力は過程を飛ばして効果を発現させる。元状態が灰だろうと石化だろうと、死が秘められた力ならば状態は死になるわ。それがこの世界の理よ」
「……まるでマンチキンだな」
以前アッシュロードさんに、石化を死で上書きされかけたカドモフさんが呟きました。
「この際イカサマもありだ――どうだ? “死人使い” の本にそういう力は秘められてねえか?」
アッシュロードさんの視線を受けて、ヴァルレハさんが申しわけなさげに顔を左右にします。
「残念だけど、トリニティが調べたところによると “生者の書” にも “死者の書” にも、灰から死体に戻す力も知識もないわ」
ですがアッシュロードさんは挫けませんでした。
「なら最後の “悪魔の書” にならあるかもしれねえな。アストラの言葉を借りるわけじゃねえが、仮にも “死霊秘法” なんて題を付けてるんだ。期待してもいいはずだ」
その表情と声には、どんな手段を用いてもトリニティさんを生き返らせるのだという不撓不屈の意思が籠もっていました。
大切な人のためなら、例え世界がバラバラに砕けてしまったとしても、欠片を集めて組み立て直す――この人はそういう人なのです。
この人にとってトリニティ・レインさんは、すべてを賭して助けるに値する人なのです。
消沈したり、まして諦めたりしている暇などないのです。
「それなら話は早いよ! 迷宮にいる “死人使い”を片っ端から身ぐるみ剥げばいいんだ! 強襲&強奪 だよ! 強襲&強奪 !」
「やれやれ、とても “善” の言葉には思えねえな――だがホビットの言うとおりだ。例え実物を持ってなくても、とっ捕まえて口を割らせれば何か情報を聞き出せるかもしれねえ」
「もちろん “緋色の矢” も手伝わせてもらうぞ。“死人使い” なら四層と五層の両方に出現するからな。なによりノエルに一か八かの賭けをさせるわけにはいかない」
パーシャが躍り上がるように言い、ジグさんが苦笑しながら賛意を示し、そしてスカーレットさんが力強く協力を申し出ました。
“悪魔の書” が必ず手に入るとは限りません。
仮に手に入ったとしても、そこに目的とする力や知識が備わっているとも限りません。
むしろ、その可能性は低いかもしれません。
ですが――それがなんだというのでしょう!
例え確率がゼロに近かったとしても、それはゼロではないのです!
確率が一パーセントでもあれば、行動する理由には十分なのです!
会議の間に、皆の決意と闘志がみなぎりました。
そして迷宮に潜る準備をするために天幕を出て行きかけたとき、
「――ちょほいと待ちな。今からハクスラだなんて、そんな面倒をする必要はないよ。人を死体にする魔道具なら、あたしが持ってる」
………………。
……え?







