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迷宮保険  作者: 井上啓二
第四章 岩山の龍
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太公望と鶏鍋②

『最初に言っておく……五層の状況は、激しく面倒臭え』


 トリニティさんにうながされて、アッシュロードさんが激しく面倒臭そうな顔で話し始めました。

 果たしてその内容は……激しく面倒臭そうでした。


『『『『『『『『『『『『『…… “呪死(デス)”の三〇連発』』』』』』』』』』』』』


 アッシュロードさんとドーラさんを除く、その場にいた全員が絶句しました。


『ああ、あの “邪神の神殿” に何があるのかはわからねえが、とにかく根城にしてる狂った坊主どもをなんとかしねえと、中を調べることができねえ』


『で、でも、おっちゃん。“呪死” を唱えてくる坊さんが三〇人も出てくるんでしょ? いくらおっちゃんが馬鹿――命知らずだからって、それはさすがになかなかになかなかなんじゃ……』


 心配しているのか、けなしているのか……いえ、やはり心配しているのでしょう。

 持病の顔面神経痛を発症させたパーシャが、恐る恐るアッシュロードさんに訊ねました。


『無視することはできないのか? 最上層への縄梯子は見つけたのだろう? 馬鹿正直に階層(フロア)すべてに足跡を残すこともないだろう』


 パーシャが応えを得るよりも早く、スカーレットさんがさらに訊ねます。


『そりゃ、出来ればあたらしらもそうしたいさ。でもね、あの坊主どもが拝んでるのが “妖獣(THE THING)” じゃないって言い切れるのかい? あたしらがここに召喚された元々の理由を忘れちゃいけないよ』


『でも、あなたたちの会った天使の話によると、その “邪神の神殿” の奥からは魔族(デーモン)の気配がするのでしょう? “妖獣” とは似ても似つかないものだけど……』


 と、これは魔族という言葉に敏感な、聖職者のノエルさんです。


『だから、それをこの目で確かめなけりゃならないのさね……』


『……』


 ため息混じりのドーラさんに、ノエルさんも黙るしかありません。


『――いえ、それよりも何よりも、そもそも無視をして最上層に行けるものなのでしょうか?』


 わたしはそれまでに交わされた会話を必死に咀嚼したあと、発言しました。


『……どういう意味だ?』


『わたしたちは登れなかったのです。最上層に』


 アッシュロードさん視線を向けられたわたしは、今回の四層での探索の顛末を大雑把にですが説明しました。


『……登るなり、拠点に強制転移させられる縄梯子か』


『それも魔物を呼び寄せる()()な “立て札地帯” の奥にある――です。似ているとは思いませんか? 暗黒回廊(ダークゾーン)魔法封じの間(アンチマジックエリア)の悪辣な “暗黒広間” の先にある五層の縄梯子と?』


『確かにな……存外、俺たちもあのとき登っていたら、強制的に戻されていたかもしれねえな』


『そいじゃ五層から六層へ登るには、何かしらのキーアイテム(パスポート)が必要だっていうのかい?』


 わたしとアッシュロードさんのやりとりに、ドーラさんが割って入ったとき、


『――待て、結論を早まるな。いったん整理しよう』


 報告が終わる前に検討となり、さらには迷走しだしたのを見て、トリニティさんが軌道修正しました。


『今までおまえたちの話から得た情報を、わたしなりに整理してみた。これから話すから間違っていたら指摘してくれ』


 皆を制すと、トリニティさんが話し始めました。


『まずは四層についてだ』


①四層には、最上層である第六層につながると思われる縄梯子が存在する。

②この縄梯子は、突破に非常な危険が伴う “立て札地帯” の先にある。

③さらに現時点では、この縄梯子を登ると拠点に強制転移されてしまい、縄梯子を登るには、何かしらのキーアイテムが必要だと思われる。

④四層で未踏破な区画は、残り三カ所。

 A)北東の区域(エリア)にある一×一区画(ブロック)の小部屋。

 B)やはり北東区域の “立て札地帯” の手前にある、立ち入ると熱風が吹き出してきてそれ以上進めない扉。

 C)北西区域にある、扉の前に探索者風の石像(スタチュー)が立ち並んでいる、わたしたちが “石像の部屋” と呼んでいる玄室。


『つぎに五層についてだ』


①五層には、最上層である第六層につながる縄梯子が存在する。

②この縄梯子は、突破に非常な危険が伴う “暗黒広間” の先にある。

③現時点では、この縄梯子で問題なく六層に登れるかどうかは不明。

④五層で未踏破区画は、残り二カ所。

 A)狂ったように “呪死”を唱えてくる邪僧の集団が巣くっている、“邪神の神殿”

 B)この “邪神の神殿” と敵対関係にある、異界から召喚された “十字軍(クルセイダーズ)” と呼ばれる者たちが拠点としてる “聖なる神殿”

⑤④のA “邪神の神殿” には、魔族が関与している可能性がある。

⑥④のB “聖なる神殿” には、天使の関与が確認されている。

⑦④のA “邪神の神殿” と第一層を根城にしていた “海賊” には取引関係があったが、今は消滅している。


『――以上だが、抜けている情報や誤認識があったら言ってくれ』


 皆が一様に小さく頭を振り、訂正をする者は現れませんでした。

 トリニティさんはうなずき、先を続けました。


『先ほどライスライトが言ったように、このふたつの階層には相似性があるように思える。突破に非常な危険が伴う区域の先に、上層への縄梯子がある点などだ。

 その考えに則っとれば、五層でいうのところの “暗黒広間” だが、この場所は “突風の扉” という迂回路(ショートカット)が用意されている。キーアイテムを見つけれることができれば、安全に縄梯子までたどり着けるはずだ。

 そしてそうであるなら、第四層の “立て札地帯” もまた、迂回が可能かもしれない。すぐ近くにある “熱風の扉” が、五層の “突風の扉” と同じ役目を担っていと考えられるからだ。

 同様に、五層から六層に続く縄梯子も四層のように、なにかしらのキーアイテムが必要な可能性がある』


 トリニティさんはそこでいったん言葉を句切り、唇を湿らせるように動かしました。

 責任者なのですからお水を一口含んでも良さそうなものですが、立ったままでお水を飲むことが出来ないわたしたちを慮ったのでしょう。


『これらはそれぞれの階層で得られている情報を元に、互いの階層の不明点を推測したに過ぎないが、仮にこの推測が正しければ “妖獣” 云々は別にしても五層の “邪神の神殿” を無視するわけにはいかない。そこに何かしらのキーアイテムがある可能性があるからだ。

 “聖なる神殿” も同じだ。“最上層への縄梯子” か、それとも “突風の扉” か、いずれかの通過に必要なキーアイテムがあるやもしれず、やはり無視はできない』


『俺たちの四層も、“熱風の扉” を除けば、残っている未踏破区画はふたつ。そして必要なキーアイテムもふたつ』


『期せずして、“(グッド)”も “(イビル)” も(おんな)じような進捗状況になったわけだね』


『難易度の方は……かなり差がでちまったみたいだけどな』


 レットさんの言葉にパーシャがうなずき、ジグさんが若干申し訳なさ気に付け加えました。


『なに、あたしたちは三層で楽をしたからね。ここにきて帳尻があったのさ――そうだろ、アッシュ?』


『……ああ、そうだな』


 愉快げなドーラさんに振られ、アッシュロードさんがこちらは不機嫌を画に描いたような仏頂面で答えました。


『四層の方は良いとして――アッシュ、おまえのことだ。ふたつの “神殿” を攻略する目星とはいかないまでも、ある程度の方針はすでに固まっているのだろう?』


 そうなのです。

 今回に限って言えば、問題なのは “フレッドシップ7(わたしたち)” ではないのです。

 四層には存在しない狂信者たちの集団――わけても直撃を受ければ確実に即死する “呪死(デス)”を、機関銃のように唱えてくる邪僧たちを突破しなければならない、アッシュロードさんたちなのです。


『必要ならわたしが出るぞ』


『わたしも――いいでしょう、スカーレット?』


 トリニティさんが申し出、ヴァルレハさんが続きました。

 最強の範囲攻撃魔法である “対滅アカシック・アナイアレイター” を習得しているのは、拠点でもこのふたりだけなのです。


『いや、おめえたちはここの命綱だ。あんな危ねえ場所においそれと投入は出来ねえ』


 アッシュロードさんは、頭を振ってふたりの申し出を断りました。

 そして、こう言ったのです。


『……考えはある。ふたつの神殿をぶつけて共倒れさせる』


 ドーラさんを除く天幕の人間の全員が、あっと息をのみました。



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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、キン肉マンの王位争奪編で名古屋城と姫路城がぶつかって合体したように、邪悪の神殿と聖なる神殿を物理的にぶつけるんですね!
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