第28話 洞窟探検!
川を遡るようにして山登りをすることしばらく……私たちが辿り着いたのは、洞窟だった。
山の中にぽっかり口を開けた大きな洞窟、川はその中へと続いている。幸い川沿いを歩ける部分はあるものの中は暗く、山道とはまた違った危険な気配が漂う。
そして何より……
「この中、瘴気が濃くなっています……魔物がいるかもしれません」
瘴気を発する石をモース村まで流す川、その発生源はこの洞窟で間違いなさそうだ。
「フェルド様、どうしますか? 崩落の危険なども考慮しなければいけません。まず私が乗り込み、安全を確かめてからでも……」
「いや、やめた方がいい。もし瘴気溜まりにうっかり入ったりしたら、いくら熟練の君でも命を落とす。こうした洞窟の調査は魔術師を帯同するのが鉄則だ」
「それならここに優秀な術師がいますよ! 瘴気を調べるのも魔物除けもお任せあれ!」
「そうだね、その通りだ」
山に入る前に「遠慮はなし」と言ったからか、フェルドは私の申し出に素直に頷いてくれた。
「崩落の危険もなくはないけれど……見たところかなり昔からある洞窟のようだし、岩肌の種類からしても少人数なら大丈夫そうだ。僕はこの国を守る責任があるし、パイロはこの国で一番の実力者。ジュリーナの力は言わずもがな。この3人で調査するのが最適解かもしれないね」
「ですよね!」
王子に騎士団長に聖女、錚々たる面子だ。おっと私は元聖女かな?
ともあれ、指揮をとるリーダー、王国一の実力者、治癒と加護ができる術師。大人数は洞窟に乗り込めないなら、これ以上の人選はないだろう。
なんだか冒険者パーティにでもなった気分だ。わくわくしてきた。
かくして私たち一行は、洞窟探検へと乗り込むのだった。
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大きな洞窟だった。薄暗く、じめっとした感じがして、ピチョピチョと川に水が滴り落ちる音だけがよく響く。
フェルドが言うには「長い年月をかけ、水が土を削り続けることでできた洞窟だろう」とのことだった。そういう風にできる洞窟を、かしょく洞窟? と言うのだとか。
フェルドは物知りですね、と褒めると、「本で読んだだけだよ、地面や石については興味あってね」とはにかんだ。宝石店での一見も思い出す、フェルドは石が好きなんだなあ。男の子だからだろうか?
洞窟では私もパイロの背から降りて歩いた。幸い道は広いし平坦で、パイロの背で休んだのもあり普通に歩ける。私を背負ったままではパイロも咄嗟に動きづらく、かえって危険だろうし。
先頭から、フェルド、私、パイロの順に並んで歩く。リーダーのフェルドが前を行き、パイロは後ろから全体を見て警戒。2人に挟まれ守られながら、私は瘴気除けと魔物除けの結界で周囲を包み込みつつ歩く。
また、明かりに関しても私が魔法で作った。『照光』、光の玉を頭上へと打ち上げる、初歩的な魔法だ。魔法の訓練でもよく使われるが、こういう時の明かりとしても役立つ。
私に宿る力は聖の魔力、癒しの力。つまり広義では私も魔術師だ。攻撃魔法とは相性が悪いので使えないが、こういった初歩的な魔法なら問題なく使える。
一応、火をつけたりもできる。マッチ以下の火力を、大量の魔力を使って出すことになるけど。
「分かれ道……ジュリーナ、どちらへ?」
「……左へ」
瘴気の強い方へ強い方へと向かっていく。ここまで来たらもう川の石だけでなく、洞窟自体の瘴気を感じる。進むほど瘴気は強くなり……そして明らかに、瘴気の発生源がある。
川も続いている。はたしてこの先に何が待つのだろうか。
「瘴気がさらに強く……お2人とも、私から離れないように」
人体を明確に害するほど瘴気が強くなってきた。私はネックレスへと手を添える。『紅の宝玉』の魔力、一部を抽出し、結界へと注ぎ込む。結界がわずかに赤い輝きを帯びた。
「おお……!」
そんな結界を見上げ、フェルドはなぜか感嘆の声を漏らした。
「フェルド? どうしました?」
「ああいや、聖女の結界が構築される瞬間を初めてみたからね。思わず感動して……」
「そんなたいしたものじゃないですけどねえ」
私からすればかつては日常的にやっていた仕事だ。それもこの数百倍以上の規模で。見た目としても結界が赤くなるだけだし、そんな大したものだろうか。
「おっとごめん、今はそんな場合じゃなかったね。ジュリーナ、その宝玉で結界はどれくらい維持できる?」
「その点は心配いりません、このくらいの結界なら、この洞窟で10年暮らすことになっても余裕ですよ」
『紅の宝玉』の魔力を無駄なく純化、昇華していけば、洞窟探検の間小さな結界を張り続けるくらい簡単だ。ネックレスの心配もいらないだろう。
「本当に……君はすごいよ、ジュリーナ。たとえアルミナの人がどう思おうと……僕はやはり、君のことを……」
「え?」
「いやごめん、これも今話すことじゃなかった。先を行こうか」
なんだかフェルドの様子がおかしいが、後ろのパイロさんから
「ご心配なく、王子にはよくあることです」
と囁かれ、まあそういうものかとひとまず納得。ただでさえフェルドは頭がよく、人一倍色々と考える人だし。
「……でも、おかしいね」
「え? 何がですか?」
「魔物だよ。強い瘴気が溜まった洞窟なのに、ここまで1体も見ていない。いくら魔物除けの結界があるとはいえ、結界の外に見ることすらないのは不自然だ」
「言われてみれば、たしかに」
洞窟はそれなりに大きく、私の魔法の光によって照らされる範囲も広いが、魔物を見かけてすらいない。瘴気が濃ければ魔物が多いというのが定説だというのに。
「この洞窟だけ局所的に瘴気が濃いから魔物も気づいていないのか……あるいは……」
「魔物が寄り付かないほど恐ろしいものがこの先にあるか……でしょうね」
フェルドの仮説に、パイロさんがおっかない仮説を重ねた。でもありえない話じゃない。
「十分に注意して進もう。足元にも気をつけてね」
「は、はい!」
警戒しつつ、私たちは先へと向かった。
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そしてすぐに私たちは、目を疑うような光景を目撃することとなる。
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