第27話 原因は……
フェルドに促されてやってきたのは、村を流れる川だった。流れは穏やかだが幅はそこそこ大きい。
本で学んだことだけど、農業は水が命、村のそばに川があるというより川のそばに村を作るそうだ。作物を育てる水になるのもそうだが、小麦を曳いて粉にするための水車小屋の動力になったりと、その重要度は大きい。
この村も川から水を引き、小麦畑に張り巡らせているようだ。
「フェルド、水を疑ってるんですか? でもこの水から瘴気の気配はあまりしませんよ」
村全体から瘴気がするので、当然村全体にある小麦畑や、小麦を育てる水は調べたが、特に問題はなかった。
というより、そうした部分はオーソクレースの魔術師が真っ先に調べたらしい。もし水が悪いなら農作物全てが危険なわけだから当然か。
「ああ、問題は川そのものというより……」
フェルドは川のそばに歩み寄ると、おもむろに屈みこみ、何かを拾い上げる。振り返って私に見せたそれは、一見するとなんの変哲もない小石に見えた。
さらにもう片方の手でナイフを取り出す。あ、なんかデジャブ。
「んっ」
カツンと石を突き、石を割るフェルド。
「これを調べてみてくれ」
「え? わ、わかりました」
村の石はさっき調べたんだけどな、と思いつつ、フェルドが言うなら何かあるんだろうと考え、フェルドの手に乗った石に自分の手を重ねる。
意識を集中し、魔力を感じ取る……この魔力は?
「……濃い……濃いです! ほんの少しですが、この石、村で感じた瘴気よりも濃い瘴気を感じます!」
やっぱりそうか、とフェルドが頷いた。
「君に石が怪しいと言われてピンと来たんだ。石は普通動かないし、どこからかやってくることもないが、唯一石が遠くから何度も運ばれてくる場所がある。それがこの川だ」
「じゃ、じゃあこの村の瘴気は……」
「ああ、川が運んでくる石が原因のようだ。それが小麦畑のための用水路によって村の中にも運ばれ、村全体に広がってしまったんだろう」
私は水を調べはしたが、水に気を取られるあまり水路の中にまで思考がいかなかった。そうか、水の中には石があるんだ。
それでも割ってみて断面を出し、それで初めて感じるほどの差だ。フェルドが言わなければ私が気づくことはなかっただろう。
「フェルドすごい、私そこまで考えつきませんでした!」
「いや僕も君にヒントを貰わなきゃわからなかったよ、瘴気は風に運ばれるイメージが強かったからね……君の手柄だ」
「謙虚なんですから」
「お互い様だろう」
解決の糸口が見つかったのもあり、私はフェルドと笑いあった。
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こうして方針は決まり、私たちは川を上流へと遡っていくことになった。
念のため兵士たちはパイロを除いて村に留まらせ、馬車一台に私とフェルド、パイロが乗り、川沿いを上流へと進んでいく。
途中馬車を止め、川の石を確かめてみる。
「どうかな?」
「……わずかですが、瘴気の気配が強くなっています。やっぱりこの川の石が原因みたいです」
上流に行くにつれ、石から感じる瘴気が強くなっていく。やはり上流に何かがある。
確信と共に私たちは進んだ。
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「馬車で来れるのはここまでか……」
フェルドが川の先を見上げて言う。遡っていった結果、川は山へと行き当たった。そこまで傾斜の激しい山ではないが、それでも川沿いを進もうとすると馬車で進める道ではなさそうだ。
「どうする? ジュリーナ、一旦戻ろうか? 川を遡ればいいのだから君は村で待っていても……」
「ここまで来たんですもの、一緒に行きますよ! それに私がいないと魔物に襲われるかもしれないでしょう?」
フェルド、そしてパイロがいかに実力者といえど、人里離れた山は魔物の巣窟だ。まして瘴気の気配を追っているのだから、どんな危険があるかわからない。魔物除けができる私がいた方が安全だろう。3人分くらいの魔物除けの加護なら宝玉を使わずとも使えるし。
「フェルド、今さら遠慮はなしですよ! 私たちの仲でしょう?」
「……ふふっ、それもそうか。お願いしてもいいかな?」
「ええ、もちろん!」
王子様に対し「私たちの仲でしょ」なんて、普通なら許されない物言いだろう。だが私たちならなんの気遣いもいらないのだ。
「……フェルド様、嬉しそうですね」
そんな私たちを見守っていたパイロがそう言って微笑んだ。
「そ、そうかな?」
とフェルドが照れる。幼馴染のようなパイロに言われるとさすがに照れるようだ。
「と、とにかく、この先にモース村の危機の原因がある、気を引き締めていこう、パイロも頼んだぞ」
「ええ……お任せあれ」
「いざ、出発!」
不謹慎だとは思いつつも、なんだか冒険の気分になってきた。
私が勝手に指揮を執り、私たちは山へと突入していくのだった。
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……なお、長い間聖女として結界の維持(≒引きこもり)生活をしていた私が山道を長く歩けるはずはなく……
「も、申し訳ありませんパイロさん……」
「お気になさらず……」
あっさりダウンした私は、パイロさんに背負われていくこととなってしまった。
「お恥ずかしい……ご迷惑をおかけします」
「いえいえ……とてもお軽いですよ、何も乗せていないようだ」
「そ、それはさすがに冗談でしょう?」
「はい、冗談です」
「まったく!」
申し訳ないけれど、パイロのわかりにくい冗談を笑いつつ、広い背中に身を預けるのは楽ではあった。
「……なあパイロ、やっぱり僕が」
「フェルド様では身長が足りないでしょう……?」
「そ、そうだが……」
フェルドは何やら焦ったような顔をしていたが。彼のことだ、また気を遣っているのだろう。でも第一王子にそんなことさせるわけにもいかない、パイロは兵士だし、私を背負うのも一応そこまでおかしなことではない……はずだ。
お荷物になった分、この後しっかり活躍してやる。そう決意しつつパイロの背にしがみ付く私。
そうして、私たちは山道を進んでいった。
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