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第22話 アルミナ王国への来訪者

 時を少し進め……


 ジュリーナ追放から数日後のアルミナ王国は、大いに沸き立っていた。


「結界が元に戻った!」

「王様のおかげだ! 悪女ジュリーナを追放し、王国をあるべき姿に取り戻した!」

「さすが王様、王様バンザイ!」


 王城前の広場で、集まった国民たちが歓声を上げる。


 アルミナ王は王城のバルコニーからそれらを受け、笑顔で手を振った。その度に国民がわーっと沸き立つ。聖女もいなくなった今、この国は王によって支えられている……それが国民たちの認識だった。


 だが、アルミナ王がバルコニーを去り、カーテンを閉め、国民からの目がなくなると。


「ぐぬぅっ……!」


 苦し気に呻き、眉間にしわを寄せる。


 何も解決はしていない。なけなしの『紅の宝玉』を使って結界を再構築したはいいが、それでもつのはせいぜいがひと月。


 すでに国中からかき集めた宝玉を使ってしまっている。宝玉の供給は必須だ。


「遠征部隊からの報告はまだか!? 領内の、自然生成される『紅の宝玉』をかき集める作戦はどうなっている!」

「お、恐れながら、自然の『紅の宝玉』は生成まで相当な時間がかかるものです。小さいものでも1年、大きなものは数十年から数百年かけて作られるものも……すでに領内の宝玉は採取され尽くしているものと思われます」

「ぐぬぬぬっ……!」


 アルミナ領内では『紅の宝玉』専門の冒険者すらいたほどだ。王軍が慌てて探しに行ったところで簡単に見つかるはずはない。


「で、ですが陛下、朗報です。『紅の宝玉』の価格が下がり始めているとのこと、この流れが続けば……」


 大臣の1人が報告しようとしたとき。


「愚かものがぁっ!」


 王は激しい怒声を上げた。


「『紅の宝玉』は我が国が結界に使い、我が国の宝たるこその価値! その価値が下がるとはすなわちアルミナ王国の威光の衰えに他ならない! 貴様、アルミナ王国の衰退を喜ぶというのか!?」

「め、めっそうもありません陛下」

「結界は再構築され、国民も他国もアルミナ王国は健在とわかる! じき『紅の宝玉』の価値はもとに戻る! いやそうでなければならぬだ、『紅の宝玉』こそがアルミナ王国の写し身でもあるのだから!」


 『紅の宝玉』が高価なのはその見た目もさることながら、魔力の塊としての用途、そして何より、大国アルミナがその価値を保証し、買い取るからこそだ。


 買うものがいなければどんなに綺麗な石もただの石ころ。ガラスの欠片と変わらない。権威あるものが価値があると認め、金と換える保障あってこその宝石。


 『紅の宝玉』の価値が下がるのは、アルミナ王国の価値が下がるも同然。それはアルミナ王にとってあまりにも耐えがたい屈辱だった。


 しかし同時にアルミナ王は、そのプライドのためにアルミナ王国が救われる道をひとつ閉ざしてしまった。虚勢を張るのも時に国として大事ではあるが、今は国民や他国にアルミナの健在をアピールしたことで、安価で『紅の宝玉』を手に入れる道はなくなった。


 国王としてのプライドや威信と、国民の安全。王はそれを天秤にかけることすらしない。前者の方が大事と決まっているからだ。


「ジュリーナだ……ジュリーナを見つけ出せ! その協力者も! 奴の企みこそ王国の危機の始まり、まずはあの女を探し出すのだ!」

「は、ははーっ」


 もはや王にそれ以上の考えはない。ただ苛立ち、苦しみ、玉座で待つのみ。


 その精神の摩耗たるや、生き地獄とすら言えただろう。もっともそれは己が呼んだ地獄なのだが……


 しかし、その時。


「へ、陛下、大変です!」


 兵士が慌てて駆け込んでくる。


「今度はなんだ!?」

「み、見慣れない商人が……大量の『紅の宝玉』を持ってやってきました!」

「なんだと!?」

「それも提示された額が極めて安価です! その代わりに陛下との謁見を求めています、いかがなさいますか?」


 王は思わず立ち上がっていた。見慣れない商人、大量の『紅の宝玉』……怪しさはある、王にもそれはわかっていた。


 しかしその時の王はその怪しさを過小評価した。


 これは救いだ。神が私に寄こした救い。


 偉大なる王たる自分は……運命に守られている。その傲慢さで、そんな確信を抱いていた。


「すぐに会う、呼べ!」

「ははっ!」


 迷わずに呼びつける。もし邪な考えの持ち主なら自分ならば見抜けるという考えもあった。


 なにせ、あのジュリーナの悪事を見抜けたのだから。


 そうして王は呼び寄せる。この国へとやってきた客を。


 ……それが今以上の地獄の始まりとも知らずに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大量の安価な『紅の宝玉』・・・ナイフを突き刺したら真っ二つになる予感しかしません。
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