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第21話 アルミナ王国の歴史

 アルミナ王国の位置するエメリー平原は、建国には打ってつけの場所だった。


 周囲の山、湖、川の配置。高低差、風向き。それらの条件により、エメリー平原には様々なものが集まる。水、土、風……


 また大陸を行き来する際は必ずそこを通るような立地であるため、人の出入りも多く、商売にも最適。さらには魔力の流れもあって土地は生気に溢れている。


 全てにおいて優れており、そこに国を置けば繁栄間違いなしと誰もが思っていたことだろう。


 事実、歴史上エメリー平原には幾度も国が作られている。


 そしてそのことごとくが一つを除いて全て滅び去った。


 エメリー平原には、ある致命的な欠点があったのだ。


 様々なものが訪れる場所には、他にも色々なものがやってくる。そこには良くないものも含まれる。


 その最たるものが瘴気。


 瘴気とは邪なる力を含む魔力、様々な要因で発生し、世界中に漂う人間にとって害となる力。とはいえ世界中どこにでも瘴気があり、ほとんどの場所では気にならないほどに薄く、気付かぬうちに流れていく。


 しかし……エメリー平原は、そんな瘴気が集まり、吹き溜まる場所でもあったのだ。


 濃度の濃い瘴気は様々な悪影響を引き起こす。土地は穢れて農作物は育たず、水は毒となり、人間を始めとして生物もただでは済まない。


 そして何より魔物は瘴気を好む。濃い瘴気の中では魔物は活性化し、平時とは比較にならないほど強くなるのだ。


 魔物はそうした瘴気を求め、自然と瘴気の濃い場所へと集まる。そして魔物自身も瘴気を発する。


 つまり一度瘴気が濃くなればそこには魔物が集まり、さらに瘴気が濃くなりさらなる魔物を呼び……瞬く間に人間の立ち入ることのできない地獄絵図と化す。


 そうなってしまった土地を『不浄の地』と呼び、大陸の外には極めて大規模かつ高濃度でそれが実現してしまった、『魔界』と呼ばれる場所すらある。


 歴史上、エメリー平原には幾度も国が作られ、そして幾度も滅んでいった。エメリー平原の開拓の歴史は、瘴気との戦いの歴史でもあった。


 そうした流れに終止符を打ったのがのちのアルミナ王国である。


 現在のオーソクレースがある地、すなわちエメリー平原の近くで栄えたアルミナ王国は、その立地を活かしエメリー平原に都市を築くことを考えた。


 アルミナ王国が打ち出した瘴気対策こそが、聖女による結界。聖なる魔力に優れた存在(多くの場合女性である)を選抜し、聖なる力を持つ結界を維持し続けることで、瘴気を防ごうと考えたのだ。


 その効果は大きかった。集合を防がれた瘴気はもはや脅威ではなく、アルミナ王国は立地のよさに助けられ、国も大きくなっていった。


 しばらくの後、結界の内部で宝石が見つかるようになる。紅く輝くそれは魔力の結晶だった。


 それは本来、聖地と呼ばれる特別に瘴気の薄い場所にしか生まれない、自然の魔力の集合体。結界により瘴気を阻んだことで瘴気の濃度がゼロとなった結果、アルミナ領内のあちこちで紅い魔力結晶が見つかるようになったのだ。


 『()()()()』と呼ばれたそれを、聖女は己が力とし、結界に組み込んだ。すると結界はそれまで以上に拡大できるようになり、ますますアルミナは発展していった。


 邪なるものを拒む結界により、アルミナはエメリー平原の恩恵を存分に受け、今に至る大国へと育っていった。


 一方で結界のあるエメリー平原へとアルミナ王国の首都は自然と移り変わっていき……逆に、元々の土地は次第に軽視され、やがては別の国だと切り離された。それがのちのオーソクレースである。


 さらに時が経つにつれ……聖女への感謝は薄れ、王侯貴族の増長が強まっていくことは、まだ誰も知る由もなく。


────────────────────────────────


 現在。


 聖女はいなくなり、結界は弱まった。


 アルミナ王国、そしてエメリー平原は次第に本来の姿を取り戻す。


 悪しきものが……王国へと、迫りくるのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 金の鶏(ガチョウだったかな?)の寓話を読んでいるようで、なんだか楽しいお噺ですね。 こういうの大好きです。 [気になる点] 王国の名前が “アルミナ” これは我々の世界では “酸化アルミ”…
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