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第17話 仕事と対価

 お互いに立場を明かし、打ち解け合った私とフェルド。

 

「それで、なんでアルミナ王国の聖女たる君がアルミナを出ているんだい? オーソクレースへの移住も考慮していると言っていたけど……理由を聞いても?」

「それがですね!」


 聖女だとバレたことだし、いっそ洗いざらい話してしまおう。ちょうど頭に思い浮かんだのもあり、私は半ば衝動的に、自分が追放された経緯をフェルドにぶちまけた。


────────────────────────────────


「な……なんと身勝手かつ、短絡的で不躾なんだ……!」

「そうなんですよ! ほんとあの王ったら」

「君と少し過ごしただけの僕でも、君が立場にかまけて贅沢三昧なんてするような人間じゃないのはすぐわかる。なのにアルミナ王は……正直、呆れるね」

「そうでしょうそうでしょう!」


 私が抱えてきた鬱憤を理解してもらえて、かなり胸の空く気分だった。品は悪いけど、やっぱり愚痴を聞いてもらえるとスッキリする。まあ隣国の第一王子に愚痴を聞いてもらうってある意味では贅沢かもしれないが。


「じゃあ君は、アルミナに戻る気はないんだね?」

「ありません! むしろ下手に戻れば今度は殺されちゃいますよ」

「たしかにそうだね、追放というのもほとんど死罪のつもりだったんだろうし……国を守ってきた聖女になんて仕打ちだ」

「まったくです!」

「長い間聖女に国を守ってもらい、それが当たり前になって、感謝を忘れてしまったんだろうね。本来なら王族が率先して儀礼など感謝を忘れないための仕組みを作り上げるべきなんだが……」


 あの王族にそんな知恵はない。断言できる。


「しかしジュリーナ、いいのかい?」

「え? いいって?」

「そういう経緯なら、もう聖女としての仕事に嫌気がさしたとか……」

「ん~まあそういうのもなくはないですけど、使える力を使わないのはもったいないですし、そんなに気にしてないです。オーソクレースに置いてもらえるんですもの、ちゃんとその分は働かないと」


 私自身、恩知らずにはなりたくないものね。


「君は軽快だね、ほんと。そう言ってもらえて安心したよ」


 フェルドはそう言って笑っていた。


「それで私の仕事は、やっぱり結界ですか? 『紅の宝玉』はいただきますけど」

「いやそれは難しいと思う、『紅の宝玉』をアルミナと奪い合う形になりかねないし、アルミナと違って後進の聖女を育てるノウハウもないからその場しのぎにしかならないしね。アルミナ王と同じことを言うようで癪だけれど、『紅の宝玉』が高価なのもまた事実だ」

「それもそうですね」


 フェルドはさすがに大局が見えている、さすがだ。


「ではどんな仕事を?」

「基本的には普通の宝石術師として、『紅の宝玉』を使った治癒の仕事かな。あとはオーソクレースにやってくる商人の馬車に魔物除けの加護を与えたりとかね。ま、宝石術師の力が求められるほどの案件はそう多くないと思うから、気楽に構えていいと思うよ」


 それを聞いて安心した、そんな仕事だったら私なら朝飯前にこなせる。緻密な魔力操作を要する結界の維持に比べれば楽々だ。


「でも……ひとつだけ、大きな仕事を頼むことになると思う。これは君じゃなきゃ解決できない仕事だ」


 おそらくそちらが本命だろう、フェルドがさっきも言っていた、オーソクレースの置かれた状況とやらに関係することだ。


「もちろんその対価は……」

「みなまで言わずとも大丈夫ですわ、フェルド。私たちの仲じゃないですか」

「ジュリーナ……それもそうだね、いちいち確認するのも他人行儀だ。君も遠慮せず、欲しいものがあったらなんでも言うんだよ」

「それはもちろん!」


 じゃあそういうことなら、ひとつ要求させてもらおうか。


「でしたらその仕事を終えた暁には、『紅の宝玉』のネックレスが欲しいですね。小さいものでいいので」

「お安い御用だ、それはやはり宝石の聖女として?」

「ええ、先代聖女様の教えで、常にひとつは宝玉を身につけよ、と。今はそれがないので、どうも心もとなくて……」


 ともすれば(それこそアルミナなら)早速宝石を要求して贅沢ものめ、と言われかねないが、フェルドになら安心して切り出せた。


「わかった、でもそういうことなら仕事の対価ではなく、すぐにでも用意するよ」

「え? いえでもやはり仕事と対価の関係で……」

「じゃあ前払いとでもしておこうか、もちろん終わった後の報酬は別としてね」

「そ、そこまでいただくわけには」

「君は対価について聞かなかったんだから、どれくらいの対価を用意するかは僕の自由だろう?」


 これはフェルドの方が一枚上手だ。敵わないなあ。


「わかりました、いただきましょう」


 条件を吞み込んだ。ただし私にとって良い条件を。第一王子相手だというのに、まるで友達同士と約束をするような気楽さだった。


「その仕事についてだけど……おっとごめん、先に済まさなきゃいけないことがあるな」

「といいますと?」

「実は視察の報告をまだ正式にはしてないんだ。君と離れた時は簡易的に帰還を伝えただけでね、これから父上に報告に行かなくちゃならない」


 フェルドの父上……つまり国王陛下への報告というわけか。これはたしかに放っておけない用事だ。


「君と話すのが楽しくてね、ついつい時間を忘れてしまったよ」


 こういうことをしれっと言うんだからこの王子様は……悪い気はしないけどね。


 が、その次の言葉は、さすがに耳を疑った。


「よければ、君も父上に会ってくれないかい?」

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界の聖女はよくわからんパワー持ってる存在ではなくて魔術師のなかでも特別優秀なものに任せられる役職っぽいのに、魔術師に確認すらとらずに決めつけたのはほんと短絡的ですよねー 王子が報告にい…
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