第14話 フェルドの正体
私たちは宝石店を後にした。宝石店の店員はフェルドがいたこともありずっとペコペコしていた、いい気味だ。あらためて私にも謝罪させたし、すっと胸の空く気持ちだった。
「見事な審美眼だったね、流石だ」
「いえいえ、フェルド様の対応あってこそですわ」
私には偽物だとわかっていたがそれを証明する術がなかった。偽物と証明できたのはフェルドが私を信じて、宝玉を割ってみるという手段をとってくれたおかげだ。もし私が間違っていて宝玉が本物だったら、フェルドは大金を払わされた上に大恥をかいただろうに……
私のことをそこまで信頼してくれるなんて。自然と、私もその信頼に応えたいと思い始めていた。
「あの店に関しては後であらためて調査させる、鑑定士や仕入れ業者も含めてね。はたして諸悪の根源は店か、それとも……」
店にあった他の宝玉を在庫も含めて確認させてもらったが、そこにもちらほら偽物が混ざっていた。
「鑑定士が贋作を見抜けなかったのも問題だが……贋作を流そうとした者がいる方がより問題だ」
「そうですね……」
あの偽物の『紅の宝玉』、偽物ではあるが見事な出来だった。宝石の聖女である私でなければまず見抜けないような偽装精度の偽宝玉を作った者がいるということだ。
店員も態度こそ腹立たしかったが、客を騙して偽物を売りつけようとしていたというより、その偽物に騙された被害者といった形だ。店ぐるみで贋作で儲けようとしていただけなら、あんな精巧な偽物を用意する必要はないのだから。
「もしあれらが相応の額を持って貴族などに販売され、その後に偽物と発覚したら……大問題だっただろうね。それを未然に防げたのはジュリーナのおかげだ、ありがとう」
「いえいえそんな、何も考えず思ったことを指摘しただけで……恐縮です」
ともあれ偽物を見抜いたのは結果的に良い結果を招いたようで、嬉しい限り。フェルドに褒められて悪い気はしなかった。
「ところでフェルド様、私に伝えたいことって?」
フェルドは私に伝え忘れたことがあると言って戻ってきたはずだ。
「そうそう、それなんだけど……イン・クルージョエルナ……もとい、クルのことだ」
「クルですか?」
『キュー?』
「ああ、カーバンクルは幻の生き物だから、あまり人目につくのは考えものだ。盗んだりしようとする輩がいないとは限らないからね。そこを注意しようと思ったんだ」
「あ、そうだったんですね。じゃあクル、ちょっと隠れててね」
『キュ~』
ちょんと指で頭を押すと、クルはポケットの中に引っ込んだ。不思議とクルとは意思疎通ができている気がする。
「何度も言うけどカーバンクルは幻の生き物なんだよ? 君がそんなに軽いのが不思議なくらいだ」
「んーでも、可愛い生き物だなっていうのが先に来ちゃって。今はもう家族みたいなものですしね」
キュッ、と、ポケットの中からクルが返事した。
「ふふっ、そういう軽快なところ、君の美点だね。それじゃあ僕は用事に戻るよ、そう時間はかからないから、宿で待っていてくれると嬉しいな」
「はい、わかりました!」
フェルドは去っていった。
私も言われた通り宿に戻ることにする。宝石店での一件もフェルドが戻ってこなければどうなっていたかわからないし、これ以上彼に迷惑をかけるのも考え物だ。クルのこともあるし。
少し鬱憤も晴れたことだし、宿でクルと遊びながら待つことにしよう。
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フェルドは約束通りわりとすぐに戻ってきてくれた。時間にして30分くらいだ。
用事ってなんだったんですか? と聞いたが「ちょっとした調べものだよ」としか答えてくれなかった。まあ、貴族には色々あるのだろう。
「それで、これからどこへ?」
「ああ、君が住むところの候補がひとつあってね。紹介したいんだ」
「ぜひお願いします! でもその、あまり立派なところじゃなくていいですからね? お家賃も払えるかわかりませんし……」
「宝石術師ならいくらでも仕事はあるさ、君がやりたいかどうかが一番大事だけど」
貴族感覚のフェルドが紹介する住まいというのは少し心配だったが、ひとまず案内してもらおう。
またフェルドと共に馬車に乗って目的地へ。すっかり打ち解けた私たちは、オーソクレースという国を紹介してもらいつつ、談笑をしながら過ごした。
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だが、そうして着いた目的地というのは。
「あの~フェルド様……ここって……」
「ああ、オーソクレース王城だ」
ほかならぬこの国の中心、王の住まう王城。あの、住まいを紹介するって話でしたよね?
私はそう言ったのだが……
「もちろんそのつもりだよ。部屋はたくさん余ってることだしね」
いやそういう話ではなく! 慌てる私に対し、フェルドは悪戯っぽく笑って見せた。
「騙すようにして悪かった。でもこの方が余計なプレッシャーもなくここまで来てもらえると思ったんだ」
フェルドはそう言って私と正対する。そして優雅な所作で、一礼。
「あらためて名乗らせてもらおう。フェルド・オーソクレース、この国の第一王子だ」
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