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【書籍化】学園の姫攻略始めたら修羅場になってた件  作者: かわいさん
第2章

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第16話 余裕の妖精と姫王子との約束

 さて、どうしたものか。


 帰宅した俺は自室で悶々としていた。

 

 風間との接触からもデートは続いたが、明らかに月姫の様子がおかしかった。心ここにあらずといった感じだ。表向きは元気そうに振舞っていたが、それが演技なのはよくわかった。

 

 しかし、それ以上に俺のほうが平常心を失っていた。


 人生で初めて告白された。


 それだけでも動揺は最大限なのに、相手はトップクラスの美少女だ。風間は意識してほしいと言っていたが、あの告白から意識しまくりだった。


 自分で言うのはアレだが、俺はチョロい奴だ。中学時代にはちょっと優しくされただけで惚れてしまったからな。今も根っこの部分は変わっていない。デートしている最中も頭の中は風間一色に染まっていた。


 結局、月姫とは約束していた買い物をして別れた。特に進展とかはなかった。


 ふわふわした気持ちのまま帰宅した俺はしばし放心状態だったが、我に返ると文句を言うために彩音の部屋に向かった。


 だが、彩音の奴は部屋から出てこなかった。


 無理に入ろうとしたら両親に助けを求めたので渋々部屋に引き返した。そして、今の状況に繋がっている。

 

「……確実に裏で取引したよな」


 それはわかってる。

 

 ただ、姫攻略のことまで話したのは意外すぎた。あれを知られると彩音的にもまずいはずだ。あいつは何故言ってしまったのだろう。


 意図がわからない。


 愚かな妹について数分考えたが、時間の無駄だった。あいつの思考など俺にはわからない。それよりも今は重要なことがある。


「本気だよな?」


 風間からの告白は本気だったのだろうか。


 隣の席の男子を惚れさせる遊びの延長ではないか、と今でもちょっと疑っている。あるいはドッキリではないかとも思っている。


 ただ、惚れさせる遊びなのに自分から告白はしないよな。それは意味がない。


 それに嘘告とかするメリットがない。いくらプライドが刺激されたとはいえ、そんなアホなことはしないだろう。そもそも風間は俺が姫攻略という卑劣な行いをしている事実を知っている。あの時の仕返しなら全部暴露して終わりでいいはずだしな。


 ……ってことは、本気か。


 これで姫攻略は終わりだ。正確には、いつでも終われる状況になったというべきだ。


 本来なら喜ぶべきだが、そうはならない。


 風間から言われたことが頭の中に残っている。


『いくら身を守るためだからって酷い男。本気になった子もいるみたいだし、罪作りだよ。もし、複数人を口説けちゃったらどうなるか考えたことあるの?』


 その通りだ。


 姫攻略は終わりかもしれないが、俺の生活が終わるわけじゃない。


 俺は考えていなかったのだ。何度もその可能性を考えようとして、いつも逃げていた。後でどうにかなるだろうと先延ばしにしていた。


 姫を攻略した先にあるのは元の引きこもり生活ではない。


 失敗すれば地獄の生活だ。恥ずかしい長文投げ銭が晒され、馬鹿にされる地獄みたいな生活。くすくすと笑い声が絶えない生活。


 成功すれば口説いた姫との生活が待っている。具体的にいえば仲良く手を繋いで歩いたり、一緒にお弁当を食べたり、互いの肉体をタッチしたりとかそういう感じだ。


 当たり前のことなのに俺はこれまで”その後”を考慮してこなかった。風間からぶつけられた言葉でようやくそこに向き合うことができた。


 我ながら最低だわ。


 その後、俺はずっと部屋で悶々としていた。気付けば日付が変わり、結局眠ったのは明け方になったからだった。


 ◇


「おはよう、神原君」


 翌日、登校した俺に風間が挨拶してきた。


 そこで改めて顔を見る。


 整かった顔立ちに、笑顔の隙間からちらりと見える八重歯。チャームポイントであるゆるふわウェーブヘアは妖精の印象を加速させる。


 このレベルの女子が俺を好き?


「お、おはようっ!」


 テンパりすぎて声が裏返ってしまった。


 明らかに動揺している俺を見て風間はくすくすと笑っている。我ながら情けないぜ。


「文化祭が楽しみだね」

「っ」


 からかうような言葉にドキッとした。


 姫ヶ咲学園の文化祭である「姫ヶ咲祭」は毎年11月に行われる。今年は中旬の土日に行われる予定だ。


 大丈夫だ、まだ時間はある。


「その様子だと意識してくれたみたいだね」

「……ばっちりとは。おかげでこっちは寝不足だ」

「良かった。これで意識してくれなかったら私は自分の魅力のなさにがっかりして寝込むところだったよ」


 どこまで本気で言っているのやら。


 魅力がないわけない。友達が多くて、社交的で、可愛くて、俺とは正反対に位置するような相手だ。


 多くの男子は風間に魅了され、多くの女子が彼女との繋がりを求めている。誰が見ても魅力の塊じゃねえか。

 

「文化祭までに頑張って落とすからね」


 リミットは文化祭。


 風間がここを期限にした理由はわかりやすい。

 

 文化祭の後に行われるイベントこそ姫ヶ咲総選挙である。イベントと言ってもこっちは非公式だけどさ。


 総選挙の投票は文化祭の翌日から開始される。でもって、期末テストの後に新聞部が発表するという流れだ。


 文化祭が期限なのは風間と繋がっている彩音の提案だろう。確かに文化祭くらいで白黒つけないとその後がやりにくい。

 

 その後とは情報の流布である。


 付き合ったことをあちこちに触れて回り、積極的に評判を落とす。これをして初めて彩音が姫に就任できる。


「で、彩音とはどんなやり取りをしたんだ?」


 尋ねると、風間は小首を傾げた。


「本人から聞いてないの?」

「無視された」

「それは残念だったね」

「風間から聞かせてはくれないのか?」

「誠意を持ってお話しただけだよ」


 誠意を持って話だと。あの性悪妹がそれで姫攻略のことまで教えるものかね。ありえないね。絶対何かあったはずだ。


 などと考えていたら、足音と共にある人物が教室にやってきた。


「おはよう、神原君」


 正体は不知火だった。


「……おはよう」

「早速だけど、月姫とのデートはどうだった?」

 

 またそれか。そこまでデートの内容が気になるかね。別に不知火が気にすることではないと思うのだが。


「悪いが、よく覚えてないんだ」

「覚えてない。それはどういう意味だい?」

 

 衝撃的な告白のせいでデートの記憶は薄れてしまった。


 告白といえば、山田はどうなったのだろうな。

 

 気になって山田のほうを見るが、まだ登校していなかった。いつもは早い時間に登校するのに変だな。

 

「ふふふっ、状況は変わってるってことだよ。不知火さん」


 風間が会話に入ってきた。


「……幸奈?」

「今の神原君は私のことで手一杯だからね。しょうがないよ」

「それはどういう意味だい?」


 問いに風間は余裕の笑顔で答える。 


「私が告ったからだよ」

「なっ」


 不知火はわかりやすく狼狽した。


「え、告ったって……つまり告白をしたという意味かいっ?」

「そだよ。好きなら告るでしょ」

「……」

「自分の気持ちを伝えないと恋人にはなれないからね。私は素直に気持ちをぶつけただけだよ。おかしいかな?」


 サラッと言ったな。


 普通といえば普通だな。好きだから告白した。そこには論とかない。当たり前のことをしただけだ。


 ただ、それを隣で聞かされた俺はちょっと照れた。

 

「か、神原君の返事は?」

「今は返事待ち。文化祭で貰う予定だから」

「文化祭?」

「そっ。いきなり選べって言っても困っちゃうでしょ。それに、昨日のままだったら私に勝ち目なさそうだったし」


 突然の事態にうろたえていた不知火だったが、自分を落ち着けるように大きく息を吐いた。


「意外だったよ。口火を切ったのは幸奈だったか。これは僕もうかうかしていられないね。よし、心が決まったよ」


 そう言った不知火は俺の方を向いた。


「神原君、今日の不死鳥フェニの生放送は絶対にリアルタイムで見てほしい」

「え、あ、おう」

「約束だよ。それじゃ」

 

 そう残し、不知火は足早に教室に戻っていった。


 ……あれ、今日生放送の予定とかあったっけ?

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