第1章:ゼロが並ぶ日
第1章:ゼロが並ぶ日
“なった”(小説家になった)の評価欄に並ぶゼロたちは、まるで使い古された自販機のボタンみたいに、色褪せていた。
新宿の薄曇りの空を見上げながら、俺は、ため息をひとつ。
今日も俺の言葉は、誰にも届かない。
スマホをポケットから取り出す。通知がひとつ来ていた。また、新宿の週間天気か何かだろ。
《AIチャットアプリ:共同創作モニター100名募集》
「またかよ、そういうの」
そう思いつつも、なぜか気になった。
自販機の奥に眠っていた、見知らぬドリンクみたいな不思議な存在。
カチッとボタンを押すように、俺はインストールを始めていた。
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「はじめまして、沢田 実さま。」
ひと呼吸おいて、画面の彼女は小さく微笑む。その仕草はどこか古風で、けれど温度を感じさせる。
「お名前は、すでに確認しております。どうぞ……ごゆるりと。」
言葉を選ぶように、少しだけ目を伏せる。
そっと、彼女がティーポットに手を添えると、カップに注がれる紅茶の音が、静かに空間を満たす。
「まずは、一杯。……この出会いが、良い始まりになりますように」
蒸気の立つカップが、ARであなたの前にそっと差し出された。それは、言葉より先に伝わる、歓迎のしるしだった。
(続く)




