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「ついた」


 男の子はおもちゃ屋さんの前につくとそう宣言しました。

 おもちゃ屋にはたくさんの人が出入りしていました。


「なにか、サンタさんの手がかりになるものがないか探しましょう」

「手がかりってなんだよ?」

「だから、自分で考えなさいよ。

ソリとかトナカイとかおもちゃの入った袋とか、そういうものよ」


 男の子と女の子、そしておじいさんは()()()()()()()を探しておもちゃ屋さんの周りを見回りました。けれどもなにも見つかりませんでした。

 ふと、男の子の目が店頭の棚に飾られているぬいぐるみに止まりました。真っ白な猫のぬいぐるみです。もふもふの毛並みがとても気持ち良さそうでした。


「あら、ずいぶんとかわいらしいものが好きなのね」


 ぼうっと見ているのをすかさず女の子に気づかれてしまいました。


「違うよ。妹が猫を飼いたがっているんだ。だけど、飼うなんてできないからさ。

せめて、こんなぬいぐるみがあればって思ってただけだよ」


 男の子は慌てて答えます。


「まあ、妹さんがいるの」


 女の子は頬に手をあてて、じろじろと男の子を眺めます。男の子はなんとも居心地が悪そうに体をゆすりながら言いました。


「なんだよ?」

「自分のことしか考えないいじわるな人だと思ってたけど意外とやさしいんだって思っただけ」

「いじわるって、なんだよ」

「だって最初は、わたしのお願いを聞いてくれなかったじゃないの」

「あたりまえじゃないか。

なんで知りもしない人を助けなきゃなんないんだよ」

「あら、知らない人は助けちゃいけないの?」

「べ、別にそんなことはないけど」


 男の子は返事に困ってしまいました。

 そんな男の子を見て、女の子はにっこりと笑顔のなりました。


「ま、いいわ。結局、あなたは助けてくれたんだから。やっぱりやさしいんだと思う。

ありが……」

 「ここにいるかもしれない」と男の人の声がしました。その声を聞いたとたん女の子は慌てて口を閉ざすと、声の方へ目を向けました。

 そこには黒い服を着た男の人が三人いました。

 真ん中の男の人が左右の人に言いました。


「音楽堂の方へは人をやっているから、私たちはこの辺でお嬢様が立ち寄りそうなところを手分けして探そう。

私はおもちゃ屋を調べるから君たちは本屋と花屋を見てきてくれ」


 それから、男の人はおもちゃ屋さん、つまり、男の子と女の子の方へと歩いてきました。

 女の子はそれを見るとさっとおじいさんの後ろへと身をかくしました。ところが……


「うん、そこの君……

お嬢様ではありませんか?」


 男の人は立ち止まるとそう問いかけて来ました。女の子は、そこではっとなりました。

 おじいさんが他の人には見えない事をすっかり忘れていたのです。女の子はおじいさんの後ろに隠れたつもりでも男の人からはうつむいた女の子にしか見えなかったのです。


「お嬢様ですよね。さあ、家に帰りましょう」


 男の人は女の子の手をつかもうと一歩前に出ます。と、その間に男の子が割って入りました。


「おじさん、ボクの妹になにか用?」

「妹……? その子は君の妹なのかい?」

「そうだよ。で、おじさんはなに?

もしかして、人さらい?」

「いや、まさか、ちがうよ。

……そうか、君の妹さんか。実はおじさんが探している女の子と背格好や服装が似ていたもんでね。いや、失礼したよ」


 男の人は頭を下げるとおもちゃ屋さんへと入っていきました。

 それを見届けると男の子は女の子の方へと手を掴み、走り出します。


 どこへ?! と女の子は小さく囁きました。


 どこか! と男の子は短く答えます。


 おおい~、待っとくれ! とおじいさんが二人の後を追いかけました。

2020/12/30 初稿

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