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「このじいさんがサンタクロースだって?」
男の子は大きな声をあげました。
「なんでサンタクロースがこんな汚い格好で街をうろつくなんてことになるんだよ!」
「知らないわよ!
なんであなたはわたしがそんなことを知ってるなんて思うわけ?
きっと、なにかあったのよ。例えば交通事故とか」
「交通事故? サンタが? 空飛ぶソリに乗ってるんだよ」
「だから、知らないって言ってるでしょ。
最近は空も混雑してるからぶつかったりしても不思議じゃないわ」
「……そうだ! ソリとかはどこにあるんだ?」
「し、ら、な、い !!
人にばかり聞いてないで少しは自分で考えなさい」
女の子は腕を組んでプイッと横を向いてしまいました。男の子も頬を膨らませて女の子を睨みつけます。
「まあ、まあ、二人とも仲良くしないといけないよ」
「「おじいさんのせいよ!」だろ!」
女の子と男の子はおじいさんに向かって大きな声で言いました。
「おお、これはすまない……」
おじいさんは申し訳なさそうに肩を落としました。それ見てすぐに二人は少しは可哀想なことをしたと反省しました。なにが起きたのかは分かりませんがおじいさんには罪はあるようには思えません。
「とにかく、他の手がかりを探さなくっちゃ」と、女の子は言いました。
「なあ、じいさん。なにか他に思い出せないのかい?」
「う~ん、気づいたらそこに寝ていたぐらいしか思い出せないのじゃよ。なにか大切なことをしておった気がするのだがの」
「大切なことって?」
男の子の問いにおじいさんはやはり首を横にふりました。しかし、代わりに女の子が元気良く答えました。
「サンタさんの大切なことっていえばプレゼントを配ることに決まってるじゃない」
「プレゼントを配るだって?」
男の子はあきれたように叫びました。そして、念を押すようにもう一度繰り返しました。
「サンタがプレゼントを配るなんて、まさか、まだ、そんな嘘っぱちを信じているのかい?」
男の子はさっきおじいさんを見たように女の子を上から下までじろじろと見ました。そして、着ている服は高そうだけど年は自分とそんなに変わらない、と心の中で思いました。
「やめてよ。じろじろ見ないで!」
「いや、まだサンタがプレゼントを配ってるなんて信じてる小さな子供なのかと思っただけだよ」
「わ、わたしだってサンタさんが配ってるなんて思ってないわよ!
パパやママが夜寝ている間にこっそりおいてくれてるって知ってるわ。
でも、サンタさんが本当に居るなら、配ってるかも知れないじゃないの!
そうよ。わたしのところはパパやママが用意してくれるけど、そうじゃない家はサンタさんが配ってるかもしれないわ」
「これだからお嬢様ってやつはさ……」
男の子は小さくため息をつくとやれやれと首をふります。
「サンタクロースがプレゼントなんて配ってくれるなん嘘っぱちさ!
君の言うそうじゃない家ってのにはプレゼントなんかないのさ。
ボクの家は君のいうそうじゃない家だけどさ、サンタなんか来たことなんか一度もないよ」
男の子の言葉に女の子はだまってしまいました。
さて、と男の子は考えます。
もしも、このおじいさんが本当にサンタクロースだとしたら、サンタクロースというのはなにをしているのだろうか? と思いました。
もしかしたら、自分が知らないだけで、女の子が言うように貧しい家にプレゼントを届けているのかも知れません。だとしたらなぜ自分の家には来てくれないのだろうと思いもしました。
そんなの不公平じゃないか!
男の子は心の中で叫びました。そして、女の子に言いました。
「いいさ。このじいさんが本当にサンタクロースかどうか確かめようよ。
ボクはサンタクロースに聞きたい事があるんだ」
2020/12/30 初稿




