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「ちぇっ! こんな変なじいさんなら最初からそう言ってくれよ」
男の子は口をとがらせて文句を言いました。
「なによ、説明するよりも前にさっさとどこかへ行っちゃったじゃないの。
なのに、なにしに戻ってきたの?」
女の子も負けてはいません。腕組みをして、プイッと横を向いてしまいます。それが余計に男の子をイライラさせました。
「なにしに来たって、困ってないかと思って来てやったんじゃないか!」
「あら、わたしが助けてって言った時には助けてくれなかったじゃないの。それを今さら助けに来てやったなんて言われてもね!
おあいにくさま。間に合ってますわ」
男の子は女の子をにらみつけましたがすぐにニヤリと口を緩めました。
「へぇー、じゃあ、このじいさんがだれだか分かったんだ」
「えっ?!」
予想外の反撃に女の子は戸惑いました。それを見て、男の子はフンと鼻で息を吐きます。
「名前はなんていうのさ?」
「そ、それは……まだ、分からないけど」
「なんだ、分からないんだ。
でもさ、手助けなんていらないなんて言うからには、なにか手がかりを見つけたんだよね」
「て、手がかり? そうよ。ウン。見つけたわ。だからおじいさんがだれなのかなんてすぐ分かるわ!」
「なるほど、その手がかりを見せてみてよ」
「えっ? 手がかりを見たいですって?
な、な、なんでよ」
「もしかしたらなにか分かるかもしれないだろ。だから見せてよ。それとも、手がかりがあるなんてデタラメなのかい?」
「あるわよ。デタラメじゃないわ」
「じゃあ、見せてよ」
「い、いいわよ。手がかりよね……
えっと、て、手がかりはこれよ!」
女の子は手に持っていた物を思わず突きだしました。
「サンタクロースの帽子?」
男の子はびっくりしたように言いました。でも、びっくりしたのは女の子も同じでした。もしかしたら、女の子のほうが驚いたかもしれません。
「サンタさんの帽子ですって?!」
女の子は手にしていた帽子を改めて見てみました。真っ赤で、三角錘の形。かぶるところはもふもふの白い綿毛で縁取られています。それはまさしくサンタクロースがかぶっている帽子そのものでした。
「あっ、そうか。サンタさんの帽子だ」
女の子はなんでも今まで気づかなかったの不思議そうに言いました。
と、男の子が大きな声で笑いだしました。
「あははは。こいつはいいや。
このじいさんがサンタクロースだって言うの?」
男の子はおじいさんを上から下までじろじろと見ました。汚れた服とブーツ。ひげは長くて立派でしたがやっぱり泥が所々にこびりついていました。どう見たってサンタクロースとは思いません。
「ねえ、じいさん。あんた、本当にサンタクロースなのかい?」
「……サンタクロースってのはなにかの?」
おじいさんの答えに男の子は、やっぱりね、という表情で女の子を見ました。
「違うっていってるよ」
「いいえ、いいえ! 違うわ」
女の子は首をぶんぶんと横に振り、言いました。
「ねぇ、おじいさん。あれがなんだか分かる?」
女の子は近くにあったブランコを指さしました。おじいさんは不思議そうに首を傾けると答えました。
「うん……? ブランコじゃな」
「そうよ。じゃあ、あれは?」
「すべり台かの」
「合ってるわ。じゃあね……」
その時、どこからか刻を告げる鐘の音が聞こえてきました。
「じゃあ、この音を出しているのはなに?」
「ふ~~~む。鐘の音かの。どこかに教会があるようじゃ」
「そうそう! 正解よ」
女の子は嬉しそうに手を叩きました。そして、男の子の方に向き直り、ねっ、分かったでしょ、と言いました。しかし、男の子にはなにがなんだか分かりません。
「なにが分かったって言うんだよ」
男の子はムッとした顔で言いました。
「いい、おじいさんはなにもかも忘れちゃったんじゃないの。自分の事だけを忘れてるの。
で、さっきおじいさんは、自分はサンタクロースではない、なんて言ってないわ!
サンタクロースってなにか? って言ったのよ。
名前だってことも知らない感じだった。
サンタさんなんて小さな子供だって知ってるわ。
それを知らない、なんてそんなの考えられない。もし本当に知らないんだとしたら……
つまり、ね。
おじいさん自身がサンタクロースだから、自分のことを、サンタクロースのことをすっかり忘れちゃったのよ」
あまりに突飛な考えに、男の子は口をあんぐりと開けて、固まってしまいました。しばらくしてからようやく声を出すことができたぐらいです。
「そんな事ってあるのか?」
「あるわよ!
それならおじいさんが他の人に見えなくても不思議じゃないわ。
だってサンタクロースなんですもの!!」
2020/12/30 初稿




