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「あんた、なんでこんなところにいるんだい?」


 懐中電灯の光の中から警備員の服を着た人が現れました。女の人の声でした。


「母さん……」


 男の子は驚いたように呟きました。その呟きに女の子も驚きました。


「この人、あなたのママなの?」


 男の子はコクリとうなづきました。


「そうだよ。ボクの母さんだよ。

母さん、なんでこんなところにいるの?」

「私は見回りだよ。

母さんは今夜、音楽会の警備の仕事で遅くなるって言ったでしょう。

それより、あんたこそなんでこんなところにいるの。妹の世話はどうしたの?

まさか、妹を一人ほっぽり出して遊び歩いてるんじゃないでしょうね!」

「そんなんじゃないよ」

「だったらなんだって言うの?」

「それはつまり……その……」

 

 男の子は言葉につまりました。女の子が言いました。


「ねえ、妹さんを一人にしてるってどう言うこと?」

「だれだい、その女の子は?」


 男の子はお母さんと女の子に同時に質問され、どちらに先に答えれば良いか迷ってしまいました。


「どう言うこと? 妹さんはお母さんと一緒じゃないの?」


 女の子はじれったそうに質問しました。男の子は口を開きましたが、答えたのは男の子のお母さんでした。


「そんなわけあるかい。この子の母親は私よ。この子は、自分の妹を一人にしてあんたと遊び歩いているんだよ。

この悪ガキどもが!」

「えっ、嘘。そんなのわたし、聞いてない。

なんで妹さん一人なの?

パパとかと一緒じゃないの」

「おあいにく様だね。私の亭主、この子達の父親は何年も前にあの世に行っちまったのさ。

だから、私がこうして働いてる。

さあ、あんたはこっちに来な。さっさと家に帰って妹の面倒をみるんだよ」


 男の子のお母さんは男の子の手をぐいっと引っ張りました。


「ちょっと、待ってよ。ボクはまだやることがあるんだよ」


 男の子の必死に抵抗しました。

 女の子に助けを求めるように掴まれていないほうの手を伸ばします。ところが女の子は両手を自分の脇の下に固くしまうとふるふると首を横に振りました。


「嘘よ。信じられない。なんで妹さんを一人にできるの」

 

 女の子の言葉に男の子の動きがぴたりと止まりました。


「なんでって、君が手伝ってくれっていったからだろ?」

「あんたがそんなひどい事してるって知ってたら頼まなかったわ!」

「なんだよ、それ。

ひどい事してるってなんだよ!」

「だってそうでしょ!

妹さんを一人にしてるんでしょ?

妹さん、きっと寂しい思いをしてる。それ、ひどいことじゃない!」


 伸ばした手が力なく下がりました。少し震えていたようでした。


「なんだよ。自分勝手なことばかり言って。

君だって自分の事しか考えてないじゃないか!

なにが寂しいってんだよ!

クリスマスを父さんや母さんとすごせないのは君だけじゃない!

自分だけが不幸なんて思ってんじゃないよ!」

「あんたなんか、最低よ」


 女の子は男の子から離れようと後ずさりました。けれど、すぐに背中になにかがぶつかりました。驚いて振り向くと、そこにはおもちゃ屋さんにいた黒いスーツの男の人が立っていました。


「ああ、ようやく見つけましたよ。お嬢様」

2020/12/30 初稿

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